鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百五拾六話 乱が起こってしまいましたが何か! その七

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鎮守府での海兵と海賊との攻防は、強襲に成功した海賊側優位に推移していた。
モーヴィの命により一足先にレヴィアタン街へと戻って来ていたドーファンの指揮により、鎮守府の門は突破されてしまったものの、防壁を築き徹底した防戦を続けていた。
そんな鎮守府での攻防に動きが出たのは東の海に陽が上り、通常ならばレヴィアタン街に店を構える各商店が商いの為に店先を開き、呼び込みの声が街路のあちこちから聞こえてくる時刻になりつつある頃合だった。
 鎮守府に数人の供を連れ姿を現したレヴィアタン街領主ファレナがドーファンより海兵の指揮を交替した途端、ファレナは鎮守府の屋根の上にその姿を曝すと、海兵に向けて『攻勢』へと檄を飛ばした。
その檄に呼応し、海竜人族と思われる徒手空拳の一団を先頭に、武具を手にする魚人族や妖獣人族が一斉に鎮守府の入口にたむろしていた海賊を蹴散らし、後詰として鎮守府前に布陣していた海賊たちに襲い掛かった。
強襲に成功し鎮守府内へと海兵を後退させていた海賊たちは、もう間もなく鎮守府を攻め落としてレヴィアタン街へ攻め入る事が出来ると戦勝気分に高揚していたため、
突然、海兵が防戦から攻勢に転じたため浮き足立つ。そんな海賊たちに鎮守府強襲の一番手を担った海賊船の船長ニーシュが細身の直剣を手に陣頭指揮に立ち、海賊たちに喝を入れる事で浮き足立っていた海賊たちを再び纏め上げた。
とは言え、それまで防戦一方だった海兵からの攻勢に海賊たちの損害は時と共に増大して行った。

 その最中、沖合から一直線に港へ入港して来る鎮守船隊所属と思われる帆船ジャンク船が、鎮守府の前に停泊している海賊船の内、帆を広げて離岸しようとしている一隻の動きを制する様に舳先に突撃を掛け、激しい衝突音を響かせながら突き潰して勢いを減じながらそのまま岸壁に乗り上げた。
 レヴィアタン街の帆船ジャンク船が、激しい音と共に港の岸壁に乗り上げるという通常ではありえない光景を目の当たりにして、海賊も海兵も共に目を奪われてピタリと動きを止め、次ぎは何が起こるのだろうか?と港に乗り上げた帆船の様子を固唾を飲んで見つめていると、帆船から接舷攻撃を行う際に用いられる鉤付きの綱が甲板から投げ落とされたかと思うと、その綱を使い次々と武具を携えた海兵たちが岸壁に降り立ち、鬨の声を上げ海賊へと襲い掛かった。
 鎮守府から出て来た海兵と対峙しその猛攻を凌いでいた海賊たちだったが、背後からの突然の襲撃を受けて形勢は一気に海兵側優位に傾いて行った。

 元々、今回のレヴィアタン街襲撃はケルシュ海賊団中心に行われた物だったが、ケルシュ海賊団の首領トゥラバ・ティブロンは事前に他の海賊団にも、一丁事ある時には手を組んでレヴィアタン街を襲うと声を掛けていた。
その為、今回の襲撃にはケルシュ海賊団の他に二つの海賊団が参加していたが、この海賊団にはトゥラバ率いるケルシュ海賊団の様な『レヴィアタン街を我が物とする!』といった確固たる決意などある筈も無く、単に街への襲撃に参加し略奪を行いたいという打算から参加していたにすぎなかった。
その為、鎮守府内に押し込めていた筈の海兵が反転攻勢に出、それと呼応する様に海から突っ込んで来た帆船からの海兵の挟撃に、完全に戦意を喪失し我先にと岸壁に停泊してある自分達の海賊船へと走り出し、海賊側の戦線は一気に崩壊して行った。
その様子を甲板に残り事の推移を見守っていた俺とモーヴィだったが、

「ふん! 不利になったと分かった途端、海へと逃げようとは海賊のお手本のような行動だ。だが、ここまでやらかしておいて逃がすとでも思うたか!愚か者が!!」

我先にと戦線を離脱し停泊する海賊船へと走る者達を一喝する様に怒声を上げたモーヴィは、甲板から垂れ下がる綱を使い岸壁へと降り立つと、手に携えた長柄を短く切落とした眉尖刀(偃月刀などの大刀の一種)を高々と掲げ、臆病風に吹かれて逃げ出した海賊たちが乗り込み離岸しようとしている海賊船の船腹に振り降ろした。

『ズッ、ガッッキン!』

眉尖刀は海賊船の船腹を真一文字に喫水線よりも下まで斬り裂いたものの、両断までには至らず鈍い音を上げで刃が止まったかと思ったら、刀身の中程から甲高い音を響かせて折れてしまった。
それでも、モーヴィの斬撃によって斬られた海賊船には船腹に大きな亀裂が走り、その亀裂から海水が入り込んで見る見るうちに船が傾いてゆき座礁した。
海賊船を一隻航行不能にしたモーヴィの顔は大きな戦果を挙げたにも拘らず曇っていた。
まぁ、それも致し方ないだろう。海原で捕縛した海賊船との戦いの中で相棒としていた朴刀に続き、代替え品として手にした眉尖刀までたった一振りで破損させてしまったのだから。
刀身の中程から折れてしまった眉尖刀を苦虫を噛み潰したような表情で見つめるモーヴィとは裏腹に、好機到来とばかりにそれまで逃げる事ばかり考えていた海賊たちが踵を返してモーヴィへと武具を振り上げ襲い掛かる。が、モーヴィはそんな海賊たちを折れた眉尖刀でまるで煩い蠅を追い払うかのように軽く振り、眉尖刀の刀身側面を使って海へ払い落した。
そのあまりの光景に、再び海賊たちはもう一隻の海賊船へと我先にと逃げていった。俺は、折れた眉尖刀を見つめるモーヴィも元に歩み寄り、

「モーヴィ。そう気を落とすな。この騒ぎが収まったら約束通り頑丈な武具を一振り鍛えるから。
それよりも、まだもう一隻逃げ出そうとしているんだが、それはそのまま放置しておいていいか?」

モーヴィの肩に手を掛けて、そう声を掛けるとモーヴィは苦り顔を少し緩めて苦笑し、

「鍛冶師殿、やはり武具で船を斬ろうなどという大それたことは夢なのかのぉ・・・
は~ぁぁぁぁ。この場で逃がしてしまうと街を襲おうとした凶悪な海賊を再び海に放す事になるから、出来れば海賊船は船腹に穴でもあけて航行不能にし、この場で一網打尽にしたい所じゃが、他の海兵は既に戦っておってこちらに呼び戻している間に取り逃す事になるだろうし、儂はもう船に穴を掛けられるような武具は手元にないし・・・」

と悔しそうに奥歯を噛み締めていた。それはそんなモーヴィの肩を『ポン!』と軽く叩いて

「ちょっとコイツを持っていてくれ!」

と手にしていた太刀をモーヴィに向かって放ると、そのまま今まさに動き出そうとしている海賊船に向かって行った。
一人、歩み寄って行く俺に海賊船に乗り込み、今まさに岸を離れようとしていた海賊たちは初めは怪訝な表情を浮かべていたが、俺が手ぶらだと気づくと余裕が出たのか、

「なんだ?ヒョロイ野郎がのこのことやってきやがって、なんのつもりだぁ?」

「武具を持ったモーヴィの爺と同じ事でもしようってのか?手ぶらで、武具も持たずに??はぁっ、やれるもんならやってみな。良い見世物だぜ♪」

などと軽口を叩き海賊船の甲板から囃し立てて来た。俺はそんな海賊どもにニッコリと笑みを返し、海賊船の船腹の前に立つとゆっくりと呼吸を整えて、丹田で練り上げられた気を体中に循環させゆっくりと右手を船腹に添えると、シュバルツティーフェの森で一度は封印しようと業の封印を解く事にした。
体中を循環させ氣へと昇華させ、再び丹田に戻し準備を整えると

「すぅ~~っ。破ぁあ!」

裂帛の気合と共に左足を一歩踏み出し、震脚で生み出した力を足から腰から上半身、そして腕へと伝えると同時に、丹田に溜めて置いた氣も力と同時に腕へと伝え、氣と力を掌に凝縮させて一気に船腹へと解放させた。

「ドン! ズンッ・・・ボォッカァ~ン!!」

震脚による地響きに続き鈍器をぶつけたような鈍い音がしたと思ったら僅かの間の後に、強烈な破砕音と共に俺が掌を当てたのとは反対側の船腹が内側から破裂したように吹き飛んで大穴を開け、口を開いた大穴から海水が流れ込み海賊たちが状況を把握する暇も無く海賊船は転覆し、岸壁には竜骨を曝す海賊船と俺の震脚によって穿たれた蜘蛛の巣状の罅を伴った陥没が残された。

「ふぅ~。思った以上に上手く行ったか…どうしたんだ?」

転覆した海賊船から抜け出した海賊どもが、船を沈められた報復に来るのではと残心して様子を窺っていたのだが、海賊船から泳ぎ出て海賊どもは港の岸壁に辿り着き陸に上がろうと手を伸ばしたものの、岸壁の上で海賊たちの動きを無言のままジッと見つめている俺の姿を視認した途端凍りついたように動きを止めた後、まるで森の中で突然猛獣と遭遇した時、猛獣を刺激しない様にゆっくりと距離を置くかの如く岸壁に伸ばしていた手をゆっくりと戻すと、波音をなるべく立てない様にソロ~リソロ~リと立ち泳ぎの要領で岸壁から離れると、転覆して海底に帆柱と突き立てて座礁している海賊船へと戻ると海上に曝す船腹の上に這い登り、ひっくり返った海賊船の上に身を寄せ合い怯えたような顔で俺をみつめえると言う奇妙な光景が出現する事になった。
俺はそんな海賊たちの行動に首を傾げ、モーヴィの方へと顔を向けるとモーヴィは鳩が豆鉄砲を喰らった時の様な顔をし転覆した海賊船を見つめたまま硬直していたが、俺の視線が自身に向けられている事に気付くと、額から汗を滴らせ少しだけ顔色を青くしながら

「・・・鍛冶師殿、これはいくらなんでもやり過ぎじゃ。見てみよ、荒くれ者の海賊どもが水に落ちた子犬の様に怯え震えておるわ。それに、ほれ・・」

と、溜息交じりに促され視線を向けた先には、それまで剣戟が響き怒号を上げて争っていた海賊と海兵たちが振り上げた武具や拳をピタリと止め、驚愕と畏怖の表情を浮かべて俺たちの方を見つめていた。

「はぁ・・・?」

 海賊船からの海賊の動きに注視していたために気付かなかった背後の様子に、俺は驚き。思わずお間抜けな声を漏らして海賊と海兵が入り乱れ争う鎮守府がある方向へ一歩踏み出す。

『ガシャ・がしゃ・GASYA・餓捨・・・』

手にしていた武具を放り出し、海兵も海賊も共に一斉に両手を挙げて戦意喪失の意思表示を示して、

「はぁ・・はぁぁぁぁぁ~!?」

あまりの事に驚きの声を上げてしまった。





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