鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百五拾話 乱が起こってしまいましたが何か! その壱

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「お、おい。今何か聴こえなかったか?」

「な、何かってなんだよ?俺には打ち寄せる波の音しか・・だいたいこんな霧の深い朝にわざわざ岸に近づいてくる馬鹿が居るかってっ。
こんな霧の中じゃ岸に乗り上げるか、座礁するのがオチだ。大事な船をそんな危険に晒す船乗りはいねぇよ!」

「確かにそうなんだが・・・うぐぅ!」

この日、レヴィアタン街は僅か三尺先までもが見通せない様な深い霧に覆われていた。街を海からの外敵から守る鎮守府でこの日の歩哨に役に当たっていた二人の男達は、与えられた役目を全うしようと深い霧の中へと目を凝らし聞き耳を立てて業務に当たっていたものの、通常であれば視界の利かない霧の中を航行する船などいる筈がないという固定観念の下、微かに聞こえてきた船の櫓を漕ぐ音を聞き間違いだと判断してしまい、霧の中から飛来した短弓の矢に胸を貫かれ呻き声を漏らす。
その声にもう一人の歩哨役の男が気付き、

「おい!?どうかした、がっ!」

声を掛けた途端、矢が男の腹を深く抉る。その痛みにその場に倒れ込む男。と、その目に映った物は巨大な帆船キャラックの姿だった。
男は腹を射貫かれながらも傍らに掛けられた警鐘を打ち鳴らし、仲間へ『敵』来襲を告げた。
早朝のレヴィアタン街港湾に鳴り響く警鐘。
その音に鎮守府に詰めていた海兵たちは碌に装備も整えず、武具を片手に我先にと鎮守府の詰め所から飛び出し、鎮守府に向かって今まさに接舷しようとしている巨大なキャラック船の姿に、驚きつつも臨戦態勢を整えて行った。
そんな姿をキャラック船の甲板から見下ろしていた女が、その足元に舌を鳴らし、

「ちぃっ! 何をやってるんだい、見張りを仕留めそこないやがって。この愚図がぁ!!」

吐き捨てると左手に携えていた倭刀(疑似日本刀)を抜き放ち、目の前の弓を持った男の首を切り刎ねた。どうやら、その男が歩哨を射たものの狙いを外し、警鐘を鳴らす間を与えた射手だったようだ。
いきなりの抜き打ちに驚く暇さえなかったのか射手の首は無表情のまま甲板に転がった。一方、その様子を生唾を飲み込みつつ眺めていた他の海賊たちの表情は引き攣り青褪めていた。そんな部下達の顔を見て、倭刀の女は倭刀に付着した血をペロリと一舐めしニヤリと笑う。

「わたしゃ愚図は嫌いだよ。同じような目に合いたくなけりゃ、しっかりと働きなぁ!」

その声はそれほど大きくは無かったものの、甲板にいた海賊たち全員の耳には一人の漏れも無く届き、表情を引き締めさせた。そんな部下たちの様子に満足そうに頷くと女・ダーナは血に濡れた倭刀を掲げ

「良いかい、今日の得物はレヴィアタン街鎮守府その物だ。何時もの商船とは訳が違うんが、腹をくくって気合を入れなぁ!愚図愚図してる奴は容赦なく首を飛ばすからね。でも、一番手柄を上げた者には首領ドントゥラバからたんまりと褒美がもらえるよ。しっかり気張りなぁ!!」

海賊たちを炊き付けるように声高らかに告げると、海賊たちは『たんまりの褒美』と言う言葉に顔つきが変わり、目をギラギラと輝かせて各々が持つ武具を手に甲板で身構えた。
と、次の瞬間グゥギィギィ~という大きな音を立ててキャラバン船は鎮守府の前の岸壁に側面を擦り付けると、海賊たちは待ってて増したとばかりに甲板から次々と綱を垂らし我先にと、甲板から飛び降り手にした武具を振り上げ鎮守府から出て来ていた海兵に襲い掛かって行った。
その様子を見届けたダーナは血刀を振り甲板後方に待機している海賊に指示を飛ばす。

首領ドントゥラバ・ティブロン様に知らせな、『我、鎮守府を強襲、橋頭堡を確保せり。』ってね。」

その指示を受けた配下の海賊は脱兎の如く駆けて、岸壁とは反対側の甲板に向かい龕灯がんどう(携帯型の灯火)をゆっくりと大きく回し、霧の向こう側へと信号を送った。
その信号を合図に、霧の向こう側から大小あわせて十隻のキャラック船が姿を現し、ダーナの船を中心に次々と岸壁に接岸し、様々な武具を手にした海賊たちが下船しダーナ配下の海賊たちと刃を交わす海兵たちへ襲い掛かっていった。
こうしてレヴィアタン街を揺るがす『ティブロンの乱』が勃発した。





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