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第1章
砲撃
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要塞の地下牢に閉じ込められていた魔女フレイアは、蒼龍に変身することで牢を破った。
なるべく小さめに変身したものの、狭い通路では蒼龍の巨体だと動きづらい。
召喚したサラマンダーを引き連れて、通路のあちこちを破壊しながら強引に進む。目指すは暗黒騎士ザニバル。薬を持ち帰れるように取り計らうなどと言っておきながら、あっさりフレイアを売った。断固として許せない。
「どこだ、ザニバル!」
蒼龍の前肢で鍬を握りしめ、フレイアは要塞内の通路を進み始める。目指すはザニバルだが、どこにいるのか当てはない。闇雲に進む。しかしどうも要塞の様子がおかしい。あちこちから絶叫が響き、上からは爆発音も轟いてきて要塞が揺れる。
蒼龍の姿でのそのそ進んでいったフレイアは、兵士たちが逃げ惑う様に遭遇した。
黒い瘴気の塊がいくつも蠢き、奇怪な踊りのような動きで兵士を追い回している。
瘴気の塊は見たことのある姿をしていた。ナヴァリア上空を飛んでいたとき、塔の上に飾られていたのを見たことがある。塔の垂れ幕によれば、マルメロの果実を擬人化したメロッピと呼ばれるキャラらしい。だが、黄色く塗られていたあのメロッピとは違って、これらは闇に染まっているのが禍々しい。
逃げる兵士の一人を瘴気の塊が取り込んだ。内部に兵士を収めたそれは、よたよたと二、三歩進み、止まる。そしてぎこちなくメロッピの踊りを舞い始めた。
「食われちまった!」
兵士たちは恐慌状態で逃げ惑う。
フレイアに近寄ってきたメロッピを、サラマンダーが焔のブレスで攻撃する。
メロッピは吹き消えたが、すぐに瘴気が集まってきてまた形をとった。サラマンダーはメロッピに触られて苦悶の叫びを上げる。メロッピは触った相手の力を奪ってしまうようだ。サラマンダーが翼を激しく羽ばたかせてメロッピを吹き消す。しかしまたすぐにメロッピは再生した。
フレイアがよく見ると、通路の床には浅く広く瘴気がたまっていた。どうやらこの階層全体に瘴気がたまっているようだ。下手をすると要塞全体かもしれない。つまり、どこからでもメロッピは再生できるということだ。
どう考えても暗黒騎士のおぞましい力によるものだろう。フレイアは困惑する。フレイアを牢に閉じ込めておいて、自分は帝国の要塞を攻撃しているのか。何をしたいのだ。
フレイアはザニバルの言動を思い返す。地下には魔力結晶の貯蔵庫があると言っていた。魔力がたっぷりだとも。
ザニバルの狙いはさておき、こうなったら魔力結晶を奪ってやろう。そうすれば魔力は使い放題、ザニバルを倒すために役立つ。魔力の供給を絶つことで神眼の稼働も邪魔することができる。
通路の天井には魔力の伝導管が這いまわっている。フレイアは伝導管をたどって進み始めた。魔力が流れてくる元をたどっていけば貯蔵庫にたどりつけるはずだ。
フレイアがしばらく進むと、多数の魔力伝導管が寄り集まった一画を見つけた。頑丈そうな扉で閉じられているが見張りはいない。代わりにメロッピがうろついている。
フレイアは扉を調べる。魔法防壁で守られているようだ。蒼龍のブレス攻撃で破った場合、内部の魔力結晶に誘爆してしまう恐れがある。
フレイアは鍬に魔力を集中する。鍬の刃先に焔が生じて赤熱する。フレイアは鍬でメロッピを薙ぎ払ってから、扉の枠を正確に抉り始めた。魔法防壁はしょせん対人用に設置されたものだ。龍の魔力であれば易々と貫通できる。
メロッピが再生してまた集まってくる前に、フレイアは扉の枠を切断し終えた。扉が倒れ、内部が露わになる。貯蔵庫奥からの白い輝きが通路を満たす。魔力結晶の光だ。
貯蔵庫の内部には線路が敷かれており、魔力結晶を満載した貨車が並んでいる。その奥では魔力転換炉が低く唸りながら稼働していた。貨車は自動的に動いて魔力転換炉に魔力結晶を注いでいる。最新鋭の設備だ。
ここにも警備はいなかった。メロッピを恐れて逃げていったのだろう。これなら貯蔵されている魔力結晶を使い放題だ。フレイアは蒼龍の蒼い眼を煌めかせた。
帝国の要塞と王国の要塞、その狭間に降り立った巨大メロッピは不気味に身体を歪ませながらもさらに巨大化している。
巨大メロッピは歌い踊って闇の瘴気をまき散らす。噴き出る闇の瘴気が狭間に広がっていき、要塞は互いを視野に捉えられなくなる。
王国側の要塞にも瘴気が入り込んで、メロッピの群れと化した。遭遇した王国兵士たちから恐怖の絶叫が上がり始める。
帝国と王国、両要塞の壁上にずらりと並んでいる魔法砲台が一斉に巨大メロッピを砲撃し始めた。動く物を自動的に魔法で砲撃するように設定された砲台だ。
火球が巨大メロッピに殺到する。だが手ごたえは無い。代わりに巨大メロッピから火球が次々と飛び出した。火球は要塞に命中して壁を砕き、要塞全体を揺らす。
火球がいくつかの砲台に直撃した。砲台は破損個所から魔力をあふれさせて爆発する。
巨大メロッピは瘴気の塊であって実体はない。帝国要塞の砲台が撃ち出す火球は瘴気をすり抜けて、向かいの王国要塞に当たっている。王国要塞も巨大メロッピを砲撃しているが、これもまたすり抜けて帝国要塞に命中している。二つの要塞は気付くことなく互いに砲撃しあっていた。
巨大メロッピの足元では、ザニバルが瘴気に隠れていた。頭上を火球が激しく飛び交っていて生きた心地がしない。しかも両方の要塞は壁が砕け、砲台が吹き飛び、爆音に包まれている。
<ザニバル、この作戦は大当たりだ、恐怖が大豊作だよ!>
ザニバルの魔装に宿る悪魔バランは大はしゃぎだ。
帝国の要塞と王国の要塞のいずれからも絶叫が響き、恐怖の匂いが強く立ち昇る。それをバランが喰らっている。
<にゃっ!>
ザニバルのすぐ近くに火球が着弾して、焔が魔装を熱した。大きなダメージではないが恐ろしい。直撃したらどうなってしまうのだろう。
要塞同士の狭間はわずか数百メル程度の距離。そこが砲撃と爆発で満たされている。その真ん中にザニバルは立っているのだ。
真っ直ぐ飛んできた火球を鞭で弾こうとする。鞭に当たるや火球は炸裂し、鞭は飛び散ってしまった。焔の粒がザニバルの魔装に当たって、ちゅんと焼ける音を立てる。
バランは喜んでいるが、ザニバルは焦っていた。
要塞は壊れてきているものの、砲台も壊れて砲撃は弱まりつつある。肝心の神眼には何のダメージもない。神眼から発生している斥力が火球を弾き飛ばしている。
これでは要塞を壊せない。マルメロ貿易の道を開けない。力が足りないのだ。まだなのか。
要塞の壁にきれいな光の円が生じた。壁が円形にくり抜かれて落ちる。魔法による切断だ。
穴からは蒼龍が姿を現した。蒼龍は巨大メロッピを見つけ、その蒼い眼を爛々と輝かせる。蒼龍からはすさまじい魔力があふれている。
怒りに満ちた蒼龍は高々と咆哮した。巨大メロッピへの宣戦布告だ。
<やっときた! 待たせすぎだもん!>
ザニバルは濃密な闇の瘴気を重ねてまとっていく。瘴気は装甲に変じ、装甲は積み重なって膨れ上がり、メロッピの形をとる。
巨大メロッピは瘴気を集めただけの空虚な霧だった。それが今や巨大な魔装をまとったザニバルと入れ替わる。魔装メロッピだ。
魔装メロッピの装甲に当たった火球が爆発する。しかしその跡には傷一つない。
魔装メロッピは蒼龍に向かって構えた。決闘が開始される。
なるべく小さめに変身したものの、狭い通路では蒼龍の巨体だと動きづらい。
召喚したサラマンダーを引き連れて、通路のあちこちを破壊しながら強引に進む。目指すは暗黒騎士ザニバル。薬を持ち帰れるように取り計らうなどと言っておきながら、あっさりフレイアを売った。断固として許せない。
「どこだ、ザニバル!」
蒼龍の前肢で鍬を握りしめ、フレイアは要塞内の通路を進み始める。目指すはザニバルだが、どこにいるのか当てはない。闇雲に進む。しかしどうも要塞の様子がおかしい。あちこちから絶叫が響き、上からは爆発音も轟いてきて要塞が揺れる。
蒼龍の姿でのそのそ進んでいったフレイアは、兵士たちが逃げ惑う様に遭遇した。
黒い瘴気の塊がいくつも蠢き、奇怪な踊りのような動きで兵士を追い回している。
瘴気の塊は見たことのある姿をしていた。ナヴァリア上空を飛んでいたとき、塔の上に飾られていたのを見たことがある。塔の垂れ幕によれば、マルメロの果実を擬人化したメロッピと呼ばれるキャラらしい。だが、黄色く塗られていたあのメロッピとは違って、これらは闇に染まっているのが禍々しい。
逃げる兵士の一人を瘴気の塊が取り込んだ。内部に兵士を収めたそれは、よたよたと二、三歩進み、止まる。そしてぎこちなくメロッピの踊りを舞い始めた。
「食われちまった!」
兵士たちは恐慌状態で逃げ惑う。
フレイアに近寄ってきたメロッピを、サラマンダーが焔のブレスで攻撃する。
メロッピは吹き消えたが、すぐに瘴気が集まってきてまた形をとった。サラマンダーはメロッピに触られて苦悶の叫びを上げる。メロッピは触った相手の力を奪ってしまうようだ。サラマンダーが翼を激しく羽ばたかせてメロッピを吹き消す。しかしまたすぐにメロッピは再生した。
フレイアがよく見ると、通路の床には浅く広く瘴気がたまっていた。どうやらこの階層全体に瘴気がたまっているようだ。下手をすると要塞全体かもしれない。つまり、どこからでもメロッピは再生できるということだ。
どう考えても暗黒騎士のおぞましい力によるものだろう。フレイアは困惑する。フレイアを牢に閉じ込めておいて、自分は帝国の要塞を攻撃しているのか。何をしたいのだ。
フレイアはザニバルの言動を思い返す。地下には魔力結晶の貯蔵庫があると言っていた。魔力がたっぷりだとも。
ザニバルの狙いはさておき、こうなったら魔力結晶を奪ってやろう。そうすれば魔力は使い放題、ザニバルを倒すために役立つ。魔力の供給を絶つことで神眼の稼働も邪魔することができる。
通路の天井には魔力の伝導管が這いまわっている。フレイアは伝導管をたどって進み始めた。魔力が流れてくる元をたどっていけば貯蔵庫にたどりつけるはずだ。
フレイアがしばらく進むと、多数の魔力伝導管が寄り集まった一画を見つけた。頑丈そうな扉で閉じられているが見張りはいない。代わりにメロッピがうろついている。
フレイアは扉を調べる。魔法防壁で守られているようだ。蒼龍のブレス攻撃で破った場合、内部の魔力結晶に誘爆してしまう恐れがある。
フレイアは鍬に魔力を集中する。鍬の刃先に焔が生じて赤熱する。フレイアは鍬でメロッピを薙ぎ払ってから、扉の枠を正確に抉り始めた。魔法防壁はしょせん対人用に設置されたものだ。龍の魔力であれば易々と貫通できる。
メロッピが再生してまた集まってくる前に、フレイアは扉の枠を切断し終えた。扉が倒れ、内部が露わになる。貯蔵庫奥からの白い輝きが通路を満たす。魔力結晶の光だ。
貯蔵庫の内部には線路が敷かれており、魔力結晶を満載した貨車が並んでいる。その奥では魔力転換炉が低く唸りながら稼働していた。貨車は自動的に動いて魔力転換炉に魔力結晶を注いでいる。最新鋭の設備だ。
ここにも警備はいなかった。メロッピを恐れて逃げていったのだろう。これなら貯蔵されている魔力結晶を使い放題だ。フレイアは蒼龍の蒼い眼を煌めかせた。
帝国の要塞と王国の要塞、その狭間に降り立った巨大メロッピは不気味に身体を歪ませながらもさらに巨大化している。
巨大メロッピは歌い踊って闇の瘴気をまき散らす。噴き出る闇の瘴気が狭間に広がっていき、要塞は互いを視野に捉えられなくなる。
王国側の要塞にも瘴気が入り込んで、メロッピの群れと化した。遭遇した王国兵士たちから恐怖の絶叫が上がり始める。
帝国と王国、両要塞の壁上にずらりと並んでいる魔法砲台が一斉に巨大メロッピを砲撃し始めた。動く物を自動的に魔法で砲撃するように設定された砲台だ。
火球が巨大メロッピに殺到する。だが手ごたえは無い。代わりに巨大メロッピから火球が次々と飛び出した。火球は要塞に命中して壁を砕き、要塞全体を揺らす。
火球がいくつかの砲台に直撃した。砲台は破損個所から魔力をあふれさせて爆発する。
巨大メロッピは瘴気の塊であって実体はない。帝国要塞の砲台が撃ち出す火球は瘴気をすり抜けて、向かいの王国要塞に当たっている。王国要塞も巨大メロッピを砲撃しているが、これもまたすり抜けて帝国要塞に命中している。二つの要塞は気付くことなく互いに砲撃しあっていた。
巨大メロッピの足元では、ザニバルが瘴気に隠れていた。頭上を火球が激しく飛び交っていて生きた心地がしない。しかも両方の要塞は壁が砕け、砲台が吹き飛び、爆音に包まれている。
<ザニバル、この作戦は大当たりだ、恐怖が大豊作だよ!>
ザニバルの魔装に宿る悪魔バランは大はしゃぎだ。
帝国の要塞と王国の要塞のいずれからも絶叫が響き、恐怖の匂いが強く立ち昇る。それをバランが喰らっている。
<にゃっ!>
ザニバルのすぐ近くに火球が着弾して、焔が魔装を熱した。大きなダメージではないが恐ろしい。直撃したらどうなってしまうのだろう。
要塞同士の狭間はわずか数百メル程度の距離。そこが砲撃と爆発で満たされている。その真ん中にザニバルは立っているのだ。
真っ直ぐ飛んできた火球を鞭で弾こうとする。鞭に当たるや火球は炸裂し、鞭は飛び散ってしまった。焔の粒がザニバルの魔装に当たって、ちゅんと焼ける音を立てる。
バランは喜んでいるが、ザニバルは焦っていた。
要塞は壊れてきているものの、砲台も壊れて砲撃は弱まりつつある。肝心の神眼には何のダメージもない。神眼から発生している斥力が火球を弾き飛ばしている。
これでは要塞を壊せない。マルメロ貿易の道を開けない。力が足りないのだ。まだなのか。
要塞の壁にきれいな光の円が生じた。壁が円形にくり抜かれて落ちる。魔法による切断だ。
穴からは蒼龍が姿を現した。蒼龍は巨大メロッピを見つけ、その蒼い眼を爛々と輝かせる。蒼龍からはすさまじい魔力があふれている。
怒りに満ちた蒼龍は高々と咆哮した。巨大メロッピへの宣戦布告だ。
<やっときた! 待たせすぎだもん!>
ザニバルは濃密な闇の瘴気を重ねてまとっていく。瘴気は装甲に変じ、装甲は積み重なって膨れ上がり、メロッピの形をとる。
巨大メロッピは瘴気を集めただけの空虚な霧だった。それが今や巨大な魔装をまとったザニバルと入れ替わる。魔装メロッピだ。
魔装メロッピの装甲に当たった火球が爆発する。しかしその跡には傷一つない。
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