最弱職な彼にも栄光あれ!

夜ヶ崎 雪

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第2章

訪問者

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 学校が始まってから最初の休みがやってきた。
 そんなわけで、昨日は久々に目覚ましを設定しないまま布団に入ったわけだが、普通に朝に目覚めてしまった。時計を見ると、いつもよりは少し遅いが、それでも三十分程度だ。

 何という規則正しい生活。これではまるで俺がちゃんとした社会人のようではないか。

「あ、お兄ちゃんおはよう」

「おー、おはよー」

 両親は既に仕事に行ったようだ。休日だというのに大変だなぁ。ちょっと前まで休日平日問わず、昼まで寝てた俺とは大違いだ。

 アリスが早起きなのはいつもの事だ。今となっては元だが、引きこもりのくせにやけに朝早くに起きるのだ。家で何をそんなにすることがあるんだか。本人曰く時計の針が動いてるのをずっと眺めてるだけで、一日が終わるそうだ。

 俺とアリスが食卓に着いて朝食を取っていると、魔力式のチャイムが鳴り、誰かの来訪を告げる。

「……アリスが出ろよ」
「やだ、お兄ちゃんが出て」

 こういうのを面倒くさがるのは血は繋がっていなくても、やっぱり兄妹なのだと改めて実感する。

 席に着いたばかりの重い腰を上げ、玄関の方へだらだらと歩いていく。その間にもチャイムか2回、3回と鳴り響く。
 なんだってんだ、こんな朝っぱらから。
 これで変な勧誘だったらどうしてくれようか……

「はーい、どちら様で……」
「おはようございます、 先生! 遊びに来ま」
「魔道紙なら間に合ってます」

 訪ねてきた人物を確認すると、俺はすぐさまドアを閉めた。そう、まるで何事もなかったかのように。

 俺はなにも見てない。玄関前には誰も居なかった。幼馴染な生徒なんて俺は知らないし、居なかった。
 頭の中でそう言い聞かせながら、俺は食卓へと戻る。

「お兄ちゃん、誰だったの?」
「んー? ああ、誰もいなかった。悪戯じゃないか?」
「……外で『先生ー!』って呼ぶ声が聞こえるけど?」

 はあ、しょうがないか……
 たまの休日くらいゆっくりしたかったんだが。
 なんで休日まで生徒の面倒見なくちゃならないんだ。時間外手当ってつくの? コレ。


 ーーーーーー
 ーーーー
 ーー


「もう酷いですよ、先生!」
「はいはい、悪かったよ。面倒くさかったんだよ」

 その言葉に余計に頬を膨らませるミーナ。
 ミーナとはちょっとした幼馴染であるが、4年も顔を合わせていなかったため、接し方がイマイチよく分からなかったりする。

「それで? お兄ちゃん、その子同じクラスのミーナさんだよね?」
「うん! アリスちゃん、だよね? 3年間よろしくね!」

 女3人寄れば姦しいとは言うが、2人でも姦しくなるんだな。2人はもう仲良くなったようでキャピキャピしている。
 ……正直男の俺にとってはなんだか居づらい。

「あー、それで? ミーナ、今日はどうしたんだ? 何か用があったんじゃなのか?」
「用なんて別にないですよ? 暇だったので遊びに来ただけです」

「遊び」という言葉に反応してアリスが興奮し出す。

「あっ! じゃあアレやろうよ、アレ! お兄ちゃんが王都から買ってきたアレ!」

 アレ……? ああ、そういえばそんなのもあったな。以前俺が興味本位で買ってはきたものの、まだ一回もやったことのないものが。
 店員の綺麗なお姉さんに勧められたから買ったってのもあるが。

 アリスとミーナを居間に待たせておいて、俺はそれを取りに自室へと戻る。

「相変わらず汚ったないな、この部屋……」

 どうして数日でこんなにも汚くなるんだ。ついこの間まで綺麗だったじゃないか。この部屋の主は一体何をしてるんだ。
 ……と、この部屋の主は俺でした。
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