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第2章

初授業

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「はよー」

 俺がドアを開けて入った瞬間、肩をビクッと震わす二人の少女が。やはり、母さんの言う通りやり過ぎだったろうか。
 しかし、別に何も考え無しにやった訳ではない。あの二人がちょっとイラっとしたからとかではない。違うったら違う。

 自分の職業を最弱職である冒険者であることを明かせば、バカにされることは分かっていた。銀狼族は総じて誇りが高く、好戦的だからな。いずれ学級崩壊に繋がることも容易に予想できた。だから、早めに手を打ったのだ。本来なら、アリスにやるつもりではあったが。

 周りを見渡せば、クラス全員何となく怯えているような感じが見て取れた。おそらく、親から昨日の事について聞いたのだろう。俺のあのスキルはこの里じゃ、有名だしな。

「よし、じゃあ授業を始めようか。担任とは言っても、俺が全部の授業を担当する訳じゃない。俺が担当するのは、今日行う魔法学と明日以降に行う魔道具作製だ。養殖の授業は先生全員でやることになってる。……よし、じゃあ教科書出せー」

 俺の言葉にクラス全員が一斉にガサガサと教科書を出し始める。……が、一人だけ青ざめた顔のまま動かない生徒がいる。
 テミスだ。
 一番前の席で教科書忘れるとは……隣のサーシャは机をくっつけようか迷っているみたいだ。
 まぁ、最初の授業だから誰か一人くらい忘れるだろうとは予想していたけれども。

 ……しょうがない。今日は最初の授業だしなるべく教科書を使わない授業にするか。

 明日以降なら、容赦しないが。

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 どことなく懐かしい感じのする鐘の音が授業の終わりを告げる。
 その音と共に、テミスの顔が先程までのが嘘のようにぱあっと笑顔になる。
 教科書を一度も使わなかったからだろう。事実、授業中彼女の視線はずっと教壇の上の教科書に向けられていた。
 ちゃんと授業聞いてたんだろうな。
 明日当ててやろ。


 授業が終わって職員室へ戻るために廊下を歩いていると、後ろからぱたぱたと駆けてくる音が。

「先生!」
「どうした、サーシャ」

 振り向くと、そこには授業前は俺に対して怯えを見せていたいたはずのサーシャが。しかし、今はそんな様子が全く見えない。それどころか、既に俺に心を開いているようにも見える。

「今日はありがとうございました。教科書使わなかったのって、やっぱり教科書忘れたテミスに気を使ったからですよね?」
「……まあな。今日は初回の授業だったから、特別に罰は無しだ。よく言っとけよ、明日以降は容赦しないって」
「はい!」

 サーシャが教室に戻っていくのを確認した後、俺は職員室へと再び歩を進める。

 あれ? さっきの俺ってば、すごく先生っぽくなかったか? それこそ、王都にいる変な名前の勇者候補が持ち込んだという物語に出てくるような先生みたいな。

 それにしてもサーシャってばちょっとチョロくない? チョロいんって呼ばれてもおかしくないレベルだよ、あれ。
 もうちょっと、こう……警戒心とか持った方がいいと思うんだが……
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