1 / 1
壱話 本能寺
しおりを挟む
天正十年六月二日、未明。京、本能寺の奥御殿で就寝していた織田信長は鬨の声で目覚めた。障子ごしに少々煙たい。
白小袖のまま、部屋を出、板の間に降りる。
「信長さま~!!」
板の間の向こうから、白小袖姿の四人の近習がやって来た。
信長の近習を務める森四兄妹だ。
先頭をやって来るのは森蘭丸。蘭丸を支えるように肩を借しているのが、双子の妹のらん。その後から坊丸と力丸の二人が槍や弓矢を持って、ついて来る。
四人は信長の前まで来ると膝をつき、叩頭する。
「何事だ。誰の奇襲じゃ?」
「旗印は水色、桔梗紋・・・・」
信長の問いに答えたのは痩せて蒼白い顔をした蘭丸だった。
「・・・・・っ!?光秀、か・・・・!!」
信長は門の外に目を向け、ふっと笑った。
「是非もなし、か・・・・。まこと、この世は面白いのう」
坊丸が持っていった槍を持ち、庭に降りようとした信長に蘭丸、坊丸、力丸の三兄弟は意外な提案をする。
初めは一笑した信長だったが、多勢に無勢の自軍の様子と蘭丸たちの説得に提案を受け入れ、奥御殿のさらに奥に入り、火を放つよう命じた。
「何故じゃ!!何故、これだけ探して骨の一本も出てこない・・・・」
六月二日の夕暮れ刻。明智光秀は燃え落ちた本能寺の前でたたらを踏んだ。
きれいに焼け落ちた奥御殿からは誰一人の遺骸もなく、奥の間は爆薬を使ったのか、壁が破壊され、埋められていった。
「この奥を掘り起こせ~!!!何が何でも信長の遺骸を見つけよ!!!」
光秀は必死の体で命じる。その様は、とても天下を手中に収めた天下人ではなかった。
「従兄上、落ち着いて下さい!!これを掘り起こすには、刻が足りませぬ。それよりも、二条と安土を抑えなくては・・・・」
従弟である明智左馬之助の言に渋々うなずく光秀。恨みがましく土壁をにらみ、左馬之助に安土を抑えるよう命じ、二条城で足留めを余儀なくされている織田信忠を討つべく、軍を動かした。
完全に光秀の軍勢が本能寺を離れたのを、京の人々と往来で見ていた人影があった。紗が付いた深編笠を被ったその人物は一つうなずくと人垣から離れ、小路へ入っていった。
明けて、天正十年、六月三日。
備中高松城を攻略中の羽柴秀吉がいる本陣に、高松城を水攻めにする為の堤防を築いていた、軍師黒田官兵衛が駆け込んできた。
官兵衛は挨拶もそこそこに、秀吉に人払いを願い出た。
二人きりになると官兵衛は、毛利軍の偵察兵が持っていた密書を差し出した。秀吉は密書に目を通し、やがて号泣し始めた。
人払いを命じられた重臣たちが本陣をのぞき込むなかで、官兵衛が秀吉に近づき、何かをささやいた。秀吉は泣き叫ぶのをやめ、官兵衛の顔をまじまじと見つめる。しばらくして、秀吉が涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を空へと向ける。
青い青い、澄み渡った天。見上げる秀吉の口がにんまりと笑みの形に型どられる。
「官兵衛!和睦じゃ!!清水宗治に使者を送れぇ~っっっ!!!」
「すでに講和の使者を送りもうした。兵糧は押さえてありますれば、応じるのも刻の問題でしょう!?殿は畿内へお戻りになる御準備を・・・・」
「・・・・うむ。皆の者~~、急ぎ、出陣の準備をせよ~~~!!騎馬隊だけで構わぬ。畿内へ戻り、逆臣明智日向守光秀を討つ!!!?」
白小袖のまま、部屋を出、板の間に降りる。
「信長さま~!!」
板の間の向こうから、白小袖姿の四人の近習がやって来た。
信長の近習を務める森四兄妹だ。
先頭をやって来るのは森蘭丸。蘭丸を支えるように肩を借しているのが、双子の妹のらん。その後から坊丸と力丸の二人が槍や弓矢を持って、ついて来る。
四人は信長の前まで来ると膝をつき、叩頭する。
「何事だ。誰の奇襲じゃ?」
「旗印は水色、桔梗紋・・・・」
信長の問いに答えたのは痩せて蒼白い顔をした蘭丸だった。
「・・・・・っ!?光秀、か・・・・!!」
信長は門の外に目を向け、ふっと笑った。
「是非もなし、か・・・・。まこと、この世は面白いのう」
坊丸が持っていった槍を持ち、庭に降りようとした信長に蘭丸、坊丸、力丸の三兄弟は意外な提案をする。
初めは一笑した信長だったが、多勢に無勢の自軍の様子と蘭丸たちの説得に提案を受け入れ、奥御殿のさらに奥に入り、火を放つよう命じた。
「何故じゃ!!何故、これだけ探して骨の一本も出てこない・・・・」
六月二日の夕暮れ刻。明智光秀は燃え落ちた本能寺の前でたたらを踏んだ。
きれいに焼け落ちた奥御殿からは誰一人の遺骸もなく、奥の間は爆薬を使ったのか、壁が破壊され、埋められていった。
「この奥を掘り起こせ~!!!何が何でも信長の遺骸を見つけよ!!!」
光秀は必死の体で命じる。その様は、とても天下を手中に収めた天下人ではなかった。
「従兄上、落ち着いて下さい!!これを掘り起こすには、刻が足りませぬ。それよりも、二条と安土を抑えなくては・・・・」
従弟である明智左馬之助の言に渋々うなずく光秀。恨みがましく土壁をにらみ、左馬之助に安土を抑えるよう命じ、二条城で足留めを余儀なくされている織田信忠を討つべく、軍を動かした。
完全に光秀の軍勢が本能寺を離れたのを、京の人々と往来で見ていた人影があった。紗が付いた深編笠を被ったその人物は一つうなずくと人垣から離れ、小路へ入っていった。
明けて、天正十年、六月三日。
備中高松城を攻略中の羽柴秀吉がいる本陣に、高松城を水攻めにする為の堤防を築いていた、軍師黒田官兵衛が駆け込んできた。
官兵衛は挨拶もそこそこに、秀吉に人払いを願い出た。
二人きりになると官兵衛は、毛利軍の偵察兵が持っていた密書を差し出した。秀吉は密書に目を通し、やがて号泣し始めた。
人払いを命じられた重臣たちが本陣をのぞき込むなかで、官兵衛が秀吉に近づき、何かをささやいた。秀吉は泣き叫ぶのをやめ、官兵衛の顔をまじまじと見つめる。しばらくして、秀吉が涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を空へと向ける。
青い青い、澄み渡った天。見上げる秀吉の口がにんまりと笑みの形に型どられる。
「官兵衛!和睦じゃ!!清水宗治に使者を送れぇ~っっっ!!!」
「すでに講和の使者を送りもうした。兵糧は押さえてありますれば、応じるのも刻の問題でしょう!?殿は畿内へお戻りになる御準備を・・・・」
「・・・・うむ。皆の者~~、急ぎ、出陣の準備をせよ~~~!!騎馬隊だけで構わぬ。畿内へ戻り、逆臣明智日向守光秀を討つ!!!?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる