特に何も考えずに書く文章

めれこ

文字の大きさ
上 下
2 / 2

ちくしょうっ!

しおりを挟む
 男は身を投げた。
 冬の冷たい海原の闇に飲み込まれた彼を気にかける者はいない。
 彼は何処にでもいるような、何処にいても少し浮く、真面目で陰気な男だった。才能に憧れて、あれこれと手を出しては挫折することを人並みに繰り返し、何も成さずに老いて腹の出た、そんな淋しい独りぼっちの男だった。
 彼はある日鏡を見て、毛髪が数えられるほどしか残ってないことに気がついた。いっそ、剃ってしまえばまだ見栄えが良いだろう髪の毛を寄せ集め、頭に線の少ないバーコードを描いた瞬間に彼は壊れた。
 この髪の毛がなくなるとともに死んでやろう。
 そう決意した瞬間から彼は無敵になった。電車では優先座席に脚を広げて座り、居酒屋ではお手拭きで顔を存分に拭い、釣り銭を受け取る際はレジの綺麗なお姉さんの手を少し握った。
 残り少ない余生を我がままに生きる彼に、ある朝出会いが訪れた。なんと、枕の上で息絶えた筈の髪の毛達が絡み合い、一匹の灰色の猫が生まれたのだ。それは掌に収まるような小さな小さな命だった。
 彼はその猫にバーコと名付け、色んなところに連れて行ってあげた。動物園、遊園地、水族館。それらは、いつかと思い浮かべた、彼女や子供を連れて行きたい場所でもあった。
 彼は存在しない愛する人の代わりにバーコにありったけの愛情を注いだ。
 バーコは彼の愛と抜け落ちた髪の毛を糧に少しづつ大きくなり、言葉を話すようになった。そして、水族館が気に入ったのか、本物の海を見たいと言った。
 もちろん彼は快く承諾し、海に連れて行ってあげた。
 しかし、バーコは突風で海に吹き飛ばされてしまった。冬の冷たい海だ。少ない髪の毛の集まりであるバーコは助からないだろう。それでも彼は諦めなかった。
 彼は身を投げた。体温を奪い続ける海に必死で潜り続け、ついにふにゃふにゃに伸びきったバーコを見つけ、握りしめて陸に上がった。
 彼の頭にはもう髪の毛は残っていなかった。すべて波にさらわれてしまった。
 それでも彼は構わなかった。何故なら大切な家族を見つけたからだ。
 彼は手のひらを開いた。
 そこにはワカメがいた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...