特に何も考えずに書く文章

めれこ

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目が覚めた

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 目が覚めた。
 ということは寝てたということです。
 首を動かして辺りを見回すものの、これがどうしてさっぱり身に覚えのない場所にいるわけでした。
 身に覚えがないと分かるのだから身に覚えのある場所も思い浮かべられる筈ですが、それさえも分からないまま身を起こすと、湿った土が体からパラパラと落ちていきました。
 埋まっているとまではいきませんが、体の上にはまるで寝ている間に空から降ってきたかのように土が積もっていました。
 まだ体に付着したままの土を払い落そうと手を伸ばして、なんで払い落とさなければならないのかその理由が思い出せないでいました。
「……っ……っ……」
 誰か呼ぼうとしたのでしょうか。声を出そうとして初めて耐え難いほど喉が渇いていたことに気付いたのです。それを自覚すると同時に酷い倦怠感に襲われました。立っているのもやっとなんです。歩けるはずもないと思いました。座ればもう立ち上がれない。そのことも分かっていました。
 すると、何処からか水の流れる音がしたんです。綺麗な音でした。色のない水を思い浮かべるとき、一体それは何色を思い浮かべるんでしょうか。少なくとも、その時に思い浮かべた水の色は後ろにあった『何か』の色をぼやかしたような色でした。
 考えるよりも先にその音を目指して歩き始めました。不思議と歩けないと思うよりも先に一歩、また一歩と踏み出していたんです。
 そして初めて、空気が湿っていることにも気づきました。吸っても吸っても水にはならないことは知っていながら、たくさん吸い込みました。鼻を通ってその僅かな水分が肺へと渡った時、やっとぼやけた意識がはっきりしてきました。
 ここには老いぼれた木々と自分しかいませんでした。自然と自分のことが気になってきました。背丈は木々よりもかなり低い。布を身に纏ってはいるものの、土で汚れてひどくみすぼらしい格好をしていました。裸足で土を踏みつけると冷たい土の温度が伝わってきます。
 体を震わせ、寝ていた時に寒くなかったのは体にかかっていた土のおかげだ気付きました。では自分で自分に土をかけたのでしょうか。少しも思い出せないのです。
 もう一度遠くを見まわしました。何かいないかと思ったのです。でもどこを見ても木があるだけでした。木の先は木、その先の先も木。それ以上先は白い霧がかかっていて見えません。まるで一生続いているようでした。
 気が付くと駆け出していました。その先に限りがあると早く知りたかったのです。
 駆けて駆けても景色は変わりませんでした。それでも駆けました。息苦しいけれど、それ以上にこのままでいることが苦しかったのです。
 やがて霧が濃くなって、何度も突然目の前に現れる木にぶつかりました。痛くはなかったけれど、繰り返すうちに叫びだしたくなりました。血が溢れれば良いとさえ思いました。それか足が折れて、肺が破れて、なんでも良い、変化が欲しかった。
 やがて土は湿り気を増し、泥になりました。足が重くても、爪の奥まで泥が詰まっても、走るのをやめませんでした。
 すると、次に踏みしめようとした泥がいきなり目前に迫ってきました。足を滑らせて転んだのです。泥にまみれ息ができないまま、体は引きずられるように、何処かへ落ちていきました。
 やがて体が止まります。しかしもう動けませんでした。瞼の裏の真っ暗な世界に落ちていく中で、また水の音が聞こえました。すぐ、本当にすぐ目の前でです。
 力を振り絞り、泥まみれの顔を拭って目を開けると、そこには緑色の液体が綺麗な音を奏でて流れていました。
 「…っ……ぃ………」
 最後との言葉は音にならずに消えました。
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