綺麗なあのコはずるいから

める太

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 そろりと音を立てないように注意しながら扉を開ける。罪悪感と不安が、すっかり冷めてしまった体を蝕んでいた。
 凄い、大変だった。
 諸々詳細は省くが、とにかく大変だった。一人でやると言ったことを後悔するくらいには。
 スマホを傍らに何度も確認してやっていたけれど、慣れないし、少し怖い。お陰で下準備に手間取ってしまった。
 不慣れな作業に精神的にも削られたのもあって、俺の心はすっかり萎れていた。
 とっくに時計の長針はぐるりと一周している。
 待たせ過ぎてしまった。
 一人で待っている間に、男同士って面倒だな、とか嫌になってしまっていたらどうしよう。
 ついそんなことを考えてしまう。
 不安にギシギシ軋む心臓を抱えて、部屋の中を覗く。阿波井はぼうっとドキュメンタリー番組を眺めていた。

「……あわい」
「んー? ……あ、終わった?」

 テレビの音に紛れてしまうほど小さな声だったが、阿波井は気付いたようで、こちらを振り返った。
 阿波井が少し驚いたように瞬きをして、そしてふっと表情をやわらげた。

「ほら、おいで」

 椅子から立ち上がった阿波井が両腕を広げる。
 俺はまるで花に吸い寄せられる虫のように、ふらふらとその腕の中におさまりに行く。
 すうっと息を吸えば石鹸の清潔な香りがした。阿波井から俺が使っている柔軟剤の匂いがするなんて、変な感じだ。

「ちゃんとできた?」
「うん……たぶん」
「そう。えらいね、瀬川」

 まろやかな声色が鼓膜を擽る。髪を撫でる手つきは溶けるくらいに優しい。

「ごめん、遅くて。待ちくたびれただろ」
「なんで謝んの。しっかりやらなきゃいけないことだろ」
「……面倒臭くなってない?」
「んなわけない。……逆に瀬川は俺がそんな男だと思う?」

 俺は首を横に振った。
 阿波井はそんな奴じゃない。
 分かってはいるけれど、俺は臆病で、ひねくれているから、聞いて安心したくなる。

「でも、次からは俺もさせて」
「それは……」
「早くシたい、っていうのも少しはあるけど。何より、二人のためのことなんだから」

 阿波井が俺の頬に触れる。その手に従って上を向いた。
 阿波井の視線は揺れることなく、俺へと注がれている。
 浮かんでいた不安はすっかり消えていた。照れ臭さに眉が下がる。
 阿波井の前では、俺はいつも甘ったれでカッコ悪い。
 まあ、阿波井は昔から良くデキたカッコイイ男だから、俺が格好つけたところで霞むだろうし。
 幼なじみだから、今更取り繕っても仕方ないと思うところもある。
 甘やかされるのは心地が好い。その代わり体の奥がムズムズするの。

「次は……考えとく」

 ぶっきらぼうにそう言って、阿波井の背中を軽く叩いた。
 まだ一回目もしていないのに、もう次のことを考えているのは気が早過ぎるだろう。思わず頬が緩んだ。

「んじゃあ、そろそろ……」

 阿波井が小さく呟いた。阿波井の手がそっと頬から離れて、腕が後ろに回る。かと思えば、次の瞬間には体が宙に浮いていた。

「うわッ!」

 突如襲った浮遊感に、咄嗟に阿波井の首に腕を回してしがみつく。
 俺を抱き上げた阿波井は満足そうだ。
 しかしこれはまるで小さな子どもが、親に抱っこされているようではないか。
 その美貌を見下ろしながら、俺は眉間に皺を寄せる。

「下ろせって。自分で歩けるし」
「え? お姫様抱っこの方が良かった?」
「こ、このままでオネガイシマス……」

 既に恥ずかしいのは変わりないが、お姫様抱っこ、なんて羞恥心が限界突破してどうにかなりそうだ。潔く負けを認めることとした。

「寝室あっちだよね」
「うん」

 一度入ったことのある寝室に、阿波井がコアラを連想させる体勢で俺を運んでいく。
 俺とて成人した男なのに、体幹もブレずに平気で移動できる阿波井に感心するような、しないような。
 とはいえ、流石に片腕で支えるのは難しいらしい。阿波井が足で扉を開ける。
 薄暗い寝室に、廊下から照明の光が射し込む。

「お前、凄いな。力持ちじゃん」
「瀬川の一人や二人は余裕」
「二人は言い過ぎ!」

 阿波井の顔を見下ろす。
 阿波井は少し得意げな顔をしていた。遠回しに軽いと言われているようでムッとする。
 飄々と誇張したことを言う唇に噛み付いた。痛いことは良くないので、甘噛みで。

「んっ」
「ビッグマウスは嫌われるぞ」

 ふん、と鼻を鳴らす。阿波井の綺麗な眉が器用にぴくりと動いた。
 阿波井がため息混じりに呟く。

「……かわいい」
「何でそうなるんだよ」

 呆れた顔をする俺の唇を、今度は阿波井がやわく食む。
 阿波井の舌が俺の下唇を濡らしてから、離れた。キャラメル風味の瞳を覗き込む。暗い部屋なのに、奥に輝きを飼っているそこは本当に綺麗だった。
 俺も自分から阿波井の唇に吸い付く。ちゅっと可愛い音がした。
 すぐに離れようとしたら、それを妨げるように舌を差し込まれた。口蓋をざらざら舐められて、耳の後ろが熱くなる。
 熱くなった耳元でくちゅくちゅと泡の潰れるいやらしい音がする。口の粘膜が痺れてしまいそうな深いやつ。
 それに夢中になっていると、ぐらりと体が傾いた。背中をやや硬めのマットレスが押し返す。
 もっと良いベッド、買おうかな。
 名残惜しげにゆっくりと阿波井の唇が離れていく。それに連れて瞼を持ち上げると、俺を見下ろす阿波井の顔がぼんやりと輪郭を持っていた。
 名前を呼ばれた、気がする。なに、と唇の形だけで問うた。
 阿波井はその美しい双眸を細めて、俺の両手を搦め取る。

「いい?」

 何が、とは聞かなくても分かっていた。
 散々その気にさせておいて、こっちもノッているのに、阿波井にはまだ足りないらしい。
 阿波井も結構、臆病だ。似たもの同士でお似合いではないか。
 繋いだ阿波井の手を握る。

「優しくしろよ」

 言わなくてもそうすることは分かっているけれど。
 阿波井を見つめながら口角を上げると、ゆらりとその瞳の奥が揺れた。

「……努力はする」
「そこはもちろんって言えよな」

 正直な言葉に思わず笑ってしまった。阿波井の首に手を回して、ぎゅうと抱き寄せながらキスをする。
 応えるように差し込まれた阿波井の舌が粘膜を舐るのが気持ちいい。
 阿波井の舌は厚くて、俺より少し長い。
 熱を持ったそれが腔内をぐるりとかき回すと、頭の奥がじんじん痺れる。認めざるを得ないが、俺は阿波井とするキスを気に入っていた。
 そんな間にも阿波井の手が俺の体に触れていた。パジャマ代わりのスウェットの上から、腹や背中を優しく撫でる。
 確かに優しい手だけれどその動きはやらしい。思わせぶりに臍のあたりや、胸元を指が通り過ぎると、背中が粟立った。

「んッ!」

 唐突な刺激に驚いて、唇を離す。合間に糸が引いているのが見えて体温が上がった。
 阿波井も少し驚いたように目を丸くしていた。

「そっそこ、やなんだけど」

 語尾に向かうにつれて声が小さくなる。
 阿波井が触れていたのは胸の中心部だ。

「痛い?」
「痛い、っていうか……」

 言葉を濁すと、阿波井はそれで察したのか、ぎゅうとそこを親指で押し潰してきた。びくんと俺の肩が跳ねる。飛び出しかけた声はなんとか押し殺した。

「乳首好きなんだ」
「う、うっせ……!」

 阿波井の声が僅かに上擦っている。その表情は見るからに愉しそうで、顔を熱くしながら阿波井を睨みつけた。

「ち、乳首だって性感帯だし……男が気持ち良くなってもいいだろ!別に!」

 ついつい言葉数が増えてしまう。これではまるで言い訳をしているようだ。
 確かに後ろめたい気持ちはある。こうなった原因が自分にあるからだ。
 別に初めから乳首で感じていたわけではなく、元々は、擽ったいな、くらいだった。
 しかし、思春期というものは恐ろしいもので、好奇心で弄ってしまい、現在に至る。

「そうだね。いいよ」
「だっ……ぁ!」

 両方の突起を服の上からぐりぐりと潰されて、開いた口から甘ったれた声が零れ落ちてしまった。

「……服着ててこれって、大丈夫なの?」
「べ、つに……普通にしてるぶんには……」

 阿波井が心配そうな表情を浮かべるが、大きなお世話だ。
 こうやって、明確な意図を持って触れられなければ案外問題ない。脇腹が擽ったいのと同じようなものだ。

「そっか……でもまあ」
「ん、ッ……なに」
「えろいよな」
「~っ、バカ!」

 くすくすと阿波井の笑い声が耳元で擦れる。吐息が皮膚を触り、背筋が震えた。
 まるで揉みしだくように胸に触れられて、声が洩れそうになるのを両手で押さえ込む。
 恥ずかしいけれど、別に、嫌じゃない。嫌じゃないから抵抗できなくて、それを良いことに、更に阿波井の手は大胆になっていく。

「……ッ!」

 素肌を撫でるひやりとした感覚に息をのんだ。
 犯人は、服の裾から潜り込んだ阿波井の手だ。
 俺よりも大きい手のひらが胸をすりすりと撫で回す。

「ん、硬くなってる」
「そんな、言うなよっ……」

 阿波井の指が胸の真ん中に触れていた。くるくると円を描くようになぞる指は優しく、擽ったさに似た痺れがじわりと滲む。
 そうしていたかと思えば、時折その芯を弄ぶかのようにぎゅっと摘まれて、這い上がる刺激に背筋が震えた。
 所詮は胸だ。けれどもそのぬるま湯のような快感が、じくじく体の奥に火を点していって、手の内に吐き出す息にも熱がこもっていた。

「ぁ、……っん、」
「気持ちいい?」
「……んんっ」

 ほんの少しだけ首を縦に振ると、阿波井が熱っぽいため息を吐いた。

「かわいー……瀬川」
「な、に……っ」
「服、自分で持ち上げて」

 服の中からするりと手が抜けていく。
 代わりに口元を被っていた俺の手を取って、俺自身の服の裾を掴ませた。

「なんで……」
「瀬川の好きなとこ、舐めてあげるから」
「は……」

 阿波井の舌がちらりと覗く。阿波井のその赤い舌が、とてつもなくいやらしいものに見えてしまった。
 さっきまで触られていたところにじくりと疼きが走る。
 躊躇う俺に、畳み掛けるように阿波井が言葉を続けた。

「舐めてもらったことある?」
「……無い、けど」
「はは、嬉し。……指でこれだから、きっとすげえ気持ちいいと思うよ」

 潜めた声が耳の裏を焼く。俺は息をのんで、そのままごくりと喉を鳴らした。
 羞恥と期待に微かに震える手で、ジャージの裾を掴む。そのまま、まるで幼い子がするように服を捲りあげた。

「っ、は……」

 ひんやりとした空気と阿波井の視線が、肌の上を滑ってぞくぞくする。
 別に男の上裸なんて、晒していても恥ずかしいものでは無いはずなのに。
 見せつけるようなこの格好と、阿波井の粘っこい視線が羞恥心をより掻き立てた。

「普段から触ってる?」
「……そんなに、は」
「そう。でもえろい色してる」
「え、えろい色って……」
「んー、……濃いめの色。瀬川は肌が白いから、ピンクとかより、断然えろいぜ」

 断言する阿波井の視線はずっとそこ、一点に注がれている。対する俺はまともに言葉すら発せなかった。

「小粒だけど、つんって尖って主張してるのかわいいな」
「や、やめろって……」
「育ててあげたくなる」
「ばっかじゃねえの……!」

 阿波井の言葉が一つ一つ俺の神経を嬲る。恥ずかしさで窒息しそうだ。
 耐えきれず固く瞼を閉じて、視覚を遮断した。

「瀬川、舐めていい?」
「……す、好きにすれば」
「ありがと」

 ダメだと言えない俺の弱さが腹立たしい。
 恥ずかしすぎて死にそうだけれど、それと同じくらい、与えられる快感に期待している。

「………っ、ぁ!」

 暗闇の中で、ぬるりと濡れたものが先端に触れた。びりりと駆けた刺激に思わず声が飛び出る。
 そんな俺にお構いなしに、柔らかいものが、見なくても分かるほど尖ったそこを食んだ。
 痛くない。痛くないどころか、ゆっくりと潰される度に背中に微弱な電流が這う。

「……っん、ぁ……ぅ……」

 唇で食んだり、舌先で擽ったり、たまに軽く吸ったり。阿波井の舌と唇が、左側の胸を優しくいたぶる。
 目を閉じなければ良かったと後悔した。見えないぶん、意識が無駄に集中してしまう。

「ぁ………~っひ、ぅ!」
「かわいい」

 放ったらかしだった右胸を、阿波井の爪先が掠めた。唇とは違う強さでぎゅうと潰されて、甲高い声を上げてしまう。
 吐息混じりに呟いた阿波井の声は甘い。でろでろに溶けたクリームみたいだ。
 その囁きすら興奮に置き換わって、両胸を女の人のように弄ばれながら、腰がだんだん重くなっていく。

「ぁ、ッ……! そ、れぇ……やめっ……」

 片方を指でぐりぐり捏ねながら、片方を少し強めに吸い上げられて、耐えられずに腰が浮く。
 これ以上の快感を拒むように首を横に振ると、髪がシーツに散らばる乾いた音がした。

「んー……これならいい?」
「ンっ、ぅ……ぁ、や、だぁ……!」

 今度はどっちも、芯には触れずに周りを指や唇でなぞられる。
 擽ったいし、ぞわぞわ、もどかしくて嫌だ。
 そんなめちゃくちゃな俺の胸元で、阿波井が小さく笑うのが聞こえた。

「駄々っ子みたい」

 薄らと瞼を開ける。
 阿波井の声は相変わらず優しいのに、少しだけ不安になってしまったからだ。
 勿論、そんな不安なんか要らないことはすぐ分かった。
 声と同じくらいかそれ以上、甘ったるくてとろけた目をしている。
 俺の胸元から上目遣いでこちらを見上げる様は可愛らしいが、少し赤くなった俺の乳首を擽る指はやらしい。
 赤い舌が先端を掠めるのをしっかりと見てしまって、顔に集まった血が更に沸騰するかのようだった。

「瀬川、どうしたい?」

 きゅう、と芯の通ったそこを摘まれて腰が跳ねる。
 どうしたいか、なんて。
 ちらちら覗くその赤色をぼんやりと見つめながら、俺は誘われるように口を開いた。

「……き、キスしたい」
「……そっちかあ」
「ダメだった……?」
「いいや全然、大歓迎。ただ、かわいいなと思っただけ」

 阿波井はこんな平凡な男を見て可愛いと言う。
 その感性はよく分からないけれど、まあ、そう悪い気分ではない。
 できればカッコイイの方が良いが、阿波井の前では難しいだろう。
 体勢を少し変えて、阿波井が顔を寄せてくる。待ちきれずに自分から唇を重ねると、すぐにぬるりとしたものが内側の粘膜を舐めた。

「っ、ん……ふ、ぅん……」

 唾液を混ぜ合わせるようなキスをしながら、阿波井の指が乳首を弄る。
 舌を吸い上げると同時に、そこをきゅうっと指で摘みあげられると、どっちも吸われているみたいで気持ちいい。
 じゅるじゅる唾液を啜り合って、呼吸ごと分け合って、段々頭が回らなくなってくる。ぼんやりした頭は胸から滲む快感をそっくり素直に受け取って、全身がじんじんと痺れていくようだった。
 熱く、重くなった腰がもどかしい。はしたなく腰が揺れてしまう。
 それに目敏く気が付いた阿波井が、唇を離して囁いた。

「気持ちいい?」
「……うん」
「素直でよろしい。……もっと気持ちいいことしよっか」

 阿波井の手が離れて、するりと下に降りていく。ハーフパンツの上から優しく中心部に触れられて、分かりやすく体が震えた。
 あんな風に触れ合っていたら、それはもう当然、体は反応してしまうわけで。
 硬くなり始めたそこに、阿波井は気付いているだろう。顔から火が吹き出そうだ。

「脱がしていい?」

 小さく頷いて、腰を浮かす。阿波井の手によってハーフパンツはさっぱり取り払われて、下着姿になる。
 半勃ちになっているのは一目瞭然だろう。
 スウェットの裾を下に伸ばして隠そうとしたが、いまいち上手くはいっていなかった。
 それに隠せたところで意味は無い。
 忍び込んだ阿波井の手が、一枚隔たりを失ったそこを揉む。

「んっ、……ぅあ」

 先程までとはまた違う、直接的な刺激に、脳みそが痺れるような感覚が襲う。
 ただ触られているだけなのに、既に艶めいた雰囲気に酔った体のせいで、下腹部がぐんと熱くなって、阿波井の手によってあっという間に出来上がっていく。
 下着の中で、じゅわりと微かに水音が立った気がした。

「……ちょっと濡れてきた」
「そ、れ……やだ……っ」

 耳元で阿波井の声が掠れる。
 えろい声でえろい言い方をしないで欲しい。羞恥と興奮で視界が歪む。
 そんな俺を見た阿波井が微かに身動ぎをした。その表情はぼやけてよく分からない。

「脱がすよ」

 有無を言わさず、阿波井の手が最後の一枚に掛かる。
 いとも簡単に脱がされてしまったけれど、抵抗はしなかった。
  しなかったが、はしたなく勃ってしまったそこを見られたくはなくて、阿波井の顔に両手を伸ばす。

「な、……っんん」

 頬を挟んで、固定する。阿波井の驚愕の声ごと唇を奪った。
 唇の隙間から、自分の舌を潜り込ませる動きは拙かったことだろう。出迎えた阿波井の舌があっという間にそれを絡め取ってしまったから、問題は無い。
 ベッドの下に布切れが落ちる音がした。

「……ッ! ……ん、う……ンッ……!」

 阿波井の手が育ちきった俺のものを扱くせいで、かき混ぜられている口の内側から高い声が零れてしまう。
 テクニックがなくても、裏筋を擦られるだけで気持ちがいい。それに、時折指が先走りを垂らしているだろう先端を引っ掻くから、腰が砕けそうになった。
 上からも下からも、ぐちゃぐちゃ卑猥な水音が響いている。ぎゅっと目を閉じたところで耳まで塞ぐことは出来ないので、それらはしっかり聞こえてしまって、ますます興奮を煽った。
 それは阿波井も同じだったのか。巧みに舌の付け根を擽りながら、下では指が一番敏感な先端をぐりっと潰す。

「ぅ、っふ………んっ、~~~ッ!」

 ぱちん、と瞼の裏で火花が散った。体中の毛穴がぶわりと開く。
 気が付いた時にはせり上がった熱をそのまま、阿波井の手の中に吐き出していた。
 ほんの数ミリの隙間で互いの吐息が混ざり合う。
 どちらのものとも分からない乱れた呼吸音が静かな寝室に満ちていた。

 頭の中がぼんやりとしていた。甘やかな余熱と解放感と、少しの気だるさが体を包み込んでいる。
 瞼を持ち上げてから幾度か瞬きをしてようやく、阿波井の輪郭を捉えることができた。

「……えろいかお」
「どっちが」

 そう笑った阿波井の表情は、それはもう艶やかで。
 吸い過ぎて少し赤くなった唇も、上気した頬も、悩ましげに歪んだ眉毛も、えろい。

 そして何より俺を見る目が、めちゃくちゃえろかった。
 とろけたキャラメルみたいなのに、その奥にギラギラと隠しきれない焔が覗く。
 うなじにぞくりと痺れが這った。吐き出した息はまだ熱っぽい。

「結構濃い。最近抜いてなかった?」
「うっせー……」
「図星だ」

 手のひらを見ながら、阿波井が意地悪く口角を吊り上げた。
 俺は眉間に皺を寄せて、サイドボードに常備しているティッシュを投げる。
 仕方ないだろう。この一ヶ月はそんな気分に到底ならなかったし、そもそも俺は性に貪欲なタイプではない。
 少し苛立ったので、やり返してやりたくなった。
 ティッシュで手を拭う阿波井に気付かれないように、片手をそろりと阿波井の下半身へと伸ばした。
 布越しに既に硬くなったものが当たる。急所を刺激されて、阿波井の喉が低く鳴った。

「お前も、……こんなんにしてんじゃん」
「っ、瀬川……」

 ふんと鼻を鳴らした。
 この際、俺が下半身をさらけ出した間抜けな格好であることは関係無い。急所を掴んだ方が優位なのである。
 分かりやすく膨らんだそこを揉んでやると、阿波井が小さく呻いて、責めるような視線をこちらに投げ掛けてきた。

「触ってないのに、ギンギンだし」
「……瀬川がえろいから」
「俺のせいにすんなよなあ……」

 阿波井の耳が少し赤い。
 視線を泳がせて恥ずかしがる姿は珍しく、そして可愛い。俺に触るのをやめろと言わない素直なところも。
 布の上から触れているだけで分かるくらい、どう考えても人並み以上の大きさのこれは可愛くないけど。それでもやっぱり可愛いなんてずるい奴。
 とうとう耐えきれずに頬が緩んでしまった。

「阿波井」
「……何?」

 頼りなさげに揺らいでいた阿波井の視線がこちらへと戻る。
 気のせいか、その薄い唇がへの字に曲がっているように見えた。
 布越しに悪戯していた手を離して、阿波井の首に回す。自分の方へと引き寄せて、その鼻先にキスをした。

「しようぜ、続き」

 ごくり、と阿波井の喉が上下する。 
 返ってきたのは言葉ではなく、丸ごと食らうようなキスだった。
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