綺麗なあのコはずるいから

める太

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 クリスマスまであと一ヶ月。
 今日、俺は半年ほど付き合った彼女と別れた。
 昼休みに空き教室に呼び出され、告げられたのはまさかの別れの言葉。
 突然の展開に呆然とする俺を見兼ねた友人たちによって、講義終わりに大学近くの居酒屋へ連行され、今に至る。 

「涙ぐんで他に好きな人ができたの、って……泣きたいのはこっちの方なんだけど……!?」

 空になったジョッキを叩きつける勢いでテーブルの上に置くと、焼き鳥の串が皿から飛び散った。
 満席の店内は騒がしいから、少しばかり叫んでいても構わないだろう。
 血が昇ったのかぐらぐらと目の前が揺れて、俺はそのまま机に突っ伏した。 
 顔も体も燃えるように熱い。たった今飲み干したビールが何杯目かも分からなかった。

「もうすぐクリスマスだっていうのに……可哀想に」
「ほんと鬼畜の所業だよ」

 同じ学部の友人の一人が顔面をタコのように真っ赤にして俺の肩を抱き、もう一人が天を仰ぐ。
 大学では同じ学部の五人でつるんでいるが、他の二人はバイトがあるため、慰めのメッセージをくれていた。

「クリスマス……道理で当日はバイトがあるとかなんとか言ってたわけだよ……」

 ハナから俺と過ごす気は無かったのだろう。
 天然気質な愛らしい子だと思っていたけれど、案外したたかなのかもしれない。

「誠人、お前は良いヤツだよ。すぐ次が見つかるって。な?」
「いや……もう当分いいわ……」
「そんな事言うなよ~! とにかく今日は飲め飲め!嫌な記憶ぶっ飛ばしてけ」

 ああ、机がひんやりとしていて気持ちいい。
 ぼうっと追加されたばかりのジョッキを眺める。白い泡がぷつぷつと弾けていた。
 のろりと起き上がると、目の前がまたぐらりと揺れる。

「見てろよ……次はもっと美人で、賢くて、優しくて、そんで、えろい子と付き合ってやるからなぁ……!!!」
「おお、その意気だ!」
「頑張れ誠人!! ビッグな夢でも、お前ならいける!!」

 友人たちの声援を背に、ジョッキをぐっと傾ける。
 むしゃくしゃした気分も一緒に、冷えたビールで胃の中に流し込んでいった。
 そうやって大して強くもないくせに、ペースも考えずに飲んでいけば結果は目に見えているわけで。

「おーい、誠人ぉ。生きてるか~」
「…………むり」

 一番酒に強い友人が、俺の肩を叩く。
 俺の周りだけ重力が倍にでもなったかのように、体が怠くて重たい。そして磁石でもくっついたかのように瞼も重い。
 俺は机にべったりと張り付きながら、ジョッキの中の溶けかけた氷をぼんやりと眺めていた。

「俺も飲みすぎた……二人もおぶって行けねえよお」

 友人の嘆く声が聞こえる。もう一人の友人は完全に潰れてしまったらしい。
 寝転んでいるのか、姿さえ見えなかった。

「あー……すまほ、どこだっけ」

 そのままの体勢でごそごそとポケットを漁る。
 いつもの倍の時間をかけて引っ張り出したスマホのロックを解除して、メッセージアプリを開いた。
 目当ての人物とのトーク画面を開く。先日遊んだオンラインゲームの話で会話が終わっていた。
 眠すぎて、目がしょぼしょぼする。霞む視界の中、スマホを持ち始めた頃のようなのろいタイピングでメッセージを送る。
 漢字に変換することさえ億劫だった。

「一人ずつなら行けっかなあ~……」
「…………いま、むかえよんだ、から。あいつを家までつれてってやって……」
「マジ? 大丈夫かよ」
「たぶん」

 俺のスマホの通知音が鳴る。浮かび上がったポップアップを横目で見ながら、上手く回らぬ舌で答えた。

「とりあえず、会計してくるわ」
「おれのさいふ、かばんの中」
「今日は奢りだから気にすんなよ」
「おー……ありがとう」

 よろよろと立ち上がった友人の背を見送る。
 その背中が完全に見えなくなると、とうとう耐えきれずに瞼がくっついてしまった。

「瀬川」
「……ん、う」

 細く開けた視界に、見目麗しい男の姿が飛び込んでくる。
 不安げに歪んだ表情が、ほっと僅かに和らいだ。

「……あわいだ」
「そう、俺だよ」
「めっちゃ、顔いいなおまえ」
「ありがと。……ほら、帰ろうか」 
「んー……」

 促されるままに阿波井の首にゆるゆるとしがみつく。次いでふわっと浮遊感が体を襲った。

「飲ませすぎちゃって、すんません」
「大丈夫です。むしろご迷惑をおかけしました」
「いや、ほんと俺らが飲ませたんで……にしても、誠人にこんなイケメンな友達がいるとか、知らなかったっす」

 頭の中がふわふわとしている。それでも聞こえてきた友人の言葉にぴくりと体が揺れた。
 しがみつく腕に力を込めて、友人に得意げな顔をしてみせる。

「あわい、いいだろ。おれんだよ」
「えっ」

 友人が驚いたように目を丸くしていた。変な顔だ。
 こんなに美形で、しかも中身までデキた男はそうそういない。そんな男が俺の、幼なじみなんだぞ。羨ましかろう。
 くふくふと笑いながら、その肩に額を擦り付ける。

「……そろそろ限界そうなんで、帰りますね。ありがとうございました」
「あ、はい……」
「またなあ」

 潰れたもう一人を肩に背負う友人に手を振る。友人は阿波井に背負われた俺を見ながら最後まで、なんとも言えない変な顔をしていた。
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