【ガランド】羽のない天使「あんたなんか好きにならなきゃよかった、」

さすらいの侍

文字の大きさ
上 下
14 / 16

໒꒱

しおりを挟む
 「…これで分かっただろ?君はもう天使じゃないんだよ。神を裏切って堕天したんだ、もう悪魔になったんだよ?…そうだな、もう天使ではないのだからトオトセなんて変わった名前は捨てて、これからはランと名乗りなさい」

 誰?
 ランって誰?
 なんで勝手に名前をつけるの?

 「…怖がらないで、さあ、おいで」

 カノが一歩一歩と近寄って来る。
 トオトセはなんとか立ち上がって飛んだ。
 早く逃げなければ、まずい…!

 「…おっと、どこに行くの、ラン」
 「オレはランじゃない…!トオトセだ、離してくれ…!」

 しかしながら、カノに行く手を阻まれ、空中で抱き留められてしまった。あんなに彼の胸に頬擦りをするのが好きだったのに、今は怖くて仕方なかった。

 「君はランだよ、トオトセなんかじゃない。それに、君は約束してくれたじゃないか、毎日私の話し相手になるって。だから、私と一緒に魔界に帰ろう」
 「やだ、やだ…魔界には行きたくない…!」
 「…なぜ?君は私が好きなんだろ?これから永遠に一緒にいられるというのに、どうして泣いているの?」

 黒の鋭い爪で傷つけないように、カノがいやに優しく目尻を拭う。当然だが、トオトセが泣き止むことはなかった。ぎりっと彼を睨みつける。

 「あんたがオレを騙したからだろ…!あんたが悪魔だと知っていたら、最初から近づかなかったのに…!」
 「何を言うかと思えば…」

 カノは呆れたかと思うと、今度は肩を揺らして笑い始めた。

 「騙される方が悪いだろ?」
 「…っ!」

 騙される方が悪い。
 天使として純粋に大切に育てられたトオトセには、聞いたこともない概念だった。
 だって、天使長様も言っていた、悪いことをするやつが一番悪いのだと。

 「君が勝手に私を好きになって、勝手に盛り上がっていただけ。…違うかい?」
 「そんな…!」

 じゃあ、オレが悪いの?
 だめだと分かっていてこんな所に来たから?
 よく知りもしないくせに、カノを仲間だと勘違いしたから?
 美しいというそれだけの理由でカノを好きになったから?
 どこで間違えたの?

 否、始めからすべて間違っていた。
 その事実に気づいた時、トオトセは声を上げて暴れ出す。

 「離せ!離せよ…!」
 「…うるさいのは好きじゃないな、少し黙れ」
 「!」

 カノの青かった目が赤紫に染まり、無理やり視線を合わせられると、なぜか体を動かすことができなくなった。恐怖で動けなくなるのとはまた違う、彼に強制的に服従させられているような奇妙な感覚だった。
 彼はすっかりおとなしくなったトオトセを見て気をよくしたのか、唇に噛みついた。

 「…!」

 それは思考を奪い、尊厳をも奪う、どこまでも強引なキスだった。
 頃合いを見計らってカノが解放してやると、トオトセは彼の腕の中でぐったりとしていた。

 「…そうそう、君は私の言うことに従ってさえいればいい。そうすれば、手荒な真似はしないさ」
 「……」

 もはや焦点が合わなくなった虚なトオトセを心配するでもなく、カノは優しくその頬を撫で続ける。

 「先ほど君が勝手に私を好きになっただけと言ったが、私も君に好意は持っている。いや、愛していると言ってもいい。そして、感謝もしている」
 「…あいしている?」
 「そうだ、私は君を愛している。君のおかげで、本来の姿を取り戻したのだから…」

 カノがトオトセの前髪を払うと、優しくて甘い口づけを落とした。
 
 「さあ、魔界に帰ろう。みんなが私達の帰りを待っている」

 彼は、従順になったトオトセを横抱きにすると、魔界の方に向かって飛んで行った。
 この日、天界から天使がひとり消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

誓いを君に

たがわリウ
BL
平凡なサラリーマンとして過ごしていた主人公は、ある日の帰り途中、異世界に転移する。 森で目覚めた自分を運んでくれたのは、美しい王子だった。そして衝撃的なことを告げられる。 この国では、王位継承を放棄した王子のもとに結ばれるべき相手が現れる。その相手が自分であると。 突然のことに戸惑いながらも不器用な王子の優しさに触れ、少しずつお互いのことを知り、婚約するハッピーエンド。 恋人になってからは王子に溺愛され、幸せな日々を送ります。 大人向けシーンは18話からです。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

メトロポリタン

暁エネル
BL
グレーの長い髪 モデルの様ないで立ちのバーテンダー 幼なじみの後輩に思いを寄せるがなかなかそれはむずかしく 一方モデルの様なキレイ人に戸惑う後輩 

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

《うちの子》推し会!〜いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます〜お月見編

日色
BL
明日から始まる企画だそうで、ぜひとも参加したい!と思ったものの…。ツイッターをやっておらず参加の仕方がわからないので、とりあえずこちらに。すみませんm(_ _)m

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

処理中です...