【ガランド】羽のない天使「あんたなんか好きにならなきゃよかった、」

さすらいの侍

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 「…これで分かっただろ?君はもう天使じゃないんだよ。神を裏切って堕天したんだ、もう悪魔になったんだよ?…そうだな、もう天使ではないのだからトオトセなんて変わった名前は捨てて、これからはランと名乗りなさい」

 誰?
 ランって誰?
 なんで勝手に名前をつけるの?

 「…怖がらないで、さあ、おいで」

 カノが一歩一歩と近寄って来る。
 トオトセはなんとか立ち上がって飛んだ。
 早く逃げなければ、まずい…!

 「…おっと、どこに行くの、ラン」
 「オレはランじゃない…!トオトセだ、離してくれ…!」

 しかしながら、カノに行く手を阻まれ、空中で抱き留められてしまった。あんなに彼の胸に頬擦りをするのが好きだったのに、今は怖くて仕方なかった。

 「君はランだよ、トオトセなんかじゃない。それに、君は約束してくれたじゃないか、毎日私の話し相手になるって。だから、私と一緒に魔界に帰ろう」
 「やだ、やだ…魔界には行きたくない…!」
 「…なぜ?君は私が好きなんだろ?これから永遠に一緒にいられるというのに、どうして泣いているの?」

 黒の鋭い爪で傷つけないように、カノがいやに優しく目尻を拭う。当然だが、トオトセが泣き止むことはなかった。ぎりっと彼を睨みつける。

 「あんたがオレを騙したからだろ…!あんたが悪魔だと知っていたら、最初から近づかなかったのに…!」
 「何を言うかと思えば…」

 カノは呆れたかと思うと、今度は肩を揺らして笑い始めた。

 「騙される方が悪いだろ?」
 「…っ!」

 騙される方が悪い。
 天使として純粋に大切に育てられたトオトセには、聞いたこともない概念だった。
 だって、天使長様も言っていた、悪いことをするやつが一番悪いのだと。

 「君が勝手に私を好きになって、勝手に盛り上がっていただけ。…違うかい?」
 「そんな…!」

 じゃあ、オレが悪いの?
 だめだと分かっていてこんな所に来たから?
 よく知りもしないくせに、カノを仲間だと勘違いしたから?
 美しいというそれだけの理由でカノを好きになったから?
 どこで間違えたの?

 否、始めからすべて間違っていた。
 その事実に気づいた時、トオトセは声を上げて暴れ出す。

 「離せ!離せよ…!」
 「…うるさいのは好きじゃないな、少し黙れ」
 「!」

 カノの青かった目が赤紫に染まり、無理やり視線を合わせられると、なぜか体を動かすことができなくなった。恐怖で動けなくなるのとはまた違う、彼に強制的に服従させられているような奇妙な感覚だった。
 彼はすっかりおとなしくなったトオトセを見て気をよくしたのか、唇に噛みついた。

 「…!」

 それは思考を奪い、尊厳をも奪う、どこまでも強引なキスだった。
 頃合いを見計らってカノが解放してやると、トオトセは彼の腕の中でぐったりとしていた。

 「…そうそう、君は私の言うことに従ってさえいればいい。そうすれば、手荒な真似はしないさ」
 「……」

 もはや焦点が合わなくなった虚なトオトセを心配するでもなく、カノは優しくその頬を撫で続ける。

 「先ほど君が勝手に私を好きになっただけと言ったが、私も君に好意は持っている。いや、愛していると言ってもいい。そして、感謝もしている」
 「…あいしている?」
 「そうだ、私は君を愛している。君のおかげで、本来の姿を取り戻したのだから…」

 カノがトオトセの前髪を払うと、優しくて甘い口づけを落とした。
 
 「さあ、魔界に帰ろう。みんなが私達の帰りを待っている」

 彼は、従順になったトオトセを横抱きにすると、魔界の方に向かって飛んで行った。
 この日、天界から天使がひとり消えた。
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