【ガランド】羽のない天使「あんたなんか好きにならなきゃよかった、」

さすらいの侍

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 カノはトオトセの姿を認めると、本を閉じた。彼はいつものように落ち着き払っており、相変わらずつやつやできれいだった。

 「…久しぶりだな。もう来ないのかと思ったよ」

 自分がいてもいなくても、彼にはなんの影響も与えなかったのだと思うと、やはり自分はその程度の存在だったのかと勝手に落ち込んでしまう。我ながら何を期待していたのか、ばかみたいだと思った。

 「そんな暗い顔をして…何かあったのかい?」

 ゆっくりとした足取りで近づいて来るので、トオトセも勢いよくその胸に飛び込んだ。カノがしっかりと抱き締めてくれる。
 いいよ、別にその程度の存在でも。また抱き締めてくれるなら。
 約一ヶ月ぶりの甘いにおいを胸いっぱいに吸い込んだ。

 どれほどそうしていたかわからないが、ふたりともしばらく黙って、お互いないはずの体温でも感じるかのように密着していた。

 「……兄さんに、もう境界には行ったらだめって言われて、家の中に閉じ込められていたんだ。…だからしばらく来れなかった、約束破ってごめんなさい…」

 ようやく話す気力を少しだけ取り戻して、トオトセがぽつりぽつりと最近の出来事を話した。

 「事情はよく分かったよ。すごく大変だったんだね…よしよし」

 カノが優しく頭を撫でてくれる。
 トオトセも甘えるように、おでこをぐりぐりとその胸に擦りつける。

 「大変だったのに、来てくれてありがとう」

 ふりふりと頭を横に動かした。
 名残り惜しそうに体を離すと、代わりに一冊の本を彼の胸に押しつけた。いや、正確にいうと本ではなく手帳だった。

 「これは…?」
 「……」

 トオトセが答えようとしないので、とりあえず読んでみようとぱらりとめくった。すると、こんなことが書かれていた。

 今日はきれいな天使に出会った。
 でも、その天使には、翼も天使の輪もなくて、どこか寂しそうだった。
 これから毎日遊びに行って、仲よくなれたらいいな。

 初めてカノさんに名前を呼んでもらえた。
 いつもは「君」としか呼ばれないから、とても嬉しかった。
 
 カノさんが初めて笑ってくれた。笑うととっても優しい表情になるから、びっくりした。
 カノさんの笑顔を自分だけが独り占めできるのだと思うと、めちゃくちゃ嬉しいかった。

 今日は抱き締めてもらった。カノさんに抱き締められると、とても幸せな気持ちになる。
 オレは女の子じゃないけど、カノさんになら何をされてもいい気がする。
 これが好きっていうこと?

 オレはカノさんが好きだ。
 やっと分かった。
 さっき会ったばかりなのに、また会いたくなってしまうから。
 早く明日が来たらいいのに。いや、そもそもカノさんといる時に時間が止まってくれたらいいのに…。そしたら、いつでも一緒にいられるのに。
 どうしてカノさんは図書館に閉じ込められているのだろう?
 まだ理由は教えてもらってないけど、今度聞いてもいいかな?
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