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それからしばらく経った頃。
「…君、また来たのか?」
柱にもたれて床に座ったカノが迷惑そうな顔でこちらを見上げる。読書を邪魔されて、少し機嫌が悪そうだった。彼はどうせそのうち飽きて来なくなるだろうと思っていたゆえ、すっかり裏切られてしまった。
「また来ちゃった!隣に行ってもいい?」
トオトセは慣れたもので、まったく気にする様子もなく彼が答える前に隣に勝手に座った。
図書館通いはずっと続いており、いつの間にか彼に敬語は遣わなくなっていた。今は友達みたいな砕けた話し方をしている。
「…好きにしろ」
カノの許可も降りたことだしと、トオトセはさらにぴたっとくっつき、彼の肩に頭を乗せる。
「…おい」
「好きにしろって言った!」
「……」
ぱら、ぱら。
カノは彼に構わず、本を読み進めることにした。
しかし、それが気に食わなかったトオトセは、今度はわざとカノの腕の下に潜り込んだ。
「おい…っ!」
すぽっと頭が抜けると、まるでカノがトオトセの肩を抱き寄せているかのようになった。
彼の非難するような声を無視して、その胸に頬を埋める。ぎゅっとしがみつき、思いっきりうりうりと頬を擦り寄せてから、これでどうだと顔を上げた。
上目遣いで見つめられ、カノは思わずため息がこぼれた。
これでは、読書どころではない。
ぱたり。
さすがの彼も負けを認めて本を閉じるしかなかった。
「…君ね、猫じゃないんだから、少しはおとなしくできないのかい?」
「やだ、本ばっかり読んでないで、オレにも構って…!」
「…仕方ない、ほら、来いよ」
そう言って脇に手を差し込まれて、持ち上げられる。カノの膝の上に乗せられると、トオトセは嬉しそうに鼻と鼻をくっつけた。
「猫なら鳴き声の一つや二つ、出してみたらどうだ?」
その気になってきたのか、カノがどことなく楽しそうにトオトセの顎下をくすぐり始めた。
もちろんトオトセは本物の猫ではないので、いくらそんな所をくすぐられたとしても気持ちがいいわけではなかったが、合わせてやることにした。
「…うみゃあ」
その瞬間にカノははっきりと心臓がざわつくのを感じた。
おかしい。
たかだか猫の鳴き真似に何を動揺する必要がある?
「うにゃあ…」
その間にも、トオトセは媚びるように彼の手に頬や頭を擦りつけた。
しかし、カノの手はぴたりと止まってしまい、もっと撫でろと頭を押しつけても、微動だにしなかった。
「…一つ言い忘れていたが、私は猫よりも犬の方が好きだ」
「は?自分から猫のふりをしろって言ったくせに!」
はっと我に帰ったカノが、意地悪な台詞を吐くと、すかさずトオトセが抗議する。
「文句があるなら、これで終わりにしてもいいんだぞ」
「ばう…!」
「…君、プライドはないのかい?」
「ばう!」
プライド?
そんなものは知ったことかよ。
あんたに撫でてもらえるなら、オレはなんにだってなってやるさ。それであんたの退屈しのぎになるなら、上等だ。
「でかい犬っころだな…」
やれやれとカノは呆れながらも、トオトセが満足するまでずっと頭を撫で続けてくれた。
やっぱり顎下よりも頭を撫でてもらう方がずっといい。
安心する…。
こうして会うたびにふたりの距離は近づいていき、あっという間に時が過ぎ去ってゆく。
「…君、また来たのか?」
柱にもたれて床に座ったカノが迷惑そうな顔でこちらを見上げる。読書を邪魔されて、少し機嫌が悪そうだった。彼はどうせそのうち飽きて来なくなるだろうと思っていたゆえ、すっかり裏切られてしまった。
「また来ちゃった!隣に行ってもいい?」
トオトセは慣れたもので、まったく気にする様子もなく彼が答える前に隣に勝手に座った。
図書館通いはずっと続いており、いつの間にか彼に敬語は遣わなくなっていた。今は友達みたいな砕けた話し方をしている。
「…好きにしろ」
カノの許可も降りたことだしと、トオトセはさらにぴたっとくっつき、彼の肩に頭を乗せる。
「…おい」
「好きにしろって言った!」
「……」
ぱら、ぱら。
カノは彼に構わず、本を読み進めることにした。
しかし、それが気に食わなかったトオトセは、今度はわざとカノの腕の下に潜り込んだ。
「おい…っ!」
すぽっと頭が抜けると、まるでカノがトオトセの肩を抱き寄せているかのようになった。
彼の非難するような声を無視して、その胸に頬を埋める。ぎゅっとしがみつき、思いっきりうりうりと頬を擦り寄せてから、これでどうだと顔を上げた。
上目遣いで見つめられ、カノは思わずため息がこぼれた。
これでは、読書どころではない。
ぱたり。
さすがの彼も負けを認めて本を閉じるしかなかった。
「…君ね、猫じゃないんだから、少しはおとなしくできないのかい?」
「やだ、本ばっかり読んでないで、オレにも構って…!」
「…仕方ない、ほら、来いよ」
そう言って脇に手を差し込まれて、持ち上げられる。カノの膝の上に乗せられると、トオトセは嬉しそうに鼻と鼻をくっつけた。
「猫なら鳴き声の一つや二つ、出してみたらどうだ?」
その気になってきたのか、カノがどことなく楽しそうにトオトセの顎下をくすぐり始めた。
もちろんトオトセは本物の猫ではないので、いくらそんな所をくすぐられたとしても気持ちがいいわけではなかったが、合わせてやることにした。
「…うみゃあ」
その瞬間にカノははっきりと心臓がざわつくのを感じた。
おかしい。
たかだか猫の鳴き真似に何を動揺する必要がある?
「うにゃあ…」
その間にも、トオトセは媚びるように彼の手に頬や頭を擦りつけた。
しかし、カノの手はぴたりと止まってしまい、もっと撫でろと頭を押しつけても、微動だにしなかった。
「…一つ言い忘れていたが、私は猫よりも犬の方が好きだ」
「は?自分から猫のふりをしろって言ったくせに!」
はっと我に帰ったカノが、意地悪な台詞を吐くと、すかさずトオトセが抗議する。
「文句があるなら、これで終わりにしてもいいんだぞ」
「ばう…!」
「…君、プライドはないのかい?」
「ばう!」
プライド?
そんなものは知ったことかよ。
あんたに撫でてもらえるなら、オレはなんにだってなってやるさ。それであんたの退屈しのぎになるなら、上等だ。
「でかい犬っころだな…」
やれやれとカノは呆れながらも、トオトセが満足するまでずっと頭を撫で続けてくれた。
やっぱり顎下よりも頭を撫でてもらう方がずっといい。
安心する…。
こうして会うたびにふたりの距離は近づいていき、あっという間に時が過ぎ去ってゆく。
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