【ガランド】羽のない天使「あんたなんか好きにならなきゃよかった、」

さすらいの侍

文字の大きさ
上 下
7 / 16

໒꒱

しおりを挟む
 それからしばらく経った頃。
 
 「…君、また来たのか?」

 柱にもたれて床に座ったカノが迷惑そうな顔でこちらを見上げる。読書を邪魔されて、少し機嫌が悪そうだった。彼はどうせそのうち飽きて来なくなるだろうと思っていたゆえ、すっかり裏切られてしまった。

 「また来ちゃった!隣に行ってもいい?」

 トオトセは慣れたもので、まったく気にする様子もなく彼が答える前に隣に勝手に座った。
 図書館通いはずっと続いており、いつの間にか彼に敬語は遣わなくなっていた。今は友達みたいな砕けた話し方をしている。

 「…好きにしろ」

 カノの許可も降りたことだしと、トオトセはさらにぴたっとくっつき、彼の肩に頭を乗せる。

 「…おい」
 「好きにしろって言った!」
 「……」

 ぱら、ぱら。
 カノは彼に構わず、本を読み進めることにした。
 しかし、それが気に食わなかったトオトセは、今度はわざとカノの腕の下に潜り込んだ。

 「おい…っ!」

 すぽっと頭が抜けると、まるでカノがトオトセの肩を抱き寄せているかのようになった。
 彼の非難するような声を無視して、その胸に頬を埋める。ぎゅっとしがみつき、思いっきりうりうりと頬を擦り寄せてから、これでどうだと顔を上げた。

 上目遣いで見つめられ、カノは思わずため息がこぼれた。
 これでは、読書どころではない。
 ぱたり。
 さすがの彼も負けを認めて本を閉じるしかなかった。

 「…君ね、猫じゃないんだから、少しはおとなしくできないのかい?」
 「やだ、本ばっかり読んでないで、オレにも構って…!」
 「…仕方ない、ほら、来いよ」

 そう言って脇に手を差し込まれて、持ち上げられる。カノの膝の上に乗せられると、トオトセは嬉しそうに鼻と鼻をくっつけた。
 
 「猫なら鳴き声の一つや二つ、出してみたらどうだ?」

 その気になってきたのか、カノがどことなく楽しそうにトオトセの顎下をくすぐり始めた。
 もちろんトオトセは本物の猫ではないので、いくらそんな所をくすぐられたとしても気持ちがいいわけではなかったが、合わせてやることにした。

 「…うみゃあ」
 
 その瞬間にカノははっきりと心臓がざわつくのを感じた。
 おかしい。
 たかだか猫の鳴き真似に何を動揺する必要がある?

 「うにゃあ…」

 その間にも、トオトセは媚びるように彼の手に頬や頭を擦りつけた。
 しかし、カノの手はぴたりと止まってしまい、もっと撫でろと頭を押しつけても、微動だにしなかった。

 「…一つ言い忘れていたが、私は猫よりも犬の方が好きだ」
 「は?自分から猫のふりをしろって言ったくせに!」

 はっと我に帰ったカノが、意地悪な台詞を吐くと、すかさずトオトセが抗議する。

 「文句があるなら、これで終わりにしてもいいんだぞ」
 「ばう…!」
 「…君、プライドはないのかい?」
 「ばう!」

 プライド?
 そんなものは知ったことかよ。
 あんたに撫でてもらえるなら、オレはなんにだってなってやるさ。それであんたの退屈しのぎになるなら、上等だ。

 「でかい犬っころだな…」

 やれやれとカノは呆れながらも、トオトセが満足するまでずっと頭を撫で続けてくれた。
 やっぱり顎下よりも頭を撫でてもらう方がずっといい。
 安心する…。

 こうして会うたびにふたりの距離は近づいていき、あっという間に時が過ぎ去ってゆく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風料理BLファンタジー。ここに開幕!

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...