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羽のない天使
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「…おい。…おい!」
目を開けると、義兄のチトセが不機嫌そうな顔でこちらを見下ろしていた。
「ん…」
「いつまでそうしているつもりだ?早く起きて学校に行け」
「ん~、もうちょっと。あと五分だけ…」
「だめだ、早く起きろ」
あっさりと毛布を奪われてしまう。まあ、どうせこうなると分かっていたけれど。幸いなことに、天使には生理機能がないので、特に寒いと思うことはない。
諦めて体を起こして伸びをすると、あくびが出た。
「おまえ、卒業に必要な単位が足りてるからって、油断するなよ。遅刻したり、さぼったりして卒業できなくなっても知らないからな」
「…はいはい、分かってますよ。卒業なんて楽勝だって」
「…どうだかな。おれはもう仕事に行く、おまえも遅れるんじゃないぞ」
改めて釘を刺すと、真っ白なスーツ姿でチトセが颯爽と家から飛び立った。
それを窓越しに眺めながら、トオトセはしばらくぼうっとする。
ここは天界にある天使地区。
下級天使から上級天使まで、全ての天使が集まって暮らす神聖な場所。
そして、ふたりが住んでいるのはいわゆる高級住宅街だった。
立派な家に住めるのも、天使学校に通えるのも、あれもこれも全てチトセのおかげだった。
兄さんは本当にすごいなと思う。
若くして上級天使にまで上り詰めた優秀なひとで、今や天使庁に勤めるお役人様だ。神様からも一目を置かれており、とてもかわいがられているらしい。
しかしながら、最初から順風満帆なわけではなかった。
もともとチトセとトオトセは孤児として施設で生活していた。担当職員に似たような名前をつけられたというだけで、血の繋がりはなく、本当の兄弟ではなかった。
それでも、かなり歳が離れていたため、チトセはいつもトオトセの遊び相手になってくれたり、めんどうを見たりしてくれた。時にはトオトセが悪さをして喧嘩したにもかかわらず、先に折れて仲直りもしてくれた。
だが、歳が離れているということはいいことばかりでもなかった。
チトセの方が早く施設から巣立って行ってしまい、二人は引き離されたのだ。
「絶対おまえを迎えに来てやるから、いい子で待っていろ」
悲しむトオトセを励ますようにそんな言葉だけを残して、チトセは消えた。
期待していなかったと言えば嘘になるが、でも本当の兄弟ではないのだからと忘れようとした。
ところが、その数年後に、チトセは本当に迎えに来てくれた。上級天使の試験に受かり、役人として働き始めて安定したので、トオトセひとりくらい養えると判断したのだ。
それで今は、トオトセも上級天使になるべく天使学校に通っている。卒業後は人間界で修行をして、中級天使の試験を受ける予定である。
けれど、オレは兄さんみたいに毎日は頑張れないなと思う。せいぜい一年で八日くらいしかやる気はない。
あのひとみたいにまじめに働き、規則正しい生活を送るなんて性に合わない。
養ってもらっていることには感謝しているが、たまにどうしようもなく息苦しくなる時もある。
「あー、だる。今日はさぼっちゃお…」
正確には「今日も」だが、それに突っ込んでくれる義兄はいなかった。
目を開けると、義兄のチトセが不機嫌そうな顔でこちらを見下ろしていた。
「ん…」
「いつまでそうしているつもりだ?早く起きて学校に行け」
「ん~、もうちょっと。あと五分だけ…」
「だめだ、早く起きろ」
あっさりと毛布を奪われてしまう。まあ、どうせこうなると分かっていたけれど。幸いなことに、天使には生理機能がないので、特に寒いと思うことはない。
諦めて体を起こして伸びをすると、あくびが出た。
「おまえ、卒業に必要な単位が足りてるからって、油断するなよ。遅刻したり、さぼったりして卒業できなくなっても知らないからな」
「…はいはい、分かってますよ。卒業なんて楽勝だって」
「…どうだかな。おれはもう仕事に行く、おまえも遅れるんじゃないぞ」
改めて釘を刺すと、真っ白なスーツ姿でチトセが颯爽と家から飛び立った。
それを窓越しに眺めながら、トオトセはしばらくぼうっとする。
ここは天界にある天使地区。
下級天使から上級天使まで、全ての天使が集まって暮らす神聖な場所。
そして、ふたりが住んでいるのはいわゆる高級住宅街だった。
立派な家に住めるのも、天使学校に通えるのも、あれもこれも全てチトセのおかげだった。
兄さんは本当にすごいなと思う。
若くして上級天使にまで上り詰めた優秀なひとで、今や天使庁に勤めるお役人様だ。神様からも一目を置かれており、とてもかわいがられているらしい。
しかしながら、最初から順風満帆なわけではなかった。
もともとチトセとトオトセは孤児として施設で生活していた。担当職員に似たような名前をつけられたというだけで、血の繋がりはなく、本当の兄弟ではなかった。
それでも、かなり歳が離れていたため、チトセはいつもトオトセの遊び相手になってくれたり、めんどうを見たりしてくれた。時にはトオトセが悪さをして喧嘩したにもかかわらず、先に折れて仲直りもしてくれた。
だが、歳が離れているということはいいことばかりでもなかった。
チトセの方が早く施設から巣立って行ってしまい、二人は引き離されたのだ。
「絶対おまえを迎えに来てやるから、いい子で待っていろ」
悲しむトオトセを励ますようにそんな言葉だけを残して、チトセは消えた。
期待していなかったと言えば嘘になるが、でも本当の兄弟ではないのだからと忘れようとした。
ところが、その数年後に、チトセは本当に迎えに来てくれた。上級天使の試験に受かり、役人として働き始めて安定したので、トオトセひとりくらい養えると判断したのだ。
それで今は、トオトセも上級天使になるべく天使学校に通っている。卒業後は人間界で修行をして、中級天使の試験を受ける予定である。
けれど、オレは兄さんみたいに毎日は頑張れないなと思う。せいぜい一年で八日くらいしかやる気はない。
あのひとみたいにまじめに働き、規則正しい生活を送るなんて性に合わない。
養ってもらっていることには感謝しているが、たまにどうしようもなく息苦しくなる時もある。
「あー、だる。今日はさぼっちゃお…」
正確には「今日も」だが、それに突っ込んでくれる義兄はいなかった。
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