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行方不明少女

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 「ごめんなさい、巻き込んじゃって!」

 霏々季はふたりに謝った。

 「…気にしないで、もともと危険承知だったから」

 彼は少しやつれたように微笑んだ。

 「キミ、どうして駅から出たの?それにその格好は…」
 「ごめんなさい、列車から追い出されたら人違いされちゃって。歌劇の役者が一人足りなくなったから、代役を頼まれたの」
 「それでキミ、舞台衣装を着ているのか。…ボクの方こそごめんね、あの後死者達の観光案内をしなきゃいけなかったから、キミを放ったらかしにしてしまった。でもまさか、鑑賞した歌劇にキミが出演していたなんて、全然気がつかなったよ」

 車掌も劇場に来ていたというが、霏々季も全く分からなかった。

 「ぼくはすぐにわかったよ!」

 ヒューマが誇らし気に言うと、霏々季がぎゅっと抱き上げる。

 「ヒューマくんはすごいよ」

 別人といっていいほど見た目が変わってしまったわたしを、見つけ出してくれたのだから。

 「ところで、まだ何も食べてないよね?」
 「うん…」

 そういえばこれからどのくらい閉じ込められるのだろう。
 このままずっと水一滴も口にしないわけにはいかないし、そうなれば本当に死ぬ。その前になんとしてでも帰らなければならない。

 「ワタルさんは長いこと車掌をやってるの?」

 なんとか逃げ出せないかと鉄の格子を蹴ったり、壁を叩いたりしながら聞いてみた。
 ところが車掌は諦めているのか、行儀よく三角座りして腕にじゃれつくヒューマの相手をしていた。

 「うん、七年くらい。ボク、自分がなんで死んだのかとか生前の記憶とかがないんだ。気づいたら女王様に仕事を与えられて、毎日毎日忙しかった。…ボク、本当はこんな真っ黒な制服じゃなくて、キミみたいなスカートを履いてみたかったな」

 スカートを履いてみたかったと言われて、霏々季は驚いた。てっきり男だと思っていたが、もしかして…!

 「あなた、女の子なの!」
 「…やっぱりそうは見えないよね、ごめん。騙していたわけじゃないけど、女王様にこの制服を着て、男として振る舞うことを義務づけられているんだ」

 霏々季は信じられない気持ちでワタルを見た。

 「わたるくんはおんなのこなの?」

 ヒューマも不思議そうな顔で二人を見比べる。
 いわれてみれば、中性的な顔立ちは十分に女性らしさも兼ねているし、男にしては線が細いのも納得した。
 ワタルというやや男の子っぽい名前と、女の子という性別。
 その時、頭の中で何かがきれいに組み合わさった。

 「思い出した…!あなたが七年前、西田蔵駅で神隠しにあったでしょ!」

 記憶が完全に呼び起こされた。
 隣の小学校で行方不明になった女の子の名前が藤田 航ふじた わたるだったことを。

 彼女がその近辺で行方不明になって以来、西田蔵駅はますます恐れられるようになった。だから絶対に近づくなと大人達から口酸っぱく言われていたものだ。

 「…何を言ってるの?ボクの何を知ってるの?」
 「何も覚えてないんだっけ?街の至る所にあなたのポスターがあった。まさかわたしと同じように黄泉に来ていたなんてね。そりゃあ警察がどれだけ探しても見つかるはずがないわ。あなたはわたしと同じ生者だったのよ!」
 「そう、なんだ…ボクは生者だったのか。…まだみんな、僕を探しているの?」
 「もちろんだよ!みんな、あなたの帰りを待ってるのよ!わたしと一緒に帰ろう!」 
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