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「で、ビッキー。今からあなたにも舞台に上がって欲しいの、急だけど頼めないかしら」
「え」
アリアの代役が見つかったのだから、話はもう終わりではないのか。
「ほら、メルメナがアリアの代わりになると、今度はメルメナの役が空くでしょ?ちょうど左右対称で三人ずつ主役の後ろで踊らなきゃいけないから、一人でも欠くと見た目が悪いのよ」
マリアが細身だったら、素人の霏々季に頼む必要なんてなかったのだけれど、彼女はふくよかな体つきで舞台映えしなかった。ぎりぎりのにん数でやっているので、他に頼めるひともいないのだという。
「でもわたし、台詞も振り付けも何も分からないのに…」
何より人前に出るなんて考えられない。
遠回しに断ろうとするとマリアは食い下がった。
「大丈夫よ、台詞はないし、ただ踊るだけだから。間違えたって、誰もあなたを責めないわ」
「頼む、人助けだと思って…!」
ふたりに頭を下げられても、無理なものは無理だった。
自分なんかが出て行ったら、お客さんに笑われるに決まっている。
学校にいた時のように嘲りの対象になるに違いない。
彼女が返答に詰まっていると、メルメナに手を握られた。
「あなた、これがどれだけ幸運なことか分かってる?うちに入りたくても入れない娘達が沢山いるのよ。女の子なら誰だって舞台に立って注目されたいじゃない、不安はあって当然だけど、やってみる価値はあると思わない?」
霏々季もかつては夢見て、吉川がいる演劇部に入ったことがあった。舞台に立ってみたいという漠然とした夢があったからだ。
ところが、演劇部は部としてほとんど機能していなかったので、役をもらう前に辞めてしまった。
今度の体育祭の応援団員も辞退した。
二年生までは試験を突破しなければならないが、三年生は最後なので希望者は全員無条件で参加できたにもかかわらず、辞退した。
かわいい制服を着ておしゃれもできて、下級生から羨望の眼差しも向けられるというのに、あっさりとその特権を捨てた。誰かににあげられるものならば、あげてもよかった。学年中の女子で不参加なのは彼女だけだった。
踊りが苦手だったのと、男子達に笑われるのが怖かったからだ。また吉川に見下されるのかと思うと、とてもではないが踊れない。
南野のような美少女ならともかく、芋女が無理して表に立つなと思われるくらいなら、ひっそりと存在を消してじっとしていた方がいい。
春休み中、体育祭の準備のためにみんなで集まった時も、彼女は女の子達が楽しそうに曲に合わせて踊ったり、衣装の打ち合わせをしたりするのを遠くから眺めるしかなかった。
「え」
アリアの代役が見つかったのだから、話はもう終わりではないのか。
「ほら、メルメナがアリアの代わりになると、今度はメルメナの役が空くでしょ?ちょうど左右対称で三人ずつ主役の後ろで踊らなきゃいけないから、一人でも欠くと見た目が悪いのよ」
マリアが細身だったら、素人の霏々季に頼む必要なんてなかったのだけれど、彼女はふくよかな体つきで舞台映えしなかった。ぎりぎりのにん数でやっているので、他に頼めるひともいないのだという。
「でもわたし、台詞も振り付けも何も分からないのに…」
何より人前に出るなんて考えられない。
遠回しに断ろうとするとマリアは食い下がった。
「大丈夫よ、台詞はないし、ただ踊るだけだから。間違えたって、誰もあなたを責めないわ」
「頼む、人助けだと思って…!」
ふたりに頭を下げられても、無理なものは無理だった。
自分なんかが出て行ったら、お客さんに笑われるに決まっている。
学校にいた時のように嘲りの対象になるに違いない。
彼女が返答に詰まっていると、メルメナに手を握られた。
「あなた、これがどれだけ幸運なことか分かってる?うちに入りたくても入れない娘達が沢山いるのよ。女の子なら誰だって舞台に立って注目されたいじゃない、不安はあって当然だけど、やってみる価値はあると思わない?」
霏々季もかつては夢見て、吉川がいる演劇部に入ったことがあった。舞台に立ってみたいという漠然とした夢があったからだ。
ところが、演劇部は部としてほとんど機能していなかったので、役をもらう前に辞めてしまった。
今度の体育祭の応援団員も辞退した。
二年生までは試験を突破しなければならないが、三年生は最後なので希望者は全員無条件で参加できたにもかかわらず、辞退した。
かわいい制服を着ておしゃれもできて、下級生から羨望の眼差しも向けられるというのに、あっさりとその特権を捨てた。誰かににあげられるものならば、あげてもよかった。学年中の女子で不参加なのは彼女だけだった。
踊りが苦手だったのと、男子達に笑われるのが怖かったからだ。また吉川に見下されるのかと思うと、とてもではないが踊れない。
南野のような美少女ならともかく、芋女が無理して表に立つなと思われるくらいなら、ひっそりと存在を消してじっとしていた方がいい。
春休み中、体育祭の準備のためにみんなで集まった時も、彼女は女の子達が楽しそうに曲に合わせて踊ったり、衣装の打ち合わせをしたりするのを遠くから眺めるしかなかった。
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