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歌劇少女

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 「誰よ、この!私はアリアを探してって言ったのよ!」
 「はあ?アリアじゃないのか!」
 「アリアはもっとかわいいわよ!」
 「そんなことを言ったって、友達が駅の近くでアリアを見たって言うから、てっきりこの娘がアリアだと思って…」
 「あなた、アリアを見たことがあるでしょう!全然別人じゃない、どうするのよ…!」
 「アリアだって化粧が濃いじゃないか、女のすっぴんなんてこんなもんだろう!」

 いきなり目の前で喧嘩が繰り広げられ、彼女は置いてけぼりを食らった。
 勝手に別人と間違われて連れて来られただけなのに、かわいくない、こんなものとまで言われてしまって不満に思っていると、

 「とにかくもうしょうがないわ。あたしはここの座長のマリア、こっちが旦那のニッグ。あなたはなんていうの?」
 「ひ…ビキです、ビキ」

 間違えて本名を名乗りかけたが、下二文字でごまかす。

 「ビッキーね、オーケー。うちのばか旦那がごめんね、怖かったでしょう?」
 「い、いえ…」

 ほら、あなたも謝りなさいと言われて、ニッグが申し訳なさそうに頭を下げた。二人は夫婦で、彼はマリアの尻に敷かれているらしかった。

 「アリアはあたしの従妹なんだけど、困った子でね。でもまさか仕事を放り出すなんて」
 「何かあったんですか?」
 「毎日毎日踊ってばかりで、嫌気が差しちゃったみたい」

 マリアがはあと、溜息を吐く。
 かわいそうだけれど自分がいても状況は好転しないので、帰ってもいいかと聞こうとした時、控室に第三者が現れる。

 「失礼します、結局アリアは見つかったのですか?」
 「メルメナ…!」

 淡い金髪と薄緑の瞳が特徴的で妖精のように美しかった。口角を上げていたら見る者に儚い印象を与えただろうが、今はきりっとしていたため、正反対に気が強そうに見えた。

 「私はずっとアリアの後ろで踊る毎日でしたが、主役の振り付けも、歌詞も完璧に把握しています。アリアが見つからないのであれば、代役をやらせて下さい」

 かっこいい。
 彼女は素直にそう思った。
 麗しい見た目はいうまでもなく、きっと誰よりも努力を積んでいるから、こんなにも堂々と自分の意見が言えるのだろう。
 いつ好機が巡って来てもいいようにと、メルメナは主役になれない現状に燻ることなく、人知れずアリアの分まで自分のものにしていた。
 そしてとうとう神様が機会をくれたのだ。

 「…分かったわ、あなたにしか務まらないものね。主役の衣装に着替えてちょうだい、大きさが合わないようなら衣装係になおしてもらって」
 「ありがとうございます」

 メルメナが少しだけ笑った。
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