15 / 15
໒꒱
しおりを挟む
今日の朝、本当に出て行くのだと思うと、全く眠れなかった。寝返りを何度も何度も打って、ただただ時が過ぎるのを待つしかなかった。
がちゃり。
突然部屋の扉が開いた。
誰かが部屋に入って来るのが分かった。
「領主様…?シノ…?」
トオトセはのそのそと上半身を起こした。
こんな夜中にいったいなんの用だろうか。
カノは先ほど会ったばっかりだし、礼儀正しいシノがわざわざこんな夜中にやって来るのもどうも不自然だ。
それになんだか、いつもと気配も違う…。
その正体を知ると同時に、トオトセは布で口を塞がれて声を奪われてしまった。
「飛人だ、飛人がいるぞ!」
「こいつ、もしかして、サーカス団から逃げ出したやつじゃないのか?それとも領主様の趣味でもともと飼っていた奴隷か?」
この部屋はカノとシノしか出入りしないので、てっきり二人のうちのどちらかだと思っていたが、侵入したのは全く面識のない男達だった。
トオトセがじたばたと暴れるのも束の間、すぐに骨が折れそうなほど強く抑えつけられる。
「細かいことはどうでもいいんだよ、俺達はこいつを攫って売りさばけば大金が手に入る」
「殺さないのか?」
「ばか、こいつを殺したところで、リサがくれる端金なんかたかが知れてるだろう。それよりも、売った方がよっぽど儲かる。一生遊んで暮らせるぞ」
それを聞いた途端、体こそ華奢なトオトセだったが、底力を出して必死に抵抗する。
ふざけるな!
やっと奴隷から解放されたんだ。奴隷落ちなんて二度とごめんだ!
うつ伏せで抑えつけられたまま、無理矢理ばさばさと大きな翼を動かした。部屋中の空気が振動する。
「この、おとなしくしやがれ…!」
「うっとうしいやつめ!」
痺れを切らした男が、ナイフを翼に突き立てた。
「ああああああああああああああああ……!」
トオトセの声にならない声が響く。
ざく、ざくと翼が切り刻まれる。羽がまるで白い花びらのように、月明かりに照らされて宙を舞う。
「ばか、何傷つけてるんだよ、価値が下がるだろ!」
「でも!こいつの翼は、鋭くて、このままでは俺達が先に切り刻まれちまう!」
彼の言うとおり、トオトセを抑えていた二人とも腕や顔に深い切り傷ができていた。鋭い翼はかするだけでいともたやすく皮膚を切り裂く。
「やっと、おとなしくなったな」
すぐにトオトセは暴れるのをやめた。
翼をめちゃくちゃにされ、痛みと恐怖でもう何もできなかった。
それでも喉が潰れそうなほど、叫び続ける。
「ああああああああああああああああああああ!」
お願い、領主様、早く気づいて!
オレを助けて…!
「こいつの価値は下がっちまったが、切った羽でもそこそこの値打ちはするだろう。おい、俺がこいつを縛っておくから、お前はその間に羽を全て集めろ」
「分かった」
天使の落としもののように、銀色の羽がそこらじゅうに散らばっていた。
それを見たトオトセは絶望した。
そんなに切り落とされたら、もう二度と飛べないかもしれない…!
男が落としものに手を伸ばした時、扉が蹴破られる。
「…ラン!」
カノとシノだった。
トオトセが顔を上げて、苦しそうな声を出した。
シノがトオトセを抑えつけている男の頭を蹴り飛ばすと、カノが急いで傷だらけの体を抱き起こした。
「シノ、そいつらを捕まえておけ…!」
彼はトオトセを横抱きにすると、本邸の自室に向かった。
ベッドに下ろして口を解放してやると、トオトセが大粒の涙を流しながら、声を出して泣き始める。
取り乱している彼をそっと抱き締めた。
「…怖かったな、今はもう大丈夫だ。あいつらは私が責任を持って罰を与えるから、何も考えなくていい」
「つ、翼があああああ…」
自分に縋りついて泣く様は、哀れでかわいらしく見えた。もとの半分ほどの大きさになってしまった、ぼろぼろで醜い翼を撫でながら、
「……私のせいで、君を危険に晒して本当にすまなかった。…ヒロに相談してみよう、もしかしたら魔法でもとどおりになるかもしれない」
そんな日は永遠に来ないだろうけれど。
仮にヒロに翼の修復ができたとしても、その魔法を使わせなければいいだけの話だ。
そうすれば、君はずっと飛べないままだ。
飛べなければ、ここから出たいとも思わないだろう。翼なんかがあるから、余計なことを考えてしまうのだ。
カノの胸の内を知る由もないトオトセはそれを聞いて、涙で濡れた顔を上げた。まるで湧き水のようにとめどなく溢れている。
彼はその赤くなった目尻に唇を落として、涙を拭ってやった…。
ーーーーー
ご縁が続きますように。「⭐︎お気に入り」追加でいつもそばに。
がちゃり。
突然部屋の扉が開いた。
誰かが部屋に入って来るのが分かった。
「領主様…?シノ…?」
トオトセはのそのそと上半身を起こした。
こんな夜中にいったいなんの用だろうか。
カノは先ほど会ったばっかりだし、礼儀正しいシノがわざわざこんな夜中にやって来るのもどうも不自然だ。
それになんだか、いつもと気配も違う…。
その正体を知ると同時に、トオトセは布で口を塞がれて声を奪われてしまった。
「飛人だ、飛人がいるぞ!」
「こいつ、もしかして、サーカス団から逃げ出したやつじゃないのか?それとも領主様の趣味でもともと飼っていた奴隷か?」
この部屋はカノとシノしか出入りしないので、てっきり二人のうちのどちらかだと思っていたが、侵入したのは全く面識のない男達だった。
トオトセがじたばたと暴れるのも束の間、すぐに骨が折れそうなほど強く抑えつけられる。
「細かいことはどうでもいいんだよ、俺達はこいつを攫って売りさばけば大金が手に入る」
「殺さないのか?」
「ばか、こいつを殺したところで、リサがくれる端金なんかたかが知れてるだろう。それよりも、売った方がよっぽど儲かる。一生遊んで暮らせるぞ」
それを聞いた途端、体こそ華奢なトオトセだったが、底力を出して必死に抵抗する。
ふざけるな!
やっと奴隷から解放されたんだ。奴隷落ちなんて二度とごめんだ!
うつ伏せで抑えつけられたまま、無理矢理ばさばさと大きな翼を動かした。部屋中の空気が振動する。
「この、おとなしくしやがれ…!」
「うっとうしいやつめ!」
痺れを切らした男が、ナイフを翼に突き立てた。
「ああああああああああああああああ……!」
トオトセの声にならない声が響く。
ざく、ざくと翼が切り刻まれる。羽がまるで白い花びらのように、月明かりに照らされて宙を舞う。
「ばか、何傷つけてるんだよ、価値が下がるだろ!」
「でも!こいつの翼は、鋭くて、このままでは俺達が先に切り刻まれちまう!」
彼の言うとおり、トオトセを抑えていた二人とも腕や顔に深い切り傷ができていた。鋭い翼はかするだけでいともたやすく皮膚を切り裂く。
「やっと、おとなしくなったな」
すぐにトオトセは暴れるのをやめた。
翼をめちゃくちゃにされ、痛みと恐怖でもう何もできなかった。
それでも喉が潰れそうなほど、叫び続ける。
「ああああああああああああああああああああ!」
お願い、領主様、早く気づいて!
オレを助けて…!
「こいつの価値は下がっちまったが、切った羽でもそこそこの値打ちはするだろう。おい、俺がこいつを縛っておくから、お前はその間に羽を全て集めろ」
「分かった」
天使の落としもののように、銀色の羽がそこらじゅうに散らばっていた。
それを見たトオトセは絶望した。
そんなに切り落とされたら、もう二度と飛べないかもしれない…!
男が落としものに手を伸ばした時、扉が蹴破られる。
「…ラン!」
カノとシノだった。
トオトセが顔を上げて、苦しそうな声を出した。
シノがトオトセを抑えつけている男の頭を蹴り飛ばすと、カノが急いで傷だらけの体を抱き起こした。
「シノ、そいつらを捕まえておけ…!」
彼はトオトセを横抱きにすると、本邸の自室に向かった。
ベッドに下ろして口を解放してやると、トオトセが大粒の涙を流しながら、声を出して泣き始める。
取り乱している彼をそっと抱き締めた。
「…怖かったな、今はもう大丈夫だ。あいつらは私が責任を持って罰を与えるから、何も考えなくていい」
「つ、翼があああああ…」
自分に縋りついて泣く様は、哀れでかわいらしく見えた。もとの半分ほどの大きさになってしまった、ぼろぼろで醜い翼を撫でながら、
「……私のせいで、君を危険に晒して本当にすまなかった。…ヒロに相談してみよう、もしかしたら魔法でもとどおりになるかもしれない」
そんな日は永遠に来ないだろうけれど。
仮にヒロに翼の修復ができたとしても、その魔法を使わせなければいいだけの話だ。
そうすれば、君はずっと飛べないままだ。
飛べなければ、ここから出たいとも思わないだろう。翼なんかがあるから、余計なことを考えてしまうのだ。
カノの胸の内を知る由もないトオトセはそれを聞いて、涙で濡れた顔を上げた。まるで湧き水のようにとめどなく溢れている。
彼はその赤くなった目尻に唇を落として、涙を拭ってやった…。
ーーーーー
ご縁が続きますように。「⭐︎お気に入り」追加でいつもそばに。
23
お気に入りに追加
15
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

片桐くんはただの幼馴染
ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。
藤白侑希
バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。
右成夕陽
バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。
片桐秀司
バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。
佐伯浩平
こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる