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「これはこれは領主様、お久しぶりでございます…!」
カノ御用達の仕立て屋に着くと、奥から中年の男性が現れた。ぴったりとした黒の服を着用しており、手足が長くてすらりとしている。
「久しぶりだな」
「はい、数ヶ月ぶりでございます。…と言っても、リサ様からはよく領主様のお話を伺っておりましたので、正直に話すと、あまり久しぶりな感じはしませんが」
「おい、今はその話はよせ…!」
「これは大変失礼いたしました!」
カノの顔色が変わり、慌てて男が頭を下げる。
まだ出会ったばかりにも関わらず、彼がこんなにはっきりと苛立つのは意外だと思った。察するに、「リサ」という女の話をされたくなかったみたいだ。
「…そちらの方は?」
仕立て屋が顔を上げて恐る恐るたずねると、凍った雰囲気を変えるためにトオトセが真っ先に答えた。
「領主様の所で居候している者だ!ト…ラ、ランと呼んでくれ!」
「かしこまりました、ラン様ですね!」
「…今日は、この子の服を見繕ってくれ」
彼がトオトセを奥の部屋に連れて行こうとした時、カノがすれ違い様に囁く。
「先ほどみたいに、余計なことは話すなよ」
二時間後にトオトセはやっと解放された。
仕立て屋が選んだ服をトオトセが着て、カノに可か不可を決めてもらうことを繰り返していたら、それだけ時間がかかったのだ。
服なんて着れればなんでもいいじゃねえかと思うのだが、カノは十着着て、一、二着気に入ればいい方で、ほとんど没にしていた。
それで、結局は仕立屋に採寸してもらって、後日出来上がった服を届けてもらうことになった。
「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」
カノのお眼鏡にかなった服に着替え、店を後にする。いつの間にかカノの機嫌も直っており、また手を繋がれた。
外なのにいいのだろうかと気になったが、わざわざ聞けば嫌がってるみたいで、彼が傷つくかもしれないと思い、気にしていないふりをした。
「…あのさ、いっぱい服買ってくれて嬉しいんだけどさ、別にそこまでしてくれなくてもいいんだぜ。オレ、しばらくしたらここから出て行くんだし」
「…迷惑だったかい?」
「いや、嬉しいって言ってるだろ。…ただ、ここまでお金を使ってもらう理由がないっていうか…」
トオトセには何もお礼に返すことはできないのだ。
カノが先ほど払ったお金も、領民の税金だろう。よそ者の自分にそこまで使ってもらうのは、なんだか領民にも申し訳ない気がした。
「理由、か。…君に一日でも長くそばにいて欲しいからではだめかい?」
なんだよ、それ。
それってどういう意味だよ。
そんなことを言われたら、離れがくなってしまうじゃないか。
トオトセはカノの顔を直視できなくなり、俯いた。買ってもらったばかりの、ぴかぴかの革靴の先っちょが目に入った。
また、二人の間に沈黙が流れる。
でもそれは嫌な感じではなくて、カノはあえてその静けささえも楽しんでいるようだった。一言一句言葉にしなくても、そばにいるだけで満足しているらしい。
カノ御用達の仕立て屋に着くと、奥から中年の男性が現れた。ぴったりとした黒の服を着用しており、手足が長くてすらりとしている。
「久しぶりだな」
「はい、数ヶ月ぶりでございます。…と言っても、リサ様からはよく領主様のお話を伺っておりましたので、正直に話すと、あまり久しぶりな感じはしませんが」
「おい、今はその話はよせ…!」
「これは大変失礼いたしました!」
カノの顔色が変わり、慌てて男が頭を下げる。
まだ出会ったばかりにも関わらず、彼がこんなにはっきりと苛立つのは意外だと思った。察するに、「リサ」という女の話をされたくなかったみたいだ。
「…そちらの方は?」
仕立て屋が顔を上げて恐る恐るたずねると、凍った雰囲気を変えるためにトオトセが真っ先に答えた。
「領主様の所で居候している者だ!ト…ラ、ランと呼んでくれ!」
「かしこまりました、ラン様ですね!」
「…今日は、この子の服を見繕ってくれ」
彼がトオトセを奥の部屋に連れて行こうとした時、カノがすれ違い様に囁く。
「先ほどみたいに、余計なことは話すなよ」
二時間後にトオトセはやっと解放された。
仕立て屋が選んだ服をトオトセが着て、カノに可か不可を決めてもらうことを繰り返していたら、それだけ時間がかかったのだ。
服なんて着れればなんでもいいじゃねえかと思うのだが、カノは十着着て、一、二着気に入ればいい方で、ほとんど没にしていた。
それで、結局は仕立屋に採寸してもらって、後日出来上がった服を届けてもらうことになった。
「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」
カノのお眼鏡にかなった服に着替え、店を後にする。いつの間にかカノの機嫌も直っており、また手を繋がれた。
外なのにいいのだろうかと気になったが、わざわざ聞けば嫌がってるみたいで、彼が傷つくかもしれないと思い、気にしていないふりをした。
「…あのさ、いっぱい服買ってくれて嬉しいんだけどさ、別にそこまでしてくれなくてもいいんだぜ。オレ、しばらくしたらここから出て行くんだし」
「…迷惑だったかい?」
「いや、嬉しいって言ってるだろ。…ただ、ここまでお金を使ってもらう理由がないっていうか…」
トオトセには何もお礼に返すことはできないのだ。
カノが先ほど払ったお金も、領民の税金だろう。よそ者の自分にそこまで使ってもらうのは、なんだか領民にも申し訳ない気がした。
「理由、か。…君に一日でも長くそばにいて欲しいからではだめかい?」
なんだよ、それ。
それってどういう意味だよ。
そんなことを言われたら、離れがくなってしまうじゃないか。
トオトセはカノの顔を直視できなくなり、俯いた。買ってもらったばかりの、ぴかぴかの革靴の先っちょが目に入った。
また、二人の間に沈黙が流れる。
でもそれは嫌な感じではなくて、カノはあえてその静けささえも楽しんでいるようだった。一言一句言葉にしなくても、そばにいるだけで満足しているらしい。
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