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 自分の過去を全て話した次の日の午前中。
 トオトセはなんだかカノとの距離がぐっと近づいたような気がして、彼に会うのがいつも以上に楽しみだった。
 そこで、いいことを思いついた。
 隠れておいて、呼ばれてから飛び出して驚かせてやろう。

 「…ラン、入るよ」

 天井に張りついてしばらくもしないうちに、扉がこんこんこんと叩かれた。しかし、カノがいつものように部屋に入ると、そこには誰もいなかった。

 嫌な予感がした。
 まさか、逃げられたのか?
 鎖で拘束すれば絶対に心を開いてもらえないと思って、あえて自由にしていたのに。位置を特定できる魔法もかけておいたのに、いつの間に別邸から出て行ったのだろう。全く気づかなかった。

 「ラン?…トオトセ?どこにいる?返事をしてくれ!」

 カノは自分を落ち着かせようと、とりあえず呼びかけてみる。
 こうなったら、使用人達を集めて屋敷の周辺を探させるしかない。まだそう遠くには行っていないはずだ。

 「わーっ!」

 その時、宙に浮いたトオトセがぽんっとカノの肩に手を重ねた。
 カノが振り返ると、天使が舞い降りていた。大きな翼が窓から差し込む日の光を受けて、鮮やかに輝く。

 「びっくりした?」
 「ラン…脅かすなよ…」

 彼は怒りが収まらなかったので、その柔らかい頬をつねった。なるべく優しく。

 「いてっ!」
 「こんな悪い冗談は好きじゃない」
 「ごめん…!」
 
 小さな手を取って首に回して抱き寄せれば、体がぴたっと密着した。
 それでカノはいくらか冷静さを取り戻す。

 「…なあ、怒ることないだろ。機嫌直してくれよ…」
 「……」

 トオトセが眉を下げながら、上から彼の曇り空のような瞳を見つめた。
 視線が交錯し、それが合図となって二人とも目を閉じる。

 「あっ…!」

 もう少しで唇が重なるという時、トオトセが慌ててカノの首筋にしがみついた。

 「おっと…大丈夫かい?」

 見れば翼が消え、人間の姿に変わっていた。いつの間にか昼の十二時になっていたらしい。
 羽一本分の重さから人一人分の重さになっため、カノは彼を横抱きにする。

 「重いでしょ、下ろして…!」
 「そんなことはないよ、ほら、君はこんなにも軽い…!」

 カノがトオトセを抱えたまま、父親が子供にねだられてするみたいに部屋の中で回り出す。
 先ほどのぴりぴりとした空気が嘘のように、明るく和やかな空気に変わった。
 下ろしてと言いつつも、トオトセは楽しそうな声を上げて首筋に顔を寄せる。
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