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仮の体・仮の名

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 次の日の昼過ぎに、カノはトオトセの部屋に魔法使いを呼んでくれた。

 「初めまして、ヒロです。以後お見知り置きを」
 「…どうも」

 ヒロはにっこりと作りもののような笑みを浮かべた。彼は裾を引きずるほど長い上着を羽織り、とんがり帽子を被っていた。

 「あなたがトオトセさんですね?…それにしても初めて飛人を見ました、お会いできてとても光栄です」
 「…こちらこそ」

 彼に握手を求められ、トオトセはおずおずと手を差し出した。

 「さて、あなたをしばらく人間の姿にして欲しいと領主様から依頼されましたが、心の準備はよろしいですか?」
 「ああ、大丈夫だ」

 カノが見守る中、ヒロが呪文を唱えて杖を振ると、突然トオトセが光に包まれた。
 ただし、それは一瞬のことで、すぐに光は消え去る。彼は覚悟していたものの、特に痛みも何も感じず、肩透かしを食らった気分だった。

 「オレ、なんか変わった?」
 「…ああ、魔法は成功だ」

 カノがトオトセに近づき、その頬を撫でる。なぜか作品の出来栄えを確認するかのように、しきりに触れ続けていた。
 彼は怪訝に思いながら、今度はヒロに聞いてみる。

 「なあ、オレはどうなったんだよ?」
 「はい、どうぞ」
 「…え!」
 
 ヒロに手鏡を渡され、トオトセは思わず声を出してしまう。
 そこに映っていたのは、別人の顔だったからだ。もとよりも少し幼い顔立ちになっており、瞳の色も黒色から鳶色に変わっていた。似ているけれど、何もかも明らかに違う。
 そして、背中が軽くなったことにも気づく。というより、もう飛べなかった。翼がなくなっていた。

 「まあまあ、落ち着いてくださいよ。トオトセさん、いずれは故郷に帰りたいんでしょう?その時になったら、また魔法を解きますから、しばらくはこの姿でお過ごしください」
 「ああ、ヒロの言うとおりだ。君は、顔が割れているから、街に出かけた時に見つかりでもしたら大変だろう。それと、名前も変えた方がいいね、今や領のみんなが君の名前を知っているのだから」

 あくまでも一時的な変装に過ぎないので、トオトセは黙って現実を受け入れることにした。よく考えたら、まったくの別人になったみたいで、おもしろそうだし。

 「名前は…『ラン』なんていうのはどうだ?」
 「…それ、昔飼っていた小鳥の名前?」
 「…そうだ」
 「ふーん…じゃあ、それでいいよ」

 トオトセは新しい顔と新しい名前を手に入れた。
 これからは、人前では、人間の青年・ランとして振る舞わなければならない。

 「いいですか?魔法といえば、なんでも実現可能だと勘違いしている人がいますが、魔法は決して万能ではありません」
  
 去り際に、ヒロが教えてくれる。

 「魔法使いがなんでも解決できるならば、それはもはや魔法使いではなく、神です。もちろん、ボクも例外ではありません。そして、今、あなたにかけた魔法も完璧ではありません」
 「何か問題でもあるのか?」
 「ええ、この魔法は、昼の十二時から夜の十二時まであなたを人間の姿にすることができます。しかし、夜の十二時を過ぎると、あなたは本当の姿に戻ってしまいますので、くれぐれも時間に気をつけて行動するように…」
 「分かった…」

 こうして、一日の半分を人間として過ごし、残りの半分を飛人として過ごすこととなる。
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