【ガランド】羽切りトトセ「その愛は、手段を選ばない。」

さすらいの侍

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 目が覚めると、知らない男と目が合った。
 彼はベッドの横の椅子に腰掛け、じっとこちらを覗き込んでいた。

 「体の具合はどうだい?何か食べた方が…」

 否、先ほど輩から助けてくれた領主だった。助けられた後そのまま空腹のあまり気を失ってしまい、ここまで運んでベッドで寝かせてくれたらしい。

 マントがない…!
 翼を見られてしまった…!
 トオトセは勢いよくばざばさと音を立てて、男から一番遠い天井の角に張りついた。

 窓は閉じられている、ドアも開いていない。
 どうする?
 もう、窓を突き破って逃げるしか…。
 
 そこまで考えた時、空腹でやはり意識が朦朧として天井から逆さまに落ちてしまう。まるでぶら下がることに失敗したこうもりのように。
 だが、彼は覚悟して目を瞑ったものの、いつまでも体に衝撃が走ることはなかった。

 「…無理はしない方がいい」

 領主がベッドを踏み台にして落下地点まで飛び、受け止めてくれたようだ。横抱きにされたトオトセはぐったりと、弱々しく睨みつけることしかできなかった。

 「…オレをどうするつもりだ?」

 まさかこの翼を見て、何も打算的な考えがないとは言わせない。

 「…どうもしないよ。私は目の前で人が倒れたから、屋敷に連れ帰ったに過ぎない。そしてその相手が偶然飛人だった、それだけだよ」

 領主は彼をベッドに下ろした。

 「シーツは後で替えさせるから、まずは何か食べなさい」

 そう言って使用人に食事を持って来させると、彼に与えようとした。
 だが、トオトセは警戒している為、どんなに匙で唇を突かれても口には入れなかった。

 「いらねえよ」

 彼は匙を持つ手を押し退けたり、顔を背けたりした。本当は食べたくてたまらないだろうに、疑り深いためにずっと欲望に逆らっている。
 仕方がないので領主ははあと、ため息をついて一口食べてみせた後、再びトオトセに匙を差し出した。

 「毒などは入っていない。安心して食べなさい」

 ちょうど彼のお腹の虫が鳴った。
 彼はすごく恥ずかしくなった。もうどうにでもなれと開き直ると、領主から匙をひったくって勢いよく食べ始めた。
 おいしかった。
 腹が空き過ぎてもはやなんでもうまかったのだろうが、それにしたってうまかった。
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