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運命の日の昼も、トオトセは檻の中で、薄い布に包まって二度寝をしていた。すると、小さな足音が近づいてくるのが聞こえる。
どうせ、また人間がくだらない連絡事項でも言いに来たに違いないと無視していると、かわいらしい声がした。
「あなたが飛人さん?」
「…そうだけど、君は誰?」
起き上がって檻越しに見下ろすと、小さくて人形のような女の子が立っていた。
いかにも貴族または商人の娘といった出立ちをしており、ちょうどトオトセが攫われた時と同じくらいの年頃に見える。体が猫のように小さいので、テントの隙間から潜り込んだのだろう。
「わたしはケイナ。今日の午後まで待てなくて、先に見に来ちゃった。あなたは踊りが上手なんですってね」
「…まあな、うまくなけりゃ、おまんまが食えませんからね」
おたくと違って。
と、最後まで言ってしまいそうになったが、かろうじて飲み込んだ。一回りくらい年下の女の子に嫌味なんか言ってどうする。
「それで、お嬢ちゃんはオレに何か用かい?サインでも書いてやろうか?」
子供はおとなよりもよっぽど純粋なので、相手くらいはしてやってもいいと思い、からかい口調でたずねた。
「ええ、それもいいけど、一つお願いがあるの。最近、お母様が病気で倒れちゃってね。飛人の羽を贈れば元気になるんじゃないかと思うの…」
そんなのはお安いご用だ。
人間にとって、飛人の羽は大変ありがたいお守りになるというが、飛人からすれば髪と同じで羽なんて大したものではない。なんだったら、家族分渡したっていい。
背中に手を伸ばして、羽を引き抜こうとした時、ふと近くの粗末な椅子の上に、大嫌いな団長の上着が無造作に置かれているのが視界に入った。そして、ポケットから何かがこぼれ落ちそうになっているのも。
そうか、急に暑くなったから上着を脱いでしまったんだ。それで、ポケットに鍵の束を入れっぱなしにしていたことを忘れて、そのまま昼飯を食べに出かけたんだ…!
トオトセは羽を引き抜くのをやめて、語りかける。
「…お嬢ちゃん、オレと取り引きしよう。君がオレのお願いを聞いてくれたら、羽を一本どころか、何本でもやろう」
「本当?何をすればいいの?」
「あそこに上着があるだろ、そのポケットから鍵を取って来てくれ、早く」
「分かった…!」
ケイナが急いで鍵を持って来てくれた。
震える手でかちゃかちゃと足枷の鍵穴にそれを差し込む。
もし、今団長が帰って来たらどうしよう。また鞭で叩かれるのだけは嫌だ。早く、急げ、急げ…!
トオトセが恐怖と戦いながら鍵を横に回すと、それはあっけなく真っ二つに割れて、十数年ぶりに足が解放された。
続けて、檻の南京錠も開錠して、とうとうトオトセは自由になった。
檻から飛び出して、少女を抱き締める。
「ありがとう、やっとここから出られる!君のおかげだ…!」
彼女の頭にキスをすると、トオトセは乱暴に羽をむしって手渡した。
「これで足りるかな?」
「ええ、ちょうど家族分あるわ。もうあなたには会えないのね?」
「ああ、これっきりだ。ケイナちゃんも早く逃げた方がいい。もうここには来たらだめだぜ」
そうして、トオトセは逃げ出すことに成功した。
どうせ、また人間がくだらない連絡事項でも言いに来たに違いないと無視していると、かわいらしい声がした。
「あなたが飛人さん?」
「…そうだけど、君は誰?」
起き上がって檻越しに見下ろすと、小さくて人形のような女の子が立っていた。
いかにも貴族または商人の娘といった出立ちをしており、ちょうどトオトセが攫われた時と同じくらいの年頃に見える。体が猫のように小さいので、テントの隙間から潜り込んだのだろう。
「わたしはケイナ。今日の午後まで待てなくて、先に見に来ちゃった。あなたは踊りが上手なんですってね」
「…まあな、うまくなけりゃ、おまんまが食えませんからね」
おたくと違って。
と、最後まで言ってしまいそうになったが、かろうじて飲み込んだ。一回りくらい年下の女の子に嫌味なんか言ってどうする。
「それで、お嬢ちゃんはオレに何か用かい?サインでも書いてやろうか?」
子供はおとなよりもよっぽど純粋なので、相手くらいはしてやってもいいと思い、からかい口調でたずねた。
「ええ、それもいいけど、一つお願いがあるの。最近、お母様が病気で倒れちゃってね。飛人の羽を贈れば元気になるんじゃないかと思うの…」
そんなのはお安いご用だ。
人間にとって、飛人の羽は大変ありがたいお守りになるというが、飛人からすれば髪と同じで羽なんて大したものではない。なんだったら、家族分渡したっていい。
背中に手を伸ばして、羽を引き抜こうとした時、ふと近くの粗末な椅子の上に、大嫌いな団長の上着が無造作に置かれているのが視界に入った。そして、ポケットから何かがこぼれ落ちそうになっているのも。
そうか、急に暑くなったから上着を脱いでしまったんだ。それで、ポケットに鍵の束を入れっぱなしにしていたことを忘れて、そのまま昼飯を食べに出かけたんだ…!
トオトセは羽を引き抜くのをやめて、語りかける。
「…お嬢ちゃん、オレと取り引きしよう。君がオレのお願いを聞いてくれたら、羽を一本どころか、何本でもやろう」
「本当?何をすればいいの?」
「あそこに上着があるだろ、そのポケットから鍵を取って来てくれ、早く」
「分かった…!」
ケイナが急いで鍵を持って来てくれた。
震える手でかちゃかちゃと足枷の鍵穴にそれを差し込む。
もし、今団長が帰って来たらどうしよう。また鞭で叩かれるのだけは嫌だ。早く、急げ、急げ…!
トオトセが恐怖と戦いながら鍵を横に回すと、それはあっけなく真っ二つに割れて、十数年ぶりに足が解放された。
続けて、檻の南京錠も開錠して、とうとうトオトセは自由になった。
檻から飛び出して、少女を抱き締める。
「ありがとう、やっとここから出られる!君のおかげだ…!」
彼女の頭にキスをすると、トオトセは乱暴に羽をむしって手渡した。
「これで足りるかな?」
「ええ、ちょうど家族分あるわ。もうあなたには会えないのね?」
「ああ、これっきりだ。ケイナちゃんも早く逃げた方がいい。もうここには来たらだめだぜ」
そうして、トオトセは逃げ出すことに成功した。
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