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 それから四日が過ぎた。
 彼はいまだにこの街から出ることができずに、ただたださ迷い続けていた。
 水も食事もまともなものを口にしていない。喉が渇いて、お腹が空いて死にそうだった。
 こんなはずではなかったのに…。
 当初の予定では、とっくに大空を羽ばたいていたはずなのに。
 どうして、こうもうまくはいかないものなのか。
 青年は道端の隅で膝を抱えて座り込んだ。
 
 一週間前に、サーカス団はこの街にやって来たばかりだった。トオトセは檻の中で、人間達がせっせとテントを設営したり、予行演習を行ったりする様を退屈そうに見ていた。
 ところが、四日前の昼に、逃げ出す千載一遇の好機が転がり込む。
 その日の午後、サーカス団の一員として、飛人であるトオトセも舞台に立つことになっていた。

 飛人とは、背中に大きな翼を生やしたまるで天使のような種族のことで、その珍しさから捕縛されて奴隷にされてしまうことがよくあった。
 トオトセもその哀れなひとりだった。
 十二才の時、成人の儀で穴籠もりしていたところを狙われて、抵抗する間もなく連れ去られた。
 飛人族の間では、自分ひとりで重たくなった翼の羽を鋏で切り落として軽くできてこそ、一人前だという考えが伝わっており、子供達だけで穴籠もりさせていたので毎年被害が出ていた。

 それからは今の団長に買われ、奴隷として生きることを余儀なくされる。 
 トオトセは攫われた日を境に二度と大空を飛ぶことはなかった。
 せいぜい汚いテントの中で飛び回って、踊ることしかできなかった。

 オレは鳥以下だと、彼は思う。
 あいつらは好きな時に好きな歌を口ずさみ、行きたい所に行ける。
 けれども、オレは口答えすることも許されなければ、どこかに行くこともできやしない。オレの方が大きくて立派な翼があるというのに。
 重くて太い足枷が、トオトセの自由を封じ込めていた。

 いつの間にか、空を見るのをやめた。
 考えるのをやめた。
 だから、仕事で呼ばれる時以外は、ずっと眠ることにしていた。
 そうすれば、期待しなくて済むから。
 叶わない夢を見なくて済むから…。
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