2 / 15
໒꒱
しおりを挟む
それから四日が過ぎた。
彼はいまだにこの街から出ることができずに、ただたださ迷い続けていた。
水も食事もまともなものを口にしていない。喉が渇いて、お腹が空いて死にそうだった。
こんなはずではなかったのに…。
当初の予定では、とっくに大空を羽ばたいていたはずなのに。
どうして、こうもうまくはいかないものなのか。
青年は道端の隅で膝を抱えて座り込んだ。
一週間前に、サーカス団はこの街にやって来たばかりだった。トオトセは檻の中で、人間達がせっせとテントを設営したり、予行演習を行ったりする様を退屈そうに見ていた。
ところが、四日前の昼に、逃げ出す千載一遇の好機が転がり込む。
その日の午後、サーカス団の一員として、飛人であるトオトセも舞台に立つことになっていた。
飛人とは、背中に大きな翼を生やしたまるで天使のような種族のことで、その珍しさから捕縛されて奴隷にされてしまうことがよくあった。
トオトセもその哀れなひとりだった。
十二才の時、成人の儀で穴籠もりしていたところを狙われて、抵抗する間もなく連れ去られた。
飛人族の間では、自分ひとりで重たくなった翼の羽を鋏で切り落として軽くできてこそ、一人前だという考えが伝わっており、子供達だけで穴籠もりさせていたので毎年被害が出ていた。
それからは今の団長に買われ、奴隷として生きることを余儀なくされる。
トオトセは攫われた日を境に二度と大空を飛ぶことはなかった。
せいぜい汚いテントの中で飛び回って、踊ることしかできなかった。
オレは鳥以下だと、彼は思う。
あいつらは好きな時に好きな歌を口ずさみ、行きたい所に行ける。
けれども、オレは口答えすることも許されなければ、どこかに行くこともできやしない。オレの方が大きくて立派な翼があるというのに。
重くて太い足枷が、トオトセの自由を封じ込めていた。
いつの間にか、空を見るのをやめた。
考えるのをやめた。
だから、仕事で呼ばれる時以外は、ずっと眠ることにしていた。
そうすれば、期待しなくて済むから。
叶わない夢を見なくて済むから…。
彼はいまだにこの街から出ることができずに、ただたださ迷い続けていた。
水も食事もまともなものを口にしていない。喉が渇いて、お腹が空いて死にそうだった。
こんなはずではなかったのに…。
当初の予定では、とっくに大空を羽ばたいていたはずなのに。
どうして、こうもうまくはいかないものなのか。
青年は道端の隅で膝を抱えて座り込んだ。
一週間前に、サーカス団はこの街にやって来たばかりだった。トオトセは檻の中で、人間達がせっせとテントを設営したり、予行演習を行ったりする様を退屈そうに見ていた。
ところが、四日前の昼に、逃げ出す千載一遇の好機が転がり込む。
その日の午後、サーカス団の一員として、飛人であるトオトセも舞台に立つことになっていた。
飛人とは、背中に大きな翼を生やしたまるで天使のような種族のことで、その珍しさから捕縛されて奴隷にされてしまうことがよくあった。
トオトセもその哀れなひとりだった。
十二才の時、成人の儀で穴籠もりしていたところを狙われて、抵抗する間もなく連れ去られた。
飛人族の間では、自分ひとりで重たくなった翼の羽を鋏で切り落として軽くできてこそ、一人前だという考えが伝わっており、子供達だけで穴籠もりさせていたので毎年被害が出ていた。
それからは今の団長に買われ、奴隷として生きることを余儀なくされる。
トオトセは攫われた日を境に二度と大空を飛ぶことはなかった。
せいぜい汚いテントの中で飛び回って、踊ることしかできなかった。
オレは鳥以下だと、彼は思う。
あいつらは好きな時に好きな歌を口ずさみ、行きたい所に行ける。
けれども、オレは口答えすることも許されなければ、どこかに行くこともできやしない。オレの方が大きくて立派な翼があるというのに。
重くて太い足枷が、トオトセの自由を封じ込めていた。
いつの間にか、空を見るのをやめた。
考えるのをやめた。
だから、仕事で呼ばれる時以外は、ずっと眠ることにしていた。
そうすれば、期待しなくて済むから。
叶わない夢を見なくて済むから…。
10
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※溺愛までが長いです。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる