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第X章
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「お嬢、そちらの方は」
恵那が答えるより先に十才が名乗った。
「待鳥 十才です。新しく酉として入りました、よろしくお願いします」
「待鳥さんが新しい酉なんですね…!」
「おまえが噂の新入りか」
恵那が目を見開いて驚き、末吉が意外そうに彼を上から下まで眺めた。
「まあ、先ほどもどうやらお話ししていたみたいですし、赤の他人でもないので、一緒にお茶くらいしてもいいでしょう。ただし、俺は会話こそ聞きませんが、お二人が見える位置にいますので、ご了承ください」
「それで大丈夫です」
厳しいお目付役の許しが出たので、十才は彼女を連れて先ほどの席に向かい合うようにして座る。入り口付近の席に座った末吉と目が合い、彼は軽く会釈をした。
「恵那ちゃんは何にするの?」
「えっと…このマンゴー・パフェを食べてみたくって…」
マンゴー・パフェはこのカフェの名物らしいが、なかなか部屋から外に出ることを許されない恵那は、食べたくても食べられなかったのだという。
末吉に持ち帰りさせることもできなくはないが、言いにくい相手であることは容易に想像できた。それに、やはり同じものでもカフェで食べた方がずっとうまい。雰囲気は大切だ。
「おいしい…。私、カフェにほとんど入ったことがないから、待鳥さんとこうしているのが夢みたいです…」
三十センチほどの大きなパフェのアイス・クリームを掬って一口食べると、彼女は心の底から幸せそうな笑みを溢した。
「十才でいいよ、オレもこんなかわいいお嬢さんとデートできて嬉しい」
「そんな、あなたはいつもいろんな女性とデートしているんでしょう…!」
褒められ慣れていないのか、やはり熟れた果物のように赤くなった。
「…そんなことないよ、オレなんて全然。彼女も今まで…三人しかいなかったし」
危うく彼女が一人もいなかったと言ってしまいそうになったが、それでは格好がつかないので見栄を張って虚偽の申告をした。まあ、零も三もそんなに変わらないはず。
「え、そうなんですか、もっと恋愛経験がありそうなのに…」
「オレは一途だから付き合ったら長いの!…ところで恵那ちゃんの叔父さんかっこいいね、あんなかっこいい人が近くにいると、同世代の男子なんて興味ないでしょ」
わざと賀野について振ると、先ほどまでパフェをぱくぱくと食べていた彼女の手が止まる。
「叔父様は確かにハンサムですが…」
何か言いたげだが言ってはいけない、葛藤を抱えているようだ。彼女は何を知っているのだろうか。
「そう言えば十才さんはどうして酉に?」
恵那が話題を変えたので、気にしていない様子でそれに乗る。
「間違えて前の酉が経営するぼったくりバーに入っちゃってさー、揉めたんだよね。それでオレがそいつを病院送りにしちゃったから、相島さんに代わりをやらないかって誘われて。…逆らうと後が怖いじゃん、だからとりあえず来たってわけ」
「そんなことが…」
「逆に他の選手ってどんな感じで入るの?」
十才がカフェ・オ・レの残りを飲み干す。
「詳しくは分かりませんが、スカウトだったり、自分から売り込みに来たりする人もいるみたいですよ」
「じゃあさ、子ってどんな人なの?やっぱりめちゃくちゃ強い?」
「はい、それはもう。三年もその座を守り続けていますから。森山さんが出る時は、もっと大きな船を手配しないといけないくらい、お客さんが集まるんですよ」
「へー、集客力が違うってことか」
「はい。あ、そうだ、戌には気をつけてくださいね。金田さんはよく問題を起こす人なので。私の考え過ぎならそれでいいのですが、あの人は新入りが自分よりも上なのを快く思わないかもしれません」
「…分かった、忠告をありがとう」
どうやらここにも新人いびりをする輩がいるらしい。十才としては内部事情を探る為にできれば仲良くしたいが、そう簡単にはいかなさそうだ。
「お話中失礼します、お嬢、そろそろ帰りますよ。明日はリハーサルもありますから」
恵那がパフェを食べ終えるのを見計らって、末吉が呼びに来る。それにしてもこんなに細いのによく食べる娘だ。人のことは言えないけれど。
「はい、十才さんありがとうございました、おやすみなさい」
「おやすみ」
十才はにこっと甘い夢が見られそうな笑みを浮かべた。
恵那が答えるより先に十才が名乗った。
「待鳥 十才です。新しく酉として入りました、よろしくお願いします」
「待鳥さんが新しい酉なんですね…!」
「おまえが噂の新入りか」
恵那が目を見開いて驚き、末吉が意外そうに彼を上から下まで眺めた。
「まあ、先ほどもどうやらお話ししていたみたいですし、赤の他人でもないので、一緒にお茶くらいしてもいいでしょう。ただし、俺は会話こそ聞きませんが、お二人が見える位置にいますので、ご了承ください」
「それで大丈夫です」
厳しいお目付役の許しが出たので、十才は彼女を連れて先ほどの席に向かい合うようにして座る。入り口付近の席に座った末吉と目が合い、彼は軽く会釈をした。
「恵那ちゃんは何にするの?」
「えっと…このマンゴー・パフェを食べてみたくって…」
マンゴー・パフェはこのカフェの名物らしいが、なかなか部屋から外に出ることを許されない恵那は、食べたくても食べられなかったのだという。
末吉に持ち帰りさせることもできなくはないが、言いにくい相手であることは容易に想像できた。それに、やはり同じものでもカフェで食べた方がずっとうまい。雰囲気は大切だ。
「おいしい…。私、カフェにほとんど入ったことがないから、待鳥さんとこうしているのが夢みたいです…」
三十センチほどの大きなパフェのアイス・クリームを掬って一口食べると、彼女は心の底から幸せそうな笑みを溢した。
「十才でいいよ、オレもこんなかわいいお嬢さんとデートできて嬉しい」
「そんな、あなたはいつもいろんな女性とデートしているんでしょう…!」
褒められ慣れていないのか、やはり熟れた果物のように赤くなった。
「…そんなことないよ、オレなんて全然。彼女も今まで…三人しかいなかったし」
危うく彼女が一人もいなかったと言ってしまいそうになったが、それでは格好がつかないので見栄を張って虚偽の申告をした。まあ、零も三もそんなに変わらないはず。
「え、そうなんですか、もっと恋愛経験がありそうなのに…」
「オレは一途だから付き合ったら長いの!…ところで恵那ちゃんの叔父さんかっこいいね、あんなかっこいい人が近くにいると、同世代の男子なんて興味ないでしょ」
わざと賀野について振ると、先ほどまでパフェをぱくぱくと食べていた彼女の手が止まる。
「叔父様は確かにハンサムですが…」
何か言いたげだが言ってはいけない、葛藤を抱えているようだ。彼女は何を知っているのだろうか。
「そう言えば十才さんはどうして酉に?」
恵那が話題を変えたので、気にしていない様子でそれに乗る。
「間違えて前の酉が経営するぼったくりバーに入っちゃってさー、揉めたんだよね。それでオレがそいつを病院送りにしちゃったから、相島さんに代わりをやらないかって誘われて。…逆らうと後が怖いじゃん、だからとりあえず来たってわけ」
「そんなことが…」
「逆に他の選手ってどんな感じで入るの?」
十才がカフェ・オ・レの残りを飲み干す。
「詳しくは分かりませんが、スカウトだったり、自分から売り込みに来たりする人もいるみたいですよ」
「じゃあさ、子ってどんな人なの?やっぱりめちゃくちゃ強い?」
「はい、それはもう。三年もその座を守り続けていますから。森山さんが出る時は、もっと大きな船を手配しないといけないくらい、お客さんが集まるんですよ」
「へー、集客力が違うってことか」
「はい。あ、そうだ、戌には気をつけてくださいね。金田さんはよく問題を起こす人なので。私の考え過ぎならそれでいいのですが、あの人は新入りが自分よりも上なのを快く思わないかもしれません」
「…分かった、忠告をありがとう」
どうやらここにも新人いびりをする輩がいるらしい。十才としては内部事情を探る為にできれば仲良くしたいが、そう簡単にはいかなさそうだ。
「お話中失礼します、お嬢、そろそろ帰りますよ。明日はリハーサルもありますから」
恵那がパフェを食べ終えるのを見計らって、末吉が呼びに来る。それにしてもこんなに細いのによく食べる娘だ。人のことは言えないけれど。
「はい、十才さんありがとうございました、おやすみなさい」
「おやすみ」
十才はにこっと甘い夢が見られそうな笑みを浮かべた。
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