ガランド・マカロン「特別な人編」

さすらいの侍

文字の大きさ
上 下
6 / 49
第X章

しおりを挟む
 「お嬢、そちらの方は」
 恵那が答えるより先に十才が名乗った。
 「待鳥 十才です。新しく酉として入りました、よろしくお願いします」
 「待鳥さんが新しい酉なんですね…!」
 「おまえが噂の新入りか」
 恵那が目を見開いて驚き、末吉が意外そうに彼を上から下まで眺めた。
 「まあ、先ほどもどうやらお話ししていたみたいですし、赤の他人でもないので、一緒にお茶くらいしてもいいでしょう。ただし、俺は会話こそ聞きませんが、お二人が見える位置にいますので、ご了承ください」
 「それで大丈夫です」
 厳しいお目付役の許しが出たので、十才は彼女を連れて先ほどの席に向かい合うようにして座る。入り口付近の席に座った末吉と目が合い、彼は軽く会釈をした。
 「恵那ちゃんは何にするの?」
 「えっと…このマンゴー・パフェを食べてみたくって…」
 マンゴー・パフェはこのカフェの名物らしいが、なかなか部屋から外に出ることを許されない恵那は、食べたくても食べられなかったのだという。
 末吉に持ち帰りさせることもできなくはないが、言いにくい相手であることは容易に想像できた。それに、やはり同じものでもカフェで食べた方がずっとうまい。雰囲気は大切だ。
 「おいしい…。私、カフェにほとんど入ったことがないから、待鳥さんとこうしているのが夢みたいです…」
 三十センチほどの大きなパフェのアイス・クリームを掬って一口食べると、彼女は心の底から幸せそうな笑みを溢した。
 「十才でいいよ、オレもこんなかわいいお嬢さんとデートできて嬉しい」
 「そんな、あなたはいつもいろんな女性とデートしているんでしょう…!」
 褒められ慣れていないのか、やはり熟れた果物のように赤くなった。
 「…そんなことないよ、オレなんて全然。彼女も今まで…三人しかいなかったし」
 危うく彼女が一人もいなかったと言ってしまいそうになったが、それでは格好がつかないので見栄を張って虚偽の申告をした。まあ、零も三もそんなに変わらないはず。
 「え、そうなんですか、もっと恋愛経験がありそうなのに…」
 「オレは一途だから付き合ったら長いの!…ところで恵那ちゃんの叔父さんかっこいいね、あんなかっこいい人が近くにいると、同世代の男子なんて興味ないでしょ」
 わざと賀野について振ると、先ほどまでパフェをぱくぱくと食べていた彼女の手が止まる。
 「叔父様は確かにハンサムですが…」
 何か言いたげだが言ってはいけない、葛藤を抱えているようだ。彼女は何を知っているのだろうか。
 「そう言えば十才さんはどうして酉に?」
 恵那が話題を変えたので、気にしていない様子でそれに乗る。
 「間違えて前の酉が経営するぼったくりバーに入っちゃってさー、揉めたんだよね。それでオレがそいつを病院送りにしちゃったから、相島さんに代わりをやらないかって誘われて。…逆らうと後が怖いじゃん、だからとりあえず来たってわけ」
 「そんなことが…」
 「逆に他の選手ってどんな感じで入るの?」
 十才がカフェ・オ・レの残りを飲み干す。
 「詳しくは分かりませんが、スカウトだったり、自分から売り込みに来たりする人もいるみたいですよ」
 「じゃあさ、子ってどんな人なの?やっぱりめちゃくちゃ強い?」
 「はい、それはもう。三年もその座を守り続けていますから。森山さんが出る時は、もっと大きな船を手配しないといけないくらい、お客さんが集まるんですよ」
 「へー、集客力が違うってことか」
 「はい。あ、そうだ、戌には気をつけてくださいね。金田さんはよく問題を起こす人なので。私の考え過ぎならそれでいいのですが、あの人は新入りが自分よりも上なのを快く思わないかもしれません」
 「…分かった、忠告をありがとう」
 どうやらここにも新人いびりをする輩がいるらしい。十才としては内部事情を探る為にできれば仲良くしたいが、そう簡単にはいかなさそうだ。
 「お話中失礼します、お嬢、そろそろ帰りますよ。明日はリハーサルもありますから」
 恵那がパフェを食べ終えるのを見計らって、末吉が呼びに来る。それにしてもこんなに細いのによく食べるだ。人のことは言えないけれど。
 「はい、十才さんありがとうございました、おやすみなさい」
 「おやすみ」
 十才はにこっと甘い夢が見られそうな笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...