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第X章
待鳥 十才
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この世には二種類の人間がいる。超能力を持つ者と持たざる者だ。
しかし、両者には優劣はなく、同じ人間である。
超能力者は特別な血液型を持ち、その英単語(Psychics)の頭文字をとってP型と呼ばれる。日本では生まれてすぐに病院で血液型検査がなされ、P型だと判明した赤子は十二時間以内に国に保護されることが法律で定められている。
これは超能力者の赤子が犯罪組織に攫われたり、その力が暴走したりするのを防ぐ為であり、またその親が犯罪に巻き込まれないようにする為でもある。
赤子は一生に渡って徹底的に国に管理されるので、生まれた時が親子の最初で最後の触れ合いとなってしまう。離れたが最後、永遠に面会も文通さえも許されない。
もちろん、全ての人間が理解を示すわけではなく、厳し過ぎる体制に人権侵害を訴え、国のやり方を批判する者たちも存在する。
赤子たちは国が運営する巨大な施設・超能力研究開発機関で職員によって大切に育てられ、保護されて三から五年経つと超能力を発現する。
その後は施設の教室で基礎科目の授業は無論、様々な訓練も受けて超能力を伸ばしたり制御するための術を学んでいく。
そして成人すると、超能力や適性を考慮して、国からふさわしい仕事を振り分けられる。たとえ本人の希望と違っていたとしても、これを拒絶することは何人たりとも許されなかった。
なぜなら、生まれた時から国の税金で生かされている彼らは、国に報いることが義務付けられているからである。成人したとしても常に犯罪と隣り合わせであることに変わりはない為、監視をするという意味でもその方が都合がよいのだ。
これだけ聞くと超能力者はなんて哀れで自由のない存在なのかと思うかもしれないが、そうは思わない男がいた。むしろ己は選ばれた特別な存在だと誇っていた。
その男こそ待鳥 十才であった。
日本に十七人いる超能力者のうちの一人で、鋭利物限定念動力の持ち主だった。
一般的な念動力と違って、尖ったものしか操ることができないという制限はあったが、その代わり類稀なる戦闘の才と合わせて訓練では常に進化し続けていた。
おまけに端正な顔立ちと社交的な性格で、機関でもかなりかわいがられたという。もっとも、突拍子もないことをしたり、規則を破ったりして怒られることも珍しくはなかったが。
成人後に十才は本人も強く希望していたとおり、極悪犯罪に立ち向かう秘密部隊に配属された。
警察と協力して犯罪者を取り締まったり、捜査したりする部隊であるが、いわば警察からの要請で国から超能力者を貸し出す為の仕組みであった。
常に戦闘がつきもので、何よりも戦うことを得意としていた十才からしてみればそれはまさに天職だった。任務がない時も仲間同士で技を磨き続けた。
そして二十五の時、覚醒剤で莫大な利益を上げる組織の潜入捜査に抜擢される。
その組織というのが賀野 凌が組長として君臨する天童会系賀野組だった。
天童会は全国に拠点を持ち、日本で二十七ある指定暴力団体の一つである。
百を超える直系組織と七千人の構成員を誇る、日本で一番大きなヤクザ組織だ。準構成員も合わせると倍の一万五千人になり、全体のおよそ半分を天童会で占めている(最盛期には暴力団構成員・準構成員が日本全国で十九万人近くもいたが、現在では掻き集めてもとうとう三万人を切るようになってしまった)。
他が暴対法(暴力団による不当な行為の防止等に関する法律)や暴排条例(暴力団排除条例)などが施行されて衰退の一途を辿る中、天童会はその前から時代が変わることを読んで次々にシノギの手口を巧妙化させ、巨万の富を築いた。
彼らの主なシノギの一つが覚醒剤であった。
密造から密入までを一本化して行ない、それを他組織に卸すことでほぼ日本の覚醒剤市場を牛耳ることができた。相場を操って流通を制限し、我が世の春を謳歌した。
そして賀野は天童会会長・賀野 正和の実子であることから若頭として大型シノギである覚醒剤ビジネスを任され、自らも二次団体の賀野組を率いて権力をほしいままにしているらしい。
そして何よりも特筆すべきは、賀野が超能力者であること。彼は熱操作の超能力を持ち、瞬時に空気中の水分の熱を奪って氷を作ることも、奪った熱を放出してそれを溶かすことも可能だった。
覚醒剤は製造過程において強烈な匂いを放ち、植物をも枯れさせてしまう為、必然的に日本でなく外国の工場で密造されることになるが、問題はその密輸方法であった。
瀬取りをして陸揚げしたものを捌いているというところまでは分かっているのだが、どんなに捜査をしても瀬取りをしている現場を抑えられないのである。
その方法を調べるべく、十才に白羽の矢が立った。天童会では会長以外の全員が他に守るべき己の組織を持つ組長でもある為、組も何も持たない十才が潜り込めるわけがなかったので、一つ下の賀野組に狙いを定める。
十才が選ばれたのには二つ理由があった。
一つは賀野組は覚醒剤の他にも格闘賭場も主催して大儲けしているので、戦闘に優れた十才なら容易に潜り込めると考えられたことである。定期的に船上カジノを開き、そこでルーレットやカードなどのゲームだけではなく、人と人を対戦させる賭け試合も行うという。
ちなみに覚醒剤と賭博が天童会の二大シノギであることから、これらをまとめて「鳥の二本足」と呼ぶ。組織の代紋に鳥居が使われている為であり、ヤクザ界で「鳥」と言えば天童会を指す。
もう一つはいざという時、同じ超能力者である賀野 凌に太刀打ちできるのも十才ぐらいであったからだ。普通は武器がなければ戦えない状況でも、十才は戦えるように訓練されている為、問題はないだろうと思われた。
ただし、超能力は緊急時以外は使ってはならないときつく言われた。
基本的に超能力者は、国が管理しているか犯罪組織に所属しているかのどちらかだからだ。
先ほども「日本には十七人の超能力者がいる」と記したが、賀野のように野放しになっている者もいるので、実際は二十人以上だと推定されている。
つまり、五十四枚あるトランプカードのうち、何枚かを抜かすことなく二人で二十七枚分け合って、互いの手札が分かっているような状況なのである。
しかし、両者には優劣はなく、同じ人間である。
超能力者は特別な血液型を持ち、その英単語(Psychics)の頭文字をとってP型と呼ばれる。日本では生まれてすぐに病院で血液型検査がなされ、P型だと判明した赤子は十二時間以内に国に保護されることが法律で定められている。
これは超能力者の赤子が犯罪組織に攫われたり、その力が暴走したりするのを防ぐ為であり、またその親が犯罪に巻き込まれないようにする為でもある。
赤子は一生に渡って徹底的に国に管理されるので、生まれた時が親子の最初で最後の触れ合いとなってしまう。離れたが最後、永遠に面会も文通さえも許されない。
もちろん、全ての人間が理解を示すわけではなく、厳し過ぎる体制に人権侵害を訴え、国のやり方を批判する者たちも存在する。
赤子たちは国が運営する巨大な施設・超能力研究開発機関で職員によって大切に育てられ、保護されて三から五年経つと超能力を発現する。
その後は施設の教室で基礎科目の授業は無論、様々な訓練も受けて超能力を伸ばしたり制御するための術を学んでいく。
そして成人すると、超能力や適性を考慮して、国からふさわしい仕事を振り分けられる。たとえ本人の希望と違っていたとしても、これを拒絶することは何人たりとも許されなかった。
なぜなら、生まれた時から国の税金で生かされている彼らは、国に報いることが義務付けられているからである。成人したとしても常に犯罪と隣り合わせであることに変わりはない為、監視をするという意味でもその方が都合がよいのだ。
これだけ聞くと超能力者はなんて哀れで自由のない存在なのかと思うかもしれないが、そうは思わない男がいた。むしろ己は選ばれた特別な存在だと誇っていた。
その男こそ待鳥 十才であった。
日本に十七人いる超能力者のうちの一人で、鋭利物限定念動力の持ち主だった。
一般的な念動力と違って、尖ったものしか操ることができないという制限はあったが、その代わり類稀なる戦闘の才と合わせて訓練では常に進化し続けていた。
おまけに端正な顔立ちと社交的な性格で、機関でもかなりかわいがられたという。もっとも、突拍子もないことをしたり、規則を破ったりして怒られることも珍しくはなかったが。
成人後に十才は本人も強く希望していたとおり、極悪犯罪に立ち向かう秘密部隊に配属された。
警察と協力して犯罪者を取り締まったり、捜査したりする部隊であるが、いわば警察からの要請で国から超能力者を貸し出す為の仕組みであった。
常に戦闘がつきもので、何よりも戦うことを得意としていた十才からしてみればそれはまさに天職だった。任務がない時も仲間同士で技を磨き続けた。
そして二十五の時、覚醒剤で莫大な利益を上げる組織の潜入捜査に抜擢される。
その組織というのが賀野 凌が組長として君臨する天童会系賀野組だった。
天童会は全国に拠点を持ち、日本で二十七ある指定暴力団体の一つである。
百を超える直系組織と七千人の構成員を誇る、日本で一番大きなヤクザ組織だ。準構成員も合わせると倍の一万五千人になり、全体のおよそ半分を天童会で占めている(最盛期には暴力団構成員・準構成員が日本全国で十九万人近くもいたが、現在では掻き集めてもとうとう三万人を切るようになってしまった)。
他が暴対法(暴力団による不当な行為の防止等に関する法律)や暴排条例(暴力団排除条例)などが施行されて衰退の一途を辿る中、天童会はその前から時代が変わることを読んで次々にシノギの手口を巧妙化させ、巨万の富を築いた。
彼らの主なシノギの一つが覚醒剤であった。
密造から密入までを一本化して行ない、それを他組織に卸すことでほぼ日本の覚醒剤市場を牛耳ることができた。相場を操って流通を制限し、我が世の春を謳歌した。
そして賀野は天童会会長・賀野 正和の実子であることから若頭として大型シノギである覚醒剤ビジネスを任され、自らも二次団体の賀野組を率いて権力をほしいままにしているらしい。
そして何よりも特筆すべきは、賀野が超能力者であること。彼は熱操作の超能力を持ち、瞬時に空気中の水分の熱を奪って氷を作ることも、奪った熱を放出してそれを溶かすことも可能だった。
覚醒剤は製造過程において強烈な匂いを放ち、植物をも枯れさせてしまう為、必然的に日本でなく外国の工場で密造されることになるが、問題はその密輸方法であった。
瀬取りをして陸揚げしたものを捌いているというところまでは分かっているのだが、どんなに捜査をしても瀬取りをしている現場を抑えられないのである。
その方法を調べるべく、十才に白羽の矢が立った。天童会では会長以外の全員が他に守るべき己の組織を持つ組長でもある為、組も何も持たない十才が潜り込めるわけがなかったので、一つ下の賀野組に狙いを定める。
十才が選ばれたのには二つ理由があった。
一つは賀野組は覚醒剤の他にも格闘賭場も主催して大儲けしているので、戦闘に優れた十才なら容易に潜り込めると考えられたことである。定期的に船上カジノを開き、そこでルーレットやカードなどのゲームだけではなく、人と人を対戦させる賭け試合も行うという。
ちなみに覚醒剤と賭博が天童会の二大シノギであることから、これらをまとめて「鳥の二本足」と呼ぶ。組織の代紋に鳥居が使われている為であり、ヤクザ界で「鳥」と言えば天童会を指す。
もう一つはいざという時、同じ超能力者である賀野 凌に太刀打ちできるのも十才ぐらいであったからだ。普通は武器がなければ戦えない状況でも、十才は戦えるように訓練されている為、問題はないだろうと思われた。
ただし、超能力は緊急時以外は使ってはならないときつく言われた。
基本的に超能力者は、国が管理しているか犯罪組織に所属しているかのどちらかだからだ。
先ほども「日本には十七人の超能力者がいる」と記したが、賀野のように野放しになっている者もいるので、実際は二十人以上だと推定されている。
つまり、五十四枚あるトランプカードのうち、何枚かを抜かすことなく二人で二十七枚分け合って、互いの手札が分かっているような状況なのである。
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