デュエル・スタディー!

桐沢もい

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【クレイジークレバー編】

第12話 新たな仲間

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 デュエルスタディーが終了したらしいので、ノボルたちはバトルの方に視線を向けた。すると、スネークのニョロポンがぐったりと床にのび、一方、ノブユキの兜丸が勝利の印のように角を天にかざしていた。

 どうやら、ノブユキが勝利したようだ。

「ねえ!」

 と、唐突にサトシが声を上げた。

「スネークの出題した問題を見てごらん。ノブユキくんには是非仲間になってもらおう!」

 やや興奮気味のサトシに促され、ノボルたちは各々のウィンドウを見た。スネークが出題した問題が表示されている。

【次の文章の( )に当てはまる語句を答えよ。
サイレンを鳴らす救急車があなたの近くを通り過ぎるとする。救急車があなたに近づいてくるときと、遠ざかるときで聞こえる音の(  )が変わる。この現象を(  )効果という。これは、近づいてくるときと遠ざかるときで、音の波の(  )が変わるために起こる。】

「これ、小学生には難しすぎない? 何て問題を出すの!?」
「これがクレクレのやり方だよ。でも、ノブユキくんはこれを解き、勝利した。間違いなく、理科担当を任せられる逸材だよ」

 続いてサトシはウィンドウを操作し、戦いの詳細を確認した。それは、ノボルたち他の者のウィンドウにも連動して表示される。

 解答自体は双方ともに正解していた。とすれば、解くスピードが勝敗を分けたことになる。

「くそ! 選択肢が紛らわしいんだよ。カイコガはチョウの仲間だから、そこは迷わなかったさ。けど、シミで一瞬迷っちまった。そういえばシミは無変態だったって思い出したときには、もう遅かった」
「がっはっはっは! なるほど、シミが無変態だということは知っておったか。うむ。やはり、クレクレはあなどれんな」

 ノボルは、ノブユキとスネークの会話の内容を半分も理解できなかった。助けを請うようにサトシとサチを交互に見る。要は「解説頼む!」と合図を送ったのだ。
 まず優しい笑顔でサトシが説明した。

「完全変態する昆虫と、不完全変態する昆虫はある程度覚えておかないといけないよ。さっきサチが説明してくれた通り、完全変態の昆虫は、幼虫から成虫へと成長する途中で蛹になる。その前後で姿を大きく変えるのが特徴だね。逆に、バッタのような不完全変態の昆虫は、幼虫と成虫の姿が似ていることが多いよ」

 続きはサチが引き取った。

「でも、セミみたいに幼虫と成虫で姿が全然違うのに不完全変態の昆虫もいるわ。スネークも言ってたけど、ガはチョウの仲間だから……みたいに、仲間ごとに分類して覚えることも大事よ」

(やっぱり、このふたりはすごい……)

 ポカンと口を開けて聞き入るノボル。

「がっはっは! 生命の神秘について語らうのは楽しいな。おいどんにも語らせてくれ。選択肢にシミが入っているのが、この問題のいやらしいところだ。シミは幼虫から成虫になるまでに、全く姿を変えない。これを『無変態』という。これは、なかなか知らぬ者も多いだろう。ひとことに昆虫と言っても、実に様々だ。まったく、生命の神秘には感服するな! がっはっは!」
「ちっ! お前の笑い方、ウザいんだよ。何が生命の神秘だ。覚えることが増えて、ただややこしいだけじゃないよ。ふん。お前なんか、センセイの足元にも及ばないよ。この、自信過剰め。覚えていろ!」

 スネークは悪役お決まりの捨て台詞を吐いて去っていった。

「ほんっと、クレクレの捨て台詞はいつも一緒ね」
「ははは、ほんとだね」

 サトシは川のせせらぎのように涼やかに笑い、「さて」と、一変、落ち着いた様子に戻った。

「ノブユキくん、実はきみにお願いがあるんだ」

 サトシはこれから自分たちがやろうとしていることを説明した。ノブユキはサトシの説明にときおり頷きながら真剣に聞き入った。その様子はノブユキの謙虚で誠実な内面を物語っていた。

「がっはっは! 素晴らしい計画じゃないか」

 サトシの説明を聞き終えると、ノブユキは高らかに笑い、首を大げさに上下させて頷いた。

「ほんと、元気いっぱいだね」
「おいどんは元気だけが取り柄でごわす!」
「だけってことはないと思うけど、とてもいいと思うよ。何年生か聞いてもいいかな?」
「おいどんは、6年生でごわす。そして、理科が大得意でごわす。元はただの筋トレマニアでごわすが、筋肉への愛が強すぎて、筋肉の仕組みまで興味が広がり、その筋肉を有する人間そのもの、果てはこの自然界の様々な成り立ちを知りたいと思ったでごわす。そこで、理科を猛勉強したわけでごわす!」

 ノブユキは元気いっぱいに自己紹介をした。ランニングシャツから覗く肩の筋肉が、ノブユキが話すのに合わせてピクピクと震えた。

「おいどんもクレイジークレバーは気になっていたでごわす。おぬしらに協力するでごわす!」


  *


「ひっ!?」
「おお、すまんな。がっはっは!」

 このか弱い悲鳴はユウリのもの、豪快な謝罪と笑いはノブユキのものだ。
 ノボルたち一行は残る科目、国語が得意な子を探して、肩を並べて街を歩いている。
 狭い道を歩くときなどはお互いの距離が一時的に近くなったり、一瞬腕と腕が触れたりということがある。
 ユウリとノブユキの腕が触れると、ユウリは怯え悲鳴を上げる。すると、すかさずノブユキが謝罪する。それが先ほどのやり取りの正体だ。

「ひっ!?」
「おお、すまんな。がっはっは!」
「うるさいわね! あんたたち、さっきから何やってんの!」

 ユウリとノブユキの同じやり取りが何度か繰り返されたあと、サチの怒鳴り声が後ろにくっついた。

「集中できないわ。そんなにぶつかるなら離れて歩けばいいじゃないの。最後に国語が得意な子を見つければ終わりなんだから。探すわよ!」

 サチは明らかに気が立っている様子だ。

「まあまあ落ち着いて」

 そして、こういうとき決まって場を収めるのは、サトシの涼やかな仲裁である。

「イライラしていたら、それこそ見逃しちゃうよ。ただでさえ、辺りは暗くなってきているんだからね」

 一行は書店でノブユキを見つけてから数時間、国語コーナーで国語が得意な子が現れるのを待っていた。そうしているうちに、すっかり日が傾いてしまったのだ。
 書店には、国語コーナーはおろか、学習参考書コーナーにもお客さんはひとりも来なかった。
 ノブユキの奇声騒動でお客さんが皆帰ってしまったのではないかと、内心皆が思っていた。しかし、それを口にする者はいなかった。ノブユキも悪気があってそうしたわけではない。ノブユキは根っからの豪快な男なのだ。

「ご、ごめん。はやくクレイジークレバーのやつらを打ちのめしてやりたくて……ちょっと、気が立ってたわ」
「まあ、気持ちはわかるよ。書店のあの閑散とした様子を見て、僕もいよいよ腹立たしくなってきたよ。みんなの貴重な勉強の機会を、やつらは奪ってるわけだからね」

 ノボルはふたりの立派な考え方に感心していた。そして、自分がそんなふうに考えられないことに、またふたりとの距離を感じてしょんぼりしていた。

「がっはっは! やってやろう。われらでクレイジークレバーを打倒しよう」
「そ、そうです! 野放しにしていてはいけないんです! ……ひっ!?」
「おお、すまんな。がっはっは!」

 またノブユキの腕がユウリに当たった。今度は誰も何も言わなかった。
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