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第57話
しおりを挟む「レティ…着いたぞ」
「……ここって?」
「王城だ」
レティシアが泣いている間に、いつの間にか馬車は王城へと辿り着いた。
「私…帰らないと…」
お姉ちゃんが心配しているからと言おうとしたレティシアの言葉を遮るようにライムンドはレティシアを抱き抱えて、馬車から降りる。
「そんな泣き腫らした顔で帰ったらソフィア姉様が心配するだろ?」
「あっ……確かに」
「今日は泊まって行け、ソフィア姉様にはもう連絡してある」
「うん…」
泣き疲れたレティシアは大人しくお姫様抱っこされ、ライムンドは王城の廊下を歩いていく。
たまにすれ違う貴族は驚きながらも第二王子の姿を見ては頭を下げる。
「今日はこの部屋を使えば良い」
そう案内…いや、連れて来られたのは高貴な来賓が使う客室だった。
簡単に言うと、他国の王族などが来た時に使う部屋だ。
王達が住んでいる所から近く、警備もしっかりしている所だった。
いつもレティシアが王城に泊まるときはシャルロットの部屋で一緒に寝ていたので、客室を使うのは初めてだった。
「こんなに良い部屋じゃなくても大丈夫だよ?」
「俺がレティを警備があまい部屋で寝かせる訳がないだろ?本当は俺の部屋でも良かったんだがな」
昔みたいに一緒に寝るか?と、冗談なのか、そうでないのか分からない事を言ってライムンドはレティシアの頭を撫でた。
「とりあえず湯を張るように侍女に言っておいたから早く風呂に入って身体を暖めろ」
「うん…ありがとう」
レティシアはライムンドの言葉に甘えて入浴する事にした。
ずぶ濡れになった服は早々に侍女が預かり、洗濯してくれるそうなのでお願いした。
レティシアは一瞬着替えの服をどうしようか悩んだが、ライムンドが用意すると言ってくれたので安心して湯船へと浸かっている。
「温かい…」
冷えきった身体に染み渡る湯の暖かさにレティシアの身体の力が抜けていく。
「……何してるんだろう私」
お姉ちゃんにもライ兄様にも心配かけて駄目な妹だなとレティシアは失笑する。
レティシアは、こんなにも心を掻き乱されたのは初めてだった。
恋ってこういう物なんだろうか?頭の中で呟いた。
初めての恋で、ふわふわして幸せだった気持ちが、失恋って分かった瞬間、足元から崩れ落ちそうになるし、胸が締め付けられるように苦しかった。
「婚約者…か…。
そうだよね…ロベルトさん爵位貰ったって言ってたもんね…」
いくら親が英雄だろうと、王族と親しくして貰っていようと、自分自身は平民である事に変わりはない。
「自分では釣り合わないんだ…」
自分の力で騎士爵位を得たロベルトさんにはきっと爵位の持った令嬢の方が釣り合うのだろう。
もし貴族の生まれで、歳が近かったらロベルトさんに振り向いてもらえただろうか?
お姉ちゃんの様にもっと綺麗だったらロベルトさんに好きになってもらえただろうか?
もっとロベルトさんの前で女の子らしくしていれば良かったのかな?
もしもを考えては切りがなかった。
分かるのは
初恋であるこの恋は実らなかった事だけである。
「………何か…クラクラしてきた?」
悶々と考えながら湯に浸かっていたら、どうやら、のぼせてしまった様だった。
レティシアは早く湯船から出ようとするが身体に力が入らない。
「レティシア様?」
浴室の前で待機していた侍女は長時間湯船から上がってこないレティシアの事を心配して扉を開けると、ぐったりとしているレティシアを見つけて悲鳴を上げた。
「キャー!レティシア様、大丈夫でございますか!?」
「何事だ!?」
その悲鳴を聞いたライムンドも部屋の中へ入ってきて脱衣所の前の扉で声をかける。
「レティシア様がのぼせてしまった様です」
「何だと!?」
ライムンドは慌てて扉を開け浴室へと入ってきた。
「ラ、ライムンド様…流石に」
裸のレティシアを見せる訳には行かないと侍女が慌てて止める。
「レティが溺れたらどうするんだ!女のお前達では湯船からレティを出せないだろ、早くバスローブでも良いからレティに羽織らせるんだ」
「か、畏まりました」
ライムンドの言うとおりに近くにあったバスローブを素早くレティシアに着せると、ライムンドはレティシアを湯船から持ち上げた。
ライムンドはなるべくレティシアの肌を見ないように心がけるように上を向くが、濡れて滑り落ちそうになるレティシアの身体を慌てて抱きかかえた時、レティシアの湯で火照った身体が少し見えてしまい顔が赤くなる。
「っ!」
いくらバスローブを着ているからといえ、ぐっしょりと濡れてしまっているため透けているし、レティシアの身体に張り付き全く意味をなしていないので、その上から侍女は慌ててタオルをかけた。
冷静を装いながらもライムンドはレティシアを抱き抱えて、脱衣所まで向かい長椅子へと横たわらせた。
「とりあえず飲み物を用意してくれ、後は冷やす物も」
「畏まりました」
侍女は即座にライムンドの命を聞き、言われたものを用意するべく部屋から出た。
「全く…のぼせるまで入るなんて」
ぺったりと頬に張り付いた髪をライムンドは優しく払った。
赤く火照った頬は熱く、触れたライムンドの冷たい手が気持ちよかったのか、レティシアはライムンドの手に擦り寄った。
「っ…本当にレティは…」
先程見てしまったレティシアの艶めかしい身体を思い出し、忘れる様に頭を振った。
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