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第55話
しおりを挟む天気が悪いからだろうか、街に人は少なく私はトボトボと一人歩いていた。
頭の中ではグルグルと令嬢が放った言葉が反芻されて気持ち悪くなる。
「……ここは」
宛もなく彷徨っていると、気がついたら広場まで来ていた。
ここは、ロベルトさんと一緒に建国祭で屋台を周った広場だった。
誰一人いない広場で、私はロベルトさんとの楽しい思い出を思い出していた。
「駄目………ここにはいたくない」
楽しかった思い出は、今の自分の心を苦しめた。
足は徐々に西門へと向かい、そして王都の街から出ていた。
街道をトボトボと歩いているとポツポツと雨が空から降ってきた。
だけど、雨の事など気にもせず私は力なく歩き続けた。
「………好き…って気づけたのに…」
気づけた次の日には失恋って…。
何故か昨日の出来事が、遥か昔のように思えてしまう。
「ロベルト…さんっ………」
雨では無い何かが頬を濡らしていく。
ザザァ……
雨は次第に強くなっていき身体を容赦なく濡らし冷やしていく。
冷たい筈なのに、何も感じていない自分に驚く。
帰らないといけないのに徐々に王都から離れている。
「帰らないと…お姉ちゃんが…」
心配しているよね…
そう思い顔を上げて道をUターンしようとしたら、前から1台の馬車が走ってくるのが目に入った。
その馬車は私の前で急に止まった。
何でだろうと思っていたら、その馬車には見覚えがあった…。
「何をしているんだ!?」
止まった馬車から出てきたのは、やはりライ兄様だった。
馬車に見覚えがあるのは当たり前で、ライ兄様に何回も乗せて貰ったことがある第二王子専用の馬車なのだから。
「ライ兄様…」
「こんな雨の中、風邪引くだろ」
そう言って私の元へ駆けてきたライ兄様は自分が着ていたジャケットを脱ぎ私の頭に被せ、慣れた手付きで抱き上げて馬車の中に連れて行った。
「こんなに濡らして…」
高級な馬車の中に躊躇なくびしょ濡れの私を乗せて、従者にタオルを用意させ、濡れた身体をタオルで包んでくれた。
「良かった…怪我はないみたいだな。
それにしても、いったい何があったんだ?レティなら雨くらい魔法で防げただろ」
そう、いつもならそうしている。だけど今は雨なんてどうでも良かったんだ。
「ライ…兄様」
「こんなに身体を冷して………ってレティ?泣いてるのか」
「え………あれ?」
雨で気が付かなったけど、どうやら自分は泣いていた様だった。
止まらない涙が頬を伝い落ちていく。
「わ、たし……っぅ…ヒックッ……フエッ」
泣いていると気がついたからなのか、涙の量は増えて嗚咽が漏れる。
「レティ…」
泣き過ぎて話す事が出来ない私をライ兄様はそっと抱き締めてくれた。
慰めるように優しく頭を撫でてくれるライ兄様の胸の中で、涙が枯れるまで私は泣き続けたのであった。
馬車はいつの間にか動き出し、王都の中へと入っていく。
濡れた道を馬車は走り抜け。
平民街から貴族街……そして王城へと二人を乗せた馬車は走っていった。
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