二人姉妹の恋愛事情〜騎士とおくる恋の物語〜

みぃ

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第54話

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ロベルトにお礼をした次の日、レティシアはロベルトへの恋心を胸に秘めながら、まんぷく亭で笑顔で接客していた。



初めて恋を知ったレティシアは、時たまロベルトの事を思い出しては、顔を赤くさせたり、忘れる様に首を振っていたので、お客さんである周りの騎士たちは、レティシアの挙動不審な様子にどうしたのだろうかと疑問に思っていた。



そんな挙動不審なレティシアの頭の中ではロベルトにどうやってアタックしようかと考えていた。



現在ロベルトさんは23歳…いや、冬に誕生日だと言っていたのでもうすぐで24歳。

そして、私は17歳だ。

年齢差は7歳、という事になる。



いくら来年の春に成人するとはいえ、自分など子供にしか見えないのではないかとレティシアは考えてしまう。

ただでさえ、特訓と言ってロベルトさんにキツイ思いをさせている私など恋愛対象外なのではないかと頭の中でよぎる。



だけど、好きと気付いてしまってから、レティシアはロベルトの事ばかり考えてしまう。



後悔しないようにと、姉に言われた言葉を思い出した。

やはり後ろ向きな事は考え過ぎず、ロベルトさんに好きになってもらえる様に努力すべきだと、レティシアの中で結論付けた。



もっと異性だと意識して貰えるようにお洒落でもしようかな、と思いながらレティシアはお客さんに美味しい料理を給仕していた。





カランッカランッ…





もうラストオーダーの時間を過ぎているのに新たな客が扉を開ける音がしてレティシアは扉の方を見る。



するとそこには、豪華なドレスを身に纏った見た事がない女性が凄い形相でこちらを睨んでいた。



「えっと…いらっしゃいませ、すみませんがラストオーダーの時間は過ぎてしまって…」



初めてくるお客さんだからきっとラストオーダーの時間を知らなかったのだろうと、レティシアは女性に話しかけると、その女性はより一層目つきをキツくさせて口を開いた。



「こんな平民が食べる店で私が食事などする訳がないじゃないの!」



お店中に響く声に、食事をしていた周りの騎士たちは女性の方へ冷たい目を向けた。



レティシアは随分と変わった人が来たなと心で思いながら、母からこういった人には何を言い返しても無駄だから心を無にして相手にするのよと、言われていたので平常心を保ちながら相手をする。



「えっと…ではご用件は」



「そんなの決まっているじゃないの、身の程知らずの女にロベルト様に近づくなと警告しに来たのよ。

この泥棒猫が!!私のロベルト様に色目を使って誑かすなど許せませんわ!」



「え…」



女性が放ったセリフでレティシアの平常心は崩れ落ちた。



「これだから平民は卑しくて嫌いなのよ、

ロベルト様は私の婚約者ですのよ!それを平民の小娘が、恋人気取りで抱かて街を歩くなど、いったいどんな手を使ってロベルト様に言い寄ったのか知りませんが、今すぐロベルト様に近づかないと誓いなさい!」



「……」



喚き散らすように叫び、持っていた扇子で殴りかかろうとする女性にレティシアはただ呆然と立ち尽くしていた。

いつもなら直ぐに避けるだろう、だけど身体が鉛の様に重く、足が一歩も動かなかった。



レティシアの顔に扇子がぶつかる寸前、近くに座っていた一人の騎士が間に入り、女性の扇子を手で受け止めた。



「そこまでだ」



扇子を捕まれ邪魔をされた女性は騎士を怒りで顔を真っ赤に染めて睨みつけた。



「私の邪魔をするとは何様ですのですの!?」



「君の方こそ何様なんだ、店の中で暴言を吐き、尚且つ暴力まで振るおうとするなど」



「私はマルティン子爵家のひとり娘ですのよ、平民如きが口を聞く事すら出来ない高貴な人間ですわ!」



「なるほどマルティン子爵家ね…では俺は侯爵家の次男だが、私は君よりも高貴な人間という事になるな。

それに平民だからと蔑む貴族の事を王族は1番嫌っているんだ、今君がしでかした事を王に伝えても良いのだが」



「それは……」



平民を見下す貴族は等しく王族から嫌われ、社交界から追放されるので貴族の中でタブーの1つである。

それでも未だにこの令嬢の様に選民意識が強い貴族も多い。



「今すぐこの場から去れ、そして二度と彼女の前に姿を表すな、もし破り彼女の前に姿を表した時、この出来事は王に知られると思え」



「くっ…」



不利と思ったのか顔を歪ませながらも女性は店から姿を消した。



「ちっ…貴族だからって偉そうな令嬢だな」



「本当にな、レティシアちゃんに暴言は吐くし、しかも扇子で殴ろうとするとか」



「レティシアちゃんの可愛い顔になんて事をしようとするんだ」



姿を消した令嬢を冷えた目で見ていた騎士達は、レティシアが令嬢に殴られそうになった時、全員が席を立ち上がっていた。

だが、1番近くにいた騎士がレティシアを即座に庇ったので座り直したのだ。



「レティシアちゃん、大丈夫か?」



「あ……ありがとうございます、庇って頂いて…」



「いや、構わない…が…」



レティシアを庇った騎士は、いつも笑顔しか見た事がないレティシアの暗い顔にどう声をかけて良いのか分からなった。



「その…ロベルト副団長に婚約者が出来たと私は聞いたことがない…多分あの女性の妄言だと思うから気にする事はない」



先程まで令嬢に向かって話していた固い声ではなく、レティシアに優しく話しかける騎士は、慰めようと必死に言葉を繋ぐ。



「………」



だけど、そんな声はレティシアの耳には届いていなかった。



ロベルトさんに、婚約者がいたなんて知らなかった……。

頭の中はもうグチャグチャで何を考えているのかレティシア自身も良くわからなかった。



騒ぎに気づいていたが手が離せなかったソフィアが厨房から出てきた時には、呆然と立ち尽くしていたレティシアをどうにか慰めようと、大の男達がアタフタとしている姿があった。





ソフィアは周りの騎士達に何があったのが聞いた。



そして騎士達は自分達はいない方がレティシアにとって良いだろうと思い、店を後にした。

そんな騎士達にソフィアはお礼を言い、店の扉を閉めた。



ソフィアはまだ下を俯いて立ち尽くしているレティシアの身体を抱きしめた。



「レティ…来るのが遅くなってしまって、ごめんなさい…怖い思いをさせてしまったわね」



「お姉ちゃん…………ごめん、私少し外に行ってくる」



「レティ!!?」



レティシアは兎に角、頭を冷やしたくて店から飛び出した。



ソフィアは店を飛び出したレティシアを追いかけようとするが、身軽で足の早いレティシアはあっという間に姿を消してしまった。



「ど、どうしよう…今日は天気も良くないのに」



ソフィアは嵐の前ぶれの様な真っ黒に染まった雲を見て顔を青ざめる。



「早く探さないとっ…」



慌ててソフィアは扉に鍵を閉めて、レティシアを探しに出かけた。



第三騎士団の建物の横道を駆けていると、通用門から出てきたロベルトとソフィアはぶつかりそうになった。



「あっ、すみません」



「こちらこそ……あっ!ソフィアさん、レティシアさんは今どこにいらっしゃいますか!?」



ロベルトも少し慌てた様子で、ソフィアにレティシアの居場所を聞いた。

実は、先程店から帰ってきた騎士達からロベルトは店であった出来事を聞いたのだ。



「それが外に飛びだしてしまって…今探しに行こうとしている所です」



「なんだって!!?」



ソフィアの言葉にいつもの口調が崩れたロベルトは声を荒らげた。



「天気も良くないし、雨も降ってきそうなので早く探さないといけないので…すみませんが失礼します!」



「待ってください!ソフィアさん」



早くレティシアを探しに行きたいソフィアはロベルトの会話を終わらせ足を踏み出そうとしたが、それをロベルトは止めた。



「え?」



「レティシアさんは私が探しに行きます、ソフィアさんは帰ってきたレティシアさんと入れ違いになってはいけないので家で待っていて頂けませんか」



「ですが…」



「きっと見つけてみせますので、ソフィアさんはレティシアさんの帰りを待っていてあげて下さい…お願いします」



ロベルトの強い眼差しにソフィアは折れた、確かにレティシアと入れ違いになってしまわない方が良いのかもしれないと思ったのだ。



「ロベルトさん……分かりました。レティの事をお願いします」



「はいっ」



ロベルトはソフィアに背を向け、レティシアを探すべく王都中を駆けるのであった。



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