二人姉妹の恋愛事情〜騎士とおくる恋の物語〜

みぃ

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閑話休題〜チョコレートはこうして出来上がった〜

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若かりし頃の英雄と王太子だったブラウリオの話



















アルセニオとヴァレンティナが英雄と呼ばれるようになってから、暫く経ったある日の事。

アルセニオは仲良くなった王太子であるブラウリオに用があって城を訪ねて来ていた。



アルセニオとヴァレンティナは国落としの魔物を倒し英雄と呼ばれるようになったが、国からの爵位授与も褒賞も辞退して、自由気ままに冒険者を続けていた。

国としては、英雄に公爵位を与えて是非国に留まって貰いたかったが、アルセニオもヴァレンティナも面倒くさいという理由で首を縦に振らなかった。

そんな理由だったのに、民衆や貴族達は英雄が爵位を受け取らないことを、何て謙虚な方なのだと勘違いし、人気がより高まったのだ。



「ブラウリオ!久しぶりだな」 



「アルセニオ!よく来たな、帰ってきていたのか」



国落としから国を救って以来、ブラウリオとアルセニオは親友のように仲良くなった。

初めは、ブラウリオは自分と、この国を救ってくれたアルセニオとヴァレンティナを慕い、神のように崇めていた。

だが、流石にアルセニオもヴァレンティナも毎度毎度、神扱いされるのがうっとおしく、普通に接するように告げた。

告げてすぐの頃はぎこちない話し方だったが、アルセニオの王族に喋っているとは思えない歯に衣着せぬもの言いにブラウリオは徐々に慣れ、今では普通に話せるようになった。





そして、仲良くなって以来アルセニオはこの国にふらっと来てはブラウリオを訪ねている。

今回も近くのダンジョンを攻略し終わり、素材の換金と暫しの休息の為にガルシア王国によったのだ。

アルセニオは慣れたように顔パスで城に入り、王太子の執務室に来たのだ。



ドカッと執務室に置いてあるソファーに腰を下ろし、アルセニオはブラウリオに今日来た目的を告げる。



「今さっき帰ってきたばかりなんだが、お前に見せたい物があってな」



「また何かレアな素材でも売りつけに来たのか?」



度々来ては、普通ではまず手に入らない物を王太子に直接売りに来るアルセニオに、ブラウリオは今回もそうだろうと思い込んだ。



「ふふふっ!今回は少し違うぞ?売りつける訳では無い!少し食べてもらいたい物があるんだ」



「レアな食材でも見つけたのか?」



「レアといえばレアだな」



アルセニオはインベントリの中から白い箱を取り出した。

箱を開け中から取り出したのは、光沢が綺麗な濃い茶色の物体だった。



「何だこれは?初めて見る食べ物だな」



「これはな!チョコレートケーキと言うスイーツで、俺の手作りだ」



「何と!ブラウリオの手作りなのか…それにしてもチョコレートとは一体何なのだ?」



「まぁ!とりあえず食ってみろ」



アルセニオはチョコレートケーキを風魔法で綺麗な8等分に切り分け皿に盛り付けた。



「では、頂くとしよう…」



普通、王族に毒見は絶対に欠かせないのだが、ブラウリオが温かい食事が出来ないと知った時に、ヴァレンティナが解毒機能のあるお手製の魔石をプレゼントしたので今では毒見役が必要なくなったのだ。



一口、チョコレートケーキを口にしたブラウリオは目をカッと見開いた。



「なんと!これは…」



「どうだ?」



「美味い!!!美味すぎる!何なのだ!このチョコレートケーキと言うスイーツは、今まで食べたどのスイーツよりも美味い!

甘いのにほろ苦さが後から口の中に広がり、滑らかな舌触りと濃厚な味あいで、いつまでも食べていたくなる!」



「そうだろう、このチョコレートは何で出来てると思う?実はな、ダンジョンで取れるが硬くて苦くて捨てられてしまうカカオの実なんだ」



「なんと!あのカカオの実か!?大量に捨てられて勿体ないとは思っていたが、いかんせん不味すぎて食べられたもんじゃない。そのカカオの実がこんなにも美味しくなるなんて驚きだぞ」



「初級ダンジョンの低層で取れるから、低ランクの冒険者向けに採取依頼を出して買い取れば、冒険者達は仕事が出来てお金が入る、俺達はカカオの実が手に入り、美味しいチョコレートが食べられる一石三鳥だな」



「それは良いな」



「是非チョコレートを広めたいところだが俺と妻は討伐依頼であちこち行かねばならない。

そこでだ、ブラウリオに頼みがある。

チョコレートの作り方とケーキのレシピを渡すから、店を作って販売してほしいんだ。

権利も売り上げも全てブラウリオに渡す。どうだ、悪い話ではないだろう?」



「良いのか!?…これだけ美味しいのだから貴族向けに高級品としても売れるだろう」



ああだこうだと男二人が話し合っていると

会話を遮るように突然バーンっと大きな音を立てて扉が開くと同時に王太子妃であるエレノアが部屋へ早足で入って来た。

そして、後ろからエレノアを追うようにヴァレンティナも入ってくる。



「なんで二人だけで美味しいものを召し上がっているのかしら?私達より先に食べるなんてずるいですわ!」



「エレノアとヴァレンティナ!?二人でお茶をしていたんじゃないのか?」



男二人だけで話をするからとヴァレンティナにエレノアの相手をしておいてくれと言っておいたのにと、アルセニオは驚いた。



「ごめんねー、口すべらせちゃった。話が終わったあとで私達も食べられるからって言って止めたんだけど…」



「あら、ヴァレンティナったら。ずるいとは思いませんこと?アルセニオのケーキを私達より先に召し上がるだなんて」



「まあまあ」



ブラウリオはエレノアの機嫌を直そうと、慌ててケーキを出すよう侍女に指示を出す。



「エレノア、悪かったよ。ほらまだ沢山あるから皆でお茶を飲みながらケーキ食べよう、なっ?」



エレノアは膨れながらもブラウリオの隣に座った。



「アルセニオ、貴方が持ってきたケーキはチョコレート?と聞きましたがどんな物なんですの?」



「まあ、食べてみてから説明した方が良いから、まず食べてみてくれ」



「そうなんですのね、黒に近い色のケーキなんて初めて見ますわ、…ではいただきますわね」



エレノアは、前に置かれたチョコレートケーキを恐る恐る一口食べてみる。

しばらく黙ったままケーキを食べているエレノアの姿を他の三人は様子を見ているがエレノアはただ黙って黙々と食べている。

食べ終わったのかフォークを置く音が聞こえ、エレノアがため息を吐いた。そしてブラウリオと同じように目をカッと見開いた。



「アルセニオ!このチョコレートケーキという物はなんて美味しいのでしょう!!素晴らしいわ、この甘味と苦味のちょうどいいバランス、甘いのにくどくなくて…あぁブラウリオ!私がいつでもこのケーキが食べられるようにして、貴方からもアルセニオに言ってくださいませ」



「エレノア、そんなに気に入ってくれて嬉しいよ」



「えぇ、今まで食べたお菓子の中で一番美味しかったわ」



「だそうだよブラウリオ、というわけでエレノアの為にもさっき言ってた街に王家の直営店を出す話と冒険者への話、全てお前に任せたぞ」



「本当にいいのか?これを販売したら凄く儲かるぞ?」



「ああ、俺とヴァレンティナが王都に来たときに食べられたらそれでいいのさ!儲かったら国民の為に使ってくれ」



「欲がないな…」



少し呆れたが、ブラウリオは承諾した。



「エレノア、ブラウリオにチョコレートケーキのレシピ渡しておくから、店も作るから何時でも食べられるからな」



「まあ!ありがとうアルセニオ!!感謝しますわ」



「食べすぎるなよ、太るからな」



「女性に太る話は厳禁ですわよ!」



「あははっ」



じゃあ次の依頼へ行かなきゃならないから、と言ってアルセニオとヴァレンティナは城を後にした。



道を歩きながらヴァレンティナがアルセニオに疑問を問いかける。



「ねぇ、さっきのチョコレートの件、あんなに大層なこと言ってたけど本当はどうなの?」



「あぁ、あれは殆どが建前で、本音としては只チョコレートを実から生成するのがめんどくさいから全部ブラウリオに投げただけだ」



「めんどくさい?」



「そ!依頼を出してカカオの実を集めて、煎って粉にして、砂糖だのなんだのと混ぜて固めてって、すっごく大変めんどくさい!だからブラウリオに任せたわけ」



「うわっ、腹黒いわね…」



「賢いと言ってくれ!ブラウリオが店を出したらヴァレンティナだって直ぐ食べられて良いだろう?」



「それもそうね」



「君も腹黒いと思うが…」



「ふふ‥似たもの夫婦ね私達」



「そうだな」



こうしてアルセニオの思惑通り、しばらくして王都の貴族街と平民街に王家直営のチョコレート菓子店が出来て、その味に人々は虜になり店は繁盛した。

王太子は約束通り儲かったお金を国民の為に使って、国を発展させたのであった。





アルセニオが教えた数々のチョコレートレシピの中で、ブラウリオもエレノアも一番気に入ったのが、初めに食べたチョコレートケーキだった。



その名前はザッハトルテ。

ザッハトルテはチョコレートケーキの王様と呼ばれ沢山の人に愛されたのだった。


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