二人姉妹の恋愛事情〜騎士とおくる恋の物語〜

みぃ

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第46話

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~小竜が城に来て十数日後~



【まんぷく亭】の昼営業後、カランカランとドアベルをならし力なくドアを開けたのはライムンド第二王子だった。



「いらっしゃいませー、あれ?ライ兄様どうしたの?」



「あぁ…レティ、ソフィア姉様いるか?」



「うん、ちょっと待っててー、お姉ちゃんライ兄様が来たよー」



レティの呼ぶ声でソフィアが厨房から出て来てライムンドの元へパタパタと小走りで走って行く。



「あらあら、ライ君どうしたの?一人で来るなんて初めてね、疲れてるみたいだけど大丈夫? レティ、ライ君にお茶とケーキ出してあげて」



「はーい」



ソフィアはライムンドを四人がけのテーブル席へ座るよう案内した。



「ライ君お昼ごはん食べた?」



「大丈夫、食べてきたから。それよりソフィア姉様話があるんだ」



「レティがお茶持って来るからちょっと待ってて、話はレティが来てからでもいい?」



「ああ、じゃあ待ってる」



ソフィアはレティシアが来るのを待ってライムンドの前に二人で座り、今日店に来た理由を聞いた。



「ライ君、深刻な顔してどうしたの?お城で何かあった?」



ライムンドが突然席を立ったかと思いきや、テーブルに手を付き頭を下げた。王族が頭を軽々しく下げてはいけないと教育されてる筈なのに、頭を下げるとはきっと深い意味があるのだろうとソフィアは心して次の言葉を待った。



「お願いしますソフィア姉様、あの小竜と従魔契約してもらえませんか」



「えっ?契約って…どういう事なの?」



「実は、あれから小竜はグラシア第三騎士団長とアンデの言うことを最初の数日は大抵聞いておとなしくしてたんです。

ですが最近は訓練中留守番してるように言っても、ほんの少し待ってるだけで直ぐに追いかけてしまうし、勝手に森へ行って大型魔物を狩ってきてアンデに食べさせようとするし、飼育員の言うことは一切聞かないし……ets…。

特に竜騎士団の訓練が出来ないのが一番困っていまして、ソフィア姉様が従魔契約してくださったら、ちゃんと言う事を聞いてくれるのではないかと思うんです」



話を聞いたソフィアとレティシアは、だからライムンドはこんなにも、やつれていたんだと納得した。



「でもねぇ、ライ君。私竜騎士にはなれないわよ…」



「それは問題ありません。竜騎士の竜は、幼体の頃から人間に慣れさせ訓練と調教されている竜です。それに比べて今回の竜は野生で、尚且つ成体なので竜騎士の竜になれるかどうかも分からない状態ですので、今はまず人間と良い関係を築くのが先なのです。

なのであの竜が言う事を聞いてくれるようになってくれるだけで助かります」



「ライ兄様、竜との従魔契約ってお姉ちゃんに害はないの?」



魔物は人間と従魔契約すると、食料を食べずに主の魔力を糧に生きていく事が出来る。

なので大食漢な魔物と従魔契約しても食費を気にしなくても良いのだ。

だが、沢山の魔物と契約したり、余りにも強力な魔物を従魔にしてしまうと、供給する魔力が足りなくなり人間の命が危険にさらされる。



竜のランクはSランクである為消費する魔力も膨大だろう。

そんな竜と従魔契約してソフィアの命に危険はないのかとレティシアは心配したのだ。



「大丈夫だよ、主の魔力を糧にする代わりに竜には食料から魔力を得てもらうから。竜を影にさえ入れなかったら魔力を吸われる事もないしね。

ただ、その代わり沢山の食料が必要になるわけだけどね……。

まぁ…竜騎士の竜達も、従魔契約している訳じゃないから、沢山の食料が必要になるが…1体増えたくらいで問題は……少ししかないし」



食べ物から魔力を得るのは勿論可能で、城に来る以前の野生の竜が食べていた量を与えれれば、主から魔力供給は必要なくなる。



「あぁ…なるほど、食べ物から魔力を得る方法ね。確かにその手があったね……なら大丈夫かな。ねっ!お姉ちゃん」



「そうね、問題がないならやってみようかしら。でも小竜ちゃん私と契約してくれるかしら?」



「「絶対大丈夫!」」



ライムンドはソフィアが提案を受け入れてくれたおかげで、肩の荷が下り「やっとゆっくり寝れる…」と小さく呟いた。



「じゃあソフィア姉様、今度のお店の休みに来てもらえるかな?」



「明後日休みだから、その日で良いかしら?」



「了解、明後日の10時に迎えに来るよ。レティも一緒に来るか?」



「もちろん行くよ!お姉ちゃんが心配だもん」



「ははっ、あいかわらずだな。じゃあ明後日な」



来た時とは違い軽い足取りで城へ帰って行ったライムンドだった。









二日後、ライムンドとソフィアとレティシアはアンデと小竜がいる厩舎に来ていた。

先に来ていたルイスは、ソフィアが来るのをそわそわしながら待っていた。



「ソフィア、大丈夫か?」



「心配してくれてありがとうございます、大丈夫ですよ。ルイスさんもお世話大変だったみたいですね。とりあえず小竜ちゃんに話かけてみますね」



ソフィアが厩舎の冊の前まで行くと、すぐにソフィアの気配を感じたのか匂いで分かったのか小竜が近くまでやって来た。



「ギャウ、キュゥー」



会いたかったと言ってるようにも聞こえる鳴き声で、小竜はソフィアに甘えた仕草をとりだした。



「久しぶりね、元気にしてた?今日は貴女にお願いがあって来たの、あのね私と従魔契約してほしいのだけれど、どうかしら?」



「ギャウ、ギャウ」



小竜が「いいよ」と言ってるのか、首を大きく縦に振ったあとソフィアの顔ギリギリに額を近づけてきた。



「ありがとう。我、汝と契約する者なり…汝の名は…ベリー」



そう言ってソフィアはベリーの額にキスをする、するとベリーが金色の光に包まれた。その光が消えるとベリーの額に小さく光るソフィアの瞳と同じ色の石が付いていた。無事に従魔契約が出来たようだ。



だが、その様子を見ていたライムンドとルイスは、ベリーの額に現れた石にギョッとした。



((なんか、普通の従魔契約と違くないか!?))



そんな驚く二人を横目にレティシアは頭の中で、やべぇと思っていた。



(お姉ちゃんに本当の従魔契約の仕方伝えるの忘れてた)



本当の従魔契約にキスは必要ないのに、ソフィアは知らずにキューちゃんと従魔契約したときにも行っており、キューちゃんの額にもソフィアと同じ色の石が額にあわられている。



(まぁ…お父さんは特に問題は無いって言ってたから良いか)



3人の考えている事など露知らず、ソフィアはベリーの鼻面を撫でていた。



「ふふっ、よろしくねベリーちゃん」



「ギャウー」



ソフィアに撫でられ嬉しそうにベリーは鳴いた。



色々、ツッコミを入れたいが、なんとか無事にソフィアとベリーが従魔契約が出来たことにライムンドもルイスも喜び安堵した。



「お姉ちゃん、無事に契約出来て良かったー。小竜の名前、ベリーちゃんにしたんだね。とっても可愛いくて似合ってるね」



「でしょ、今回はすっごく頑張って考えたのよ」



「うん、ベリーちゃんも喜んでたね」



「喜んでくれて良かったわ

ねぇライ君、この前お店で聞いたことをベリーちゃんに聞いてみるわね」



そう言ってソフィアはベリーの鼻頭を撫でながらベリーと目を合わせ会話をしだした。



「ベリーちゃん、この前の私との約束覚えてる?」



ライムンドから聞いたことをベリーに聞いてみた。



〚覚えてるよ、でもね留守番できなくなったのは、アンデもルイスもいないし、ソフィアはまた来るねって言ったのに会いに来てくれないから、最初は我慢してたけど、寂しくて寂しくてだんだん我慢が出来なくなって追っちゃったの〛



「そうだったのね。ごめんなさいね、寂しい思いさせてしまって」



〚それに、ソフィアがルイスとアンデの言う事を聞いてって言ったからベリーはちゃんと聞いたよ、でも飼育員って何?なんで他の人のこと聞かなきゃいけないの?〛



「そ…そうね、私の言い方が悪かったわね、ベリーは間違ってないわ」



〚でしょ、勝手に城から出て餌を狩ってきたのは悪かったけど、だって愛するアンデにあんな粗末な餌…アンデにはもっと美味しくて栄養あるもの食べて欲しかったから〛



「粗末な…ベリーちゃんは今までどんな物を食べてたの?」



〚あのね…ベリーは甘い果物が好きなの、お肉はブラッディービーフやブラッディサーペントが好き、大型の魔物はどれも美味しいよ!

ここの餌は下級の魔物ばっかり、果物も野菜も新鮮じゃないから自分で狩ってきた方が良い〛



「あらあら、そうだったのね。美味しい食事は大事よね、それに言葉が足りなかった私がいけなかったわ、寂しい思いをさせてごめんねベリーちゃん」



〚うん……〛



ソフィアはみんなにベリーがとった行動の説明をする。

理由は…まず、留守番できなくなったのは、アンデもルイスもいないし、ソフィアは会いに来てくれない、最初は我慢してたけど寂しくて我慢が出来なくなって追いかけてしまったらしい。

飼育員の話を聞かないのは、ソフィアに「ルイスとアンデの言う事を聞いて」と言われたから。

魔物を狩ってきてアンデに食べさせようとしたのは、愛するアンデに美味しくて、もっと栄養を補って欲しかったから、だそうだ。



「「「成る程」」」



「もう私と従魔契約して、心が繋がってるから寂しくないって。ちゃんと留守番するし飼育員の言う事も聞くって、あとはライ君、食事の事はお願いね」



「はい…改善します…」

(やはり帝国式の餌じゃ野生だったベリーには合わなかったのか、野生の竜は舌が肥えてるな、今後どうするか父上と兄上に相談しなければ)



「ルイスさん、ベリーちゃんのお世話減ると思うので、ゆっくりご飯食べに来て下さいね」



「ありがとう、ソフィアのお陰で助かったよ。また旅行の打ち合わせもしたいから、近日中に顔を出すよ」



「はい、待ってます。じゃあルイスさん、ライ君今日はこれで帰るわね。ベリーちゃんのことお願いね」



帰る前にソフィアはもう一度ベリーに声を掛けた。



「ベリーちゃん、今日は帰るけど、また会いに行くわ」



〚本当に?〛



「もちろんよ、約束ね」



〚うん、約束。良い子にして待ってる〛



「バイバイ、またねベリーちゃん」



〚バイバーイ〛



もうこれで大丈夫だと思い、ソフィアとレティシアは家路についた。





一方、厩舎に残ったライムンドとルイスは今後の話をしていた。



「ライムンド殿下、ベリーの餌どうされますか?」



「うっ…早急に検討して善処する…」



「お金かかりそうですね…」



「しばらくは父上の私財でなんとかするか…」
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