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第45話
しおりを挟むルイスは普段大きな声を出さないソフィアの声に驚き、後を振り向いた。
すると先程までアンデとイチャついてた小竜がアンデから離れてこちらにドスドスと向かってきてたのだ。
ドスドスと地響を立ててやってくる小竜にソフィア以外の全員が戦闘態勢に入った。
「ソフィア、俺から離れないで」
ルイスはソフィアを自分の背中に隠すとすかさず剣を構えた。
レティシアもいつの間にかインベントリから取り出した双剣を手に握り構えている。
ドスドスと歩いてきた小竜はルイスの手前で止まり、ルイスの方をジッと見つめていて動かない。
小竜が次にどんな行動を起こすのか予想出来ず、皆が息を潜めて警戒している。
ルイスと小竜はじっと見つめあい沈黙の時間が過ぎていく。
訓練場に緊張が流れる、だがそれを破ったのはソフィアの声だった。
「あら、小竜ちゃんの足音が止まって声が聞こえなくなったけど、どうしたのかしら?」
「えっ?あっ!ソフィア?」
ルイスの背中に隠れて何も見えなかったソフィアがルイスの背後から顔を出した。ソフィアが顔を上げるとルイスから目をそらした小竜と目があった。
小竜はまるで嬉しそうに口角を上げまた「ギャウ、キュゥー」と鳴き出した。
ソフィアはルイスの横に並び出て、小竜に微笑み話しかけた。
「こんにちは小竜ちゃん、どうしたの?」
小竜はソフィアのギリギリまで顔を近づけ、小さく「ギャウ、キュゥー」と鳴きながら、まるで従魔が主に親愛行動するような仕草をしだした。
周りの人々は目を疑った、まさか野生の竜が初めて会った人間にそんなことをするなんて思っても見なかったのだ。
皆が小竜の行動に驚いているが、ソフィアは特に気にする事なく小竜に向かって手を差しだし鼻面を撫でだした。
「ふふっ、可愛いのね。あそこにいるアンデは貴女の番?良かったわね、愛する方と出会えるって幸せよね」
何故かソフィアは小竜に愛を語りだした。
ソフィアの言動に驚きすぎて誰も声を出すことが出来ないでいた。
さらにソフィアは小竜に話しかける。
「ねえ小竜ちゃん、愛するアンデの側に居たいなら、ルイスさんとアンデの言うことをちゃんと聞いて大人しくしなきゃダメなの。貴女は良い子だもの出来るわよね」
「ギャウ」
ソフィアの言うことがわかったのか小竜は短く返事をした。
「私達は帰るけど、また会いに来るわ。良い子にしててね、アンデと仲良くね」
「ギャウ、ギャウ」
小竜は分かったと言ってるかのように首を縦に振った。
ソフィアが小竜に「バイバイまたね」と手を振ると、小竜はソフィアのことを気にしながらもアンデの元へ戻って行った。
ソフィアは小竜がアンデの元へ戻って行ったことを見届け、踵を返すとそこには全ての人間がまるで白昼夢でもみていたかのような顔をし、ソフィアと小竜を交互に見ている。
皆、驚きすぎてソフィアに何か言いたいのか口を開くが声にならない。。
「あら、みんなどうしたの?顔色が悪いわ」
なんとか声が出たのはルイスだった。
「ソ…ソフィアいまのは一体なんだったんだ?なぜ小竜と話ができていたんだ?」
「あら、なんでかしら?なんとなく?」とソフィアは首をコテンと傾げた。
「ソフィアが小竜に説得してたみたいだが…」
「ええ、小竜ちゃんがルイスさんの言うことを聞いて、おとなしくしてたらアンデと離れなくてすむでしょ、だからそのことを伝えてみたの。賢い子よね、ちゃんとお返事できたもの」
「ソフィアがそう言うならば、小竜は危険な存在ではないのだろう…」
二人のそばでその会話を聞いていたレイナルドは覚悟を決めた、このままアンデの番として小竜を一緒の厩舎に住まわせようと。
竜騎士団の竜として調教することは無理だと思うが、もしかしたらアンデとの子供を作ってくれるかもしれないとレイナルドは淡い期待をするのであった。
とりあえずレイナルドは小竜がルイスの言うことを聞くか試みることになった。
「グラシア第三騎士団長、ここへアンデと小竜を呼んでみてはくれないか?」
一応安全の為、ソフィアとレティシアは護衛と共に後ろに下がらせた。
ルイスは2頭を呼ぼうとするが、ふと気がついた、小竜には名前がないので呼ぶことが出来ない。ルイスは悩んでレイナルドに指示を求めようとそちらを見るが、レイナルドの目はなんでもいいから早くしろといっている。
アンデを呼べばくっついて来るかもしれないとルイスは一か八かアンデを呼んだ。
「アンデーこっちに来るんだー」
アンデはルイスに呼ばれたことに気がつき「ギャウー」と返事をし、ドスドスとルイスへと向かってきた。小竜もアンデの後から着いてきたのでルイスは「ああ、良かった…」と安堵した。
これだけではルイスの言う事を聞いているかどうかいまいち不安だが、一応確認することが出来たのでルイスはアンデに乗り、小竜と共に厩舎へと飛び立った。四人は後を追い、厩舎へ向かった。四人が厩舎に着いたときには、厩舎の中でアンデと小竜が寄り添って敷き藁の上に座りくつろいでいた。
レイナルドは、2頭の竜が落ち着いていそうなので暫くの間様子をみることにした。
だが小竜がこのままおとなしくしてるかわからないので、ルイスにはこまめに厩舎へ顔を出し、なおかつ小竜のしつけをするようにと命じたのだった。
「…かしこまりました」
ルイスは返事をしたものの、また仕事が増えた、ただでさえ今までの仕事に加え竜騎士団の訓練もあり、中々ソフィアとの時間が取れないというのに、と心の中で涙を流していた。
「グラシア第三騎士団長、ちゃんと休暇申請通り11月には休めるようにしておくから頑張ってくれ」
ライムンドがねぎらうようにルイスの肩に手をポンと置き励ました。
「お…お願い致します」
ライムンドに励まされちょっとだけ気が晴れたルイスだった。
レイナルドはこれから王への報告、避難の解除手続き、竜騎士団と関係者と会議をしなければならない。ライムンドは魔法師団へ、今日の出来事を話し今後の王都の結界の強化について話し合わなければならない。
ソフィアは慌ただしくしている人達を見て、ここにいては邪魔になると思い、レティシアと帰ることにした。
「レイお兄様、ライ君、お忙し中ごめんなさい。私達今日はこれで失礼しますね、もし私達でお手伝い出来ることがあったら言って頂戴ね」
「ああ、ソフィアありがとう。
先程の小竜のこと助かった、まさかソフィアの話を小竜が聞いてくれるとは、本当に驚いたよ。
レティシアもありがとう今日のケーキも美味しかった、また落ち着いたらみんなでお茶をしよう。今日は送ってあげれなくてすまないが、馬車の手配はしてあるから気をつけて帰ってくれ」
「はい」
「うん!あっライ兄様、シャロちゃんに来週のお茶会忘れないでねって伝えておいてー」
「あぁ、また来週な」
近くにルイスとロベルトもいたのだが仕事中なので話しかけてはいけないと、ソフィアとレティシアは声を掛けずに帰ることにした。
馬車の中でソフィアとレティシアは今日の出来事を振り返っていた。
「お姉ちゃん、今日はいろいろあってびっくりしたね」
「そうね、まさか野生の竜が王城に入ってくるなんて、でも小竜ちゃん可愛いかったわ」
「う…うん、そうだね…(小竜を可愛いと思うのはお姉ちゃんだけだけだって。S級ランクの魔物だよ、大人になったばかりっぽいけど一頭で小さい街、滅ぼせる力があるんだよ。周りの人達は緊張してるのに、野生の竜に話しかけるわ鼻頭をなでるわ、お姉ちゃん天然通り越してるよ)」
「そういえば、双子ちゃん達久しぶりにあったら、更に可愛くなってたわ」
「うん、可愛いかったー、それにみんなケーキ喜んでくれて良かった!」
「頑張って作ったかいがあったわね、また来年も頑張らなきゃね」
「うん!!」
家に着いたレティシアは知らず知らず疲れていたのか、ソフィアに夕飯どうするか聞かれたので「今日は軽い食べ物でいいかな~」と出汁茶漬けで済ませ、風呂もシャワーで済ましベッドへダイブした。
「はぁ~疲れたー精神的にもう…げん…か…い…スヤァ…」
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