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第39話
しおりを挟む(ソフィアどこにいるんだ…まずいな、あれから結構時間が経ってしまっている。何も起きていなければいいのだが)
ルイスは急いでソフィアがどこにいるか探す。
ソフィアの事だから遠くには行っていないと思うルイスだが、もし不埒な貴族に絡まれていたらと気が気でない。
険しい顔でソフィアを探すルイスに周りの貴族達は蜘蛛の子を散らすよう離れていく。
周りに人がいなくなって視界が良好になり、ある一点に人集りが出来ていることにルイスは気がついた。
嫌な予感がしたルイスは慌てて人集りが出来ていることに近付くと、集まっていた貴族達がルイスの存在に気が付き道を譲る。
すると、その人集りの中央にソフィアの姿が見え、駆け寄った。
「ソフィア!すまなかった」
慌てやって来たルイスは、王太子の存在に気が付かずソフィアに謝った。
「一人にして申し訳なかった。何もされなかった?大丈夫か?」
ソフィアの身に何も起きていないかルイスは心配になりソフィアに聞く。
「大丈夫ですよ、ルイスさん」
「そうなのか…ではこの人集りはいったい?」
「えっと…それは」
ソフィアは先程の事をルイスに言うべきか迷った。もし彼が居なかった時に令嬢に絡まれていたと知ったら彼は気負うだろうと。
言わないのも優しさだろうかと、ソフィアは口をつぐむ。
「グラシア伯爵、随分と遅い到着だね」
だが、それを王太子は許さなかった。
「レイお兄様」
「おや、ソフィア。お兄様と呼んでくれるのは嬉しいけど、今からグラシア伯爵に言わなくてはいけない事があるから少し待っていてね」
優しくも有無を言わせない王太子にソフィアは口を閉ざす。
「お、王太子殿下」
ソフィアの事ばかり考えていたルイスは王太子の存在に今気が付き慌てて頭を下げた。
「あぁ、良いんだよ。頭を上げて」
「はっ!ありがとうございます」
ルイスは言われた通りに顔を上げると、笑顔の筈なのに目が笑っていない王太子の姿が目に入り、背中に嫌な汗が流れた。
「ここでは目が多いからね、少しバルコニーに出ようか」
そう言われルイスとソフィアはレイナルドに続きバルコニーへと出た。
そこには人は居らず、夏のはずなのに少し冷たい風が吹きフルリと身体を震わせた、先程のダンスを踊った後にバルコニーへ出た時は心地よい風だと感じていたのに不思議である。
そんな静かなバルコニーにレイナルドの声が響いた。
「グラシア伯爵、君が離れている間ソフィアは3人の令嬢に暴言を吐かれたあげくドレスにワインをかけられたんだよ、平民だと思われてね」
「暴言!?それにワインをかけられただと!?」
ルイスは慌ててソフィアのドレスを見たがシミ一つない姿に驚いた。
「ルナ・ルースさんのドレスには反転魔法が付与されていて、ドレスは無事です」
「そうなのか…」
「しかしグラシア伯爵、どんな状況であろうとソフィアの事を一人にするのはいただけないね」
レイナルドの鋭い声がルイスに刺さる。
「今回は厄介な令嬢に絡まれるだけですんだが、もし悪意を持った人物に物陰へ連れ込まれたらどうすんるだい?勿論そんな事が起きない様に警備の者がいるんだが万全ではない。
ソフィアが英雄の娘だと全ての貴族が知っているわけではない。
残念な事に平民になら何をしてもいいと考えている愚か者も貴族の中に存在するんだ」
「はい…」
レイナルドの最もな言葉にルイスは、自分の落ち度を改めて痛感した。
「君は守る覚悟があってソフィアを貴族の世界へと連れてきたのだろう?
いくらソフィアが英雄の娘で王族との関わりがあるとはいえ、普段は一般人として暮らしているんだ、生粋の貴族令嬢みたいに扱ってはいけない。
守れないというならソフィアから手を離せ」
そう、レイナルドが言い切った。
王太子の言葉は深く心に突き刺さりルイスは何も言い返せなかった。
静寂が二人を包み込んでいると、先程まで黙って聞いていたソフィアが声を上げた。
「レイお兄様なんて大嫌いです!」
「えっ!!?」
愛するソフィアからの突然の大嫌い発言にレイナルドは驚愕した。
「貴族の世界は大変だと分かっていて彼の手をとったのは私です!
確かにルイスさんは告白してくださった際に私のことを守りたいと仰って下さいました。ですが、私は全てを守って欲しくてルイスさんの隣にいるわけではありません、私も彼のことを守り支えたくて側にいるんです」
「いや、だけどソフィア…貴族はね」
「それに私は守って貰わなければいけないほど弱くはありません、子どもの頃からレイお兄様やセラお姉様と共にいたのですから。
その事を知らないとは言わせませんよ?レイお兄様」
ソフィアは少し目元に涙を溜めキッとレイナルドの事を睨んだ。
ソフィアは子どもの頃にレイナルドとセラフィナと共にいた時に貴族にされた数々の嫌がらせを思い出した。
大抵は、ソフィアが英雄の娘だと知れば止めるのだが、レイナルドの婚約者を狙っていた令嬢からはしつこく嫌がらせを受けていたのだ。
その事を突かれたレイナルドはギクリと身体を震わせた。
幼き頃にソフィアに迷惑かけたことを思い出したレイナルドはソフィアに何も言い返せなくなった。
「それにレイお兄様だってセラお姉様の全てを守れていたわけではありませんよね?」
「うっ…」
昔あった出来事を思い出してレイナルドは心にダメージを受けた。
今でこそ完全無欠の王太子と言われているが、過去には色々とあったのだ。
「これ以上ルイスさんに何か言ったら、しばらく口を聞きませんから」
「そ、そんな…」
ソフィアの言葉にガックシと項垂れたレイナルドだった。
そんな二人の攻防を見ていたルイスは、ソフィアに嫌われたと落ち込んでいるレイナルドに意を決して話しかけた。
「王太子殿下、先程のソフィアの手を離せと仰っしゃられましたが、それは出来ません。
私は心の底からソフィアの事を愛しているんです」
「……」
ルイスの真剣な眼差しにレイナルドは黙ってルイスの言葉を聞く。
「私も先程のソフィアの言葉を聞くまで全ての事から彼女の事を守りたいと思っておりました…ですが、それは思い上がりだったようです。
自分はソフィアとお互い守り守られ支えあえる良きパートナーになれるように、これから精進していきたいと思います。
王太子殿下、助言をありがとうございました」
そう言ってルイスはレイナルドへと頭を下げた。
「………いや、私もどうやら言い過ぎたようだ」
「王太子殿下…」
「だが!!もしソフィアの事を泣かす様な事があれば許さないからね」
「レイお兄様…」
最後の最後までソフィア至上主義を崩さないレイナルドに二人は苦笑いした。
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