二人姉妹の恋愛事情〜騎士とおくる恋の物語〜

みぃ

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第38話

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「どちら様でしょうか?」



突然知らない人間に話しかけられたソフィアは少し警戒する、余りにも敵意剥き出しで話しかけられたからだ。



「あら、私の事を知らないなんてこれだから平民は本当に無知で愚かだ事。

私は子爵の令嬢ですわよ?平民如きが口を聞けるような人間ではなくてよ

まぁ、あのグラシア伯爵が連れてきた女ですもの大した教養などないでしょうね

ことごとく貴族のご令嬢にお見合いを断られる方ですもの、平民しかお嫁に来てくださる方なんていないでしょう」



「そうですよ~、だってあのグラシア伯爵のパートナーですよ

少し顔が良いからって調子にのって会場の真ん中でダンスを披露するなんて、図太い神経をお持ちですわ~」



「本当ですわ!セリア様を指し抜いてダンスを踊るなんて。

それにそのドレス、平民が着るなんて見分不相応なのよ!」



ギャーギャーと次々にソフィアとルイスを貶める言葉を吐く令嬢達にソフィアは、ポカーンとしつつ、懐かしいなと思った。



子供の頃、王宮で王太子と婚約者であるセラフィナとソフィアで遊んでいた時も、こうやって突っかかってくる令嬢がいたなと思い出していたソフィアは、右から左に令嬢達の聞くに耐えない暴言を聞き流していた。



こういう令嬢には何を言っても、倍に返ってくるので何も言わない方が無難だとソフィアは学んだのだ。

ルイスを悪く言う令嬢の言葉にカチンとくるがソフィアは耐える、言い返したら相手の思う壺であると。



そんな何を言っても顔色変えずに何も言い返さないソフィアに、令嬢の一人が怒り狂う。



「さっきから黙ってばかりね!何か言ったらどうなの!?」



「!」



そう言って持っていたワインをソフィアのドレスにめがけてかけた。

あまりにもやり過ぎな行為に周りで見ていた貴族達は顔を顰める。

後ろの取り巻き二人の令嬢も流石にワインをかけるのはやり過ぎではと思ったが男爵令嬢は子爵令嬢に言いなりなので口を出せない。

せっかくルイスに贈ってもらった美しいドレスにワインをかけられたソフィアは、どうしようと思った。

だが、ワインはドレスに吸われる事なく弾け飛ぶ様にワインをかけた令嬢に跳ね返ったのだ。



「きゃあ!!どういう事なの!?この平民風情が!魔法を使ったのね!私のドレスを汚すなんて許さないわ」



自分のドレスが真っ赤に染まり、子爵令嬢は怒り狂う。



それを見ていた周りの高位令嬢達はクスクスと笑った。



「まぁ、イヤですわ。あの方が着ているドレスはルナ・ルースのドレスですわよ」



「そうですわよね、反転魔法がかけられてる一級品ですもの」



「ワインをかけてくる愚か者から守ってくださる様にマダムルナ・ルースのドレスは全て反転魔法がかけられているというのに、それを知らないなんて…」



子爵令嬢に聞こえるようにわざと話す令嬢達は、ソフィアが英雄の娘と知っていた。

親からソフィアには、なるべく関わらないように言いつけられているので間には入らないが、ソフィアに対する子爵令嬢の行いが余りにも酷いので口を出さずには居られなかったのだ。



「くっ!!」



顔を真っ赤に染め、令嬢は周りを睨む。

余りの騒ぎに、令嬢3人組を周りの貴族は非難げに見ていると、一角からざわめきが起こった。



一人の人物がソフィア達へ近づいてきたのだ。

その人物に道を譲るように貴族たちは左右に避けた。





「ソフィア!久しぶりだね、会えて嬉しいよ。

ライムンドが気を利かせ招待状を送ってくれたおかげだね。

今日のドレス姿はいつにも増して美しいね、グラシア伯爵に贈って頂いたのかな?私が贈ったドレスではないからね」



さわやかな笑顔でソフィアに話しかけたのは、この国の第一王子である王太子のレイナルド・ガルシアであった。

王家を象徴する金の髪は長くサイドに1つに結んでおり、紫の瞳はソフィアを優しげに見つめている。

すらりとした肢体はきらびやかな衣装を身に纏っていて、絵に描いた様な王子の姿に周りの令嬢達の顔が赤く染まる。



「あら、王太子殿下お久しぶりです。

仰る通りですわ、ルイス様に贈って頂いたのです。ルイス様のお友達のルナ・ルース様が作られたドレスですわ」



ルイスに贈ってもらったドレスを褒められソフィアは嬉しそうに笑った。



「そうか!あの工房のドレスならソフィアに似合うのは確かだな。

それと殿下だなんて余所余所しい、いつもみたいにレイお兄様で良いんだよ?」



「まぁ、公式の場では流石に無理です」



「はは!ではまたお茶会の場で呼んでもらうとするかな。セラフィナもソフィアとレティシアに会いたがっていたよ、今度皆で集まるとしよう。

レティシアはいつも通り元気かな?」



「えぇ、相変わらず元気ですわ」



「そうかそうか、来年はレティシアも成人するしパーティーに出れると良いな……なんならパートナーでも紹介しようか、うちの弟なんてどうだ?

パーティ嫌いの弟もレティシアをエスコート出来るなら喜んで出席してくれるだろうからね」



「ふふふ、そうですね」



周り、特に下級貴族達はソフィアと王太子がまるで旧知の関係であるように親しく話す姿に徐々に青ざめていく、それは先程ソフィアとグラシア伯爵を貶した発言をしてしまったからだ。



「あ、あの…お二人は…どういったご関係で」



先程から王太子に無視されていた、ソフィアに突っかかっていた子爵令嬢がマナーを無視して王太子とソフィアに話しかけた。

貴族社会では急を要する時以外、下の者から上の者に話しかけるのは禁じられている。



「あぁ…まだ居たのか。彼女はあの英雄の娘である。英雄の娘が私と仲が良いとしても何の問題もなかろう?

それより、先程の聞くに耐えない罵詈雑言をソフィアに言っていたのを私は聞いてしまったのだが…

平民だからと言って貶すとはいかがなものかな?子爵よ、娘の教育はやり直した方が良いと思うのは私だけだろうか?」



子爵令嬢の後ろで父親であろう、子爵が顔を青ざめるのを通り過ぎ真っ白になっていた。



「はいぃぃ!!申し訳ございませんでした!!」



「お、お父様!ちょっと痛いわ!放してよ!」



娘の腕を掴み引きずる様に会場を出る子爵に令嬢はギャーギャーと喚き抵抗する。



「うるさい!帰るぞ静かにしろ!」

 



「羽虫が…」



「レイお兄様、黒いのが隠れてないです」



レイナルドの周りに聞こえない程の小さな黒い呟きにソフィアは苦笑いした。



「さて、ソフィア。セラフィナの元へ一緒に行こう」



「それは構いませんが、ルイスさんが」



「あぁ、グラシア伯爵なら」



レイナルドが指差した方を見たソフィアの視界には、ルイスが走ってこちらに向かってくる姿が見えた。
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