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第33話
しおりを挟む約束の日、ルイスはソフィアを迎えに【まんぷく亭】へとやってきた。
「こんにちは、ルイスさん」
「あぁ、今日は付き合ってくれてありがとう。ソフィアの今日の服もとても良く似合っていて、綺麗だな」
今日のソフィアの装いは、ノースリーブの水色ワンピースだ。
衿はイートンカラーで前ボタンになっており、スカートは細めのプリーツになっている。
同じ布地で出来たウエストのリボンベルトがソフィアの細いウエストを引き立たせる良いアクセントになっている。
「ありがとうございます」
「では、参ろうか」
「はい」
二人は馬車に乗り、貴族街へと向かった。
貴族街の中でも特に一流の店が立ち並ぶ通りの一角に、一際大きな建物が立っている。
その建物の前に馬車が止まり、ルイスとソフィアは馬車から降りる。
「ここが俺の友人がやっているドレス工房だ」
「ここって、あの有名なルナ・ルースのお店じゃないですか」
連れて来られたドレス工房がまさかの、知る人ぞ知る店で驚くソフィア。
「有名なのか?そうか、俺には縁がなくて知らなかった…有名だったんだな」
ルイスは友人の事を思い出すがイマイチ、ピンとこない。
気を取り直して、ルイスはソフィアをエスコートして店内へと足を運んだ。
店内に入ると、黒い制服をきっちりと着こなした店員がルイス達の元へやって来た。
「いらっしゃいませ、お客様。本日のご予約はお済みでいらっしゃいますか?」
「予約していたルイス・グラシアだ」
「グラシア様ですね、伺っております。こちらへどうぞ」
奥の応接室へと案内されると、店員がお茶を用意してくれたので、それを飲みながらルイスの友人を待つ。
少しすると、廊下からカツカツとヒールの鳴る音が聞こえたと思うと、突然バーンとドアが開き、甲高い声が部屋中に響きわたった。
「もーぅ!ルイスったら、急なお願いってなんなのよぉ!?建国祭前で忙しいのにぃ」
甲高い声の持ち主は、ルイスよりもだいぶ背の高い女性?だった。
オレンジレッドのロングヘアーを縦ロールに巻き、首の後ろに大きなリボンでふんわりと結んでいる。
派手目なメイクと相まってゴージャスと言う言葉が似合いそうな人である。
黒のタイトロングワンピースの脇には腰骨辺りまで深くスリットが入っており歩くたびに綺麗な足が見えて、同性の筈なのにソフィアはドキドキする。
黒の10cmピンヒールを履いているにもかかわらず、早足でルイスの元へと歩いてくる。
「アンタねぇ!ドレスが欲しいならもっと早く言いなさいよぉ、今からだったら既製品になっちゃうじゃないのよ、もう!」
後ちょっとで顔がつきそうな程に近寄って文句を捲し立てる謎の美女?にルイスは後ろに後ずさり、困り顔で説明する。
「わ、悪かったって。俺は今年も一人でパーティーに参加するつもりだったのだが、急遽第二王子にソフィアを連れて出席して欲しいと頼まれたんだ。
パーティーに行くならドレスを贈りたいし、恋人に初めてドレスを贈るならお前の所のドレスが良いと思って」
「ル、ルイスに恋人?嘘でしょぉ!?」
ルイスに恋人が出来た事に驚いた美女は悲鳴を上げた。
「いや、嘘ではない。ゴンサロ…こちらがお付き合いしているソフィアだ」
ゴンサロさん?見た目とは裏腹に男らしい名前に頭を傾げソフィアはルイスが紹介してくれたのでゴンサロに頭を下げた。
「初めまして、ソフィアと申します」
「初めまして………ってルイス止めてよ!!ゴンサロって言わないで!アタシの今の名前はルナ・ルースなのよ」
ルイスが呼ぶ名前に不満がある彼女?の名前を訂正する声は少し低かった。
「えっと……お忙しい中すみません。ルナ・ルースさん、私やっぱり今自分で持っているドレスで参加しますので…」
「あら、やだ!ごめんなさい、ソフィアさん。忙しいって言ったから気にしちゃったのねぇ。
大丈夫よぉ、文句を言ってるのは早く言いに来なかったルイスだけであって、ドレスはもちろん用意するわぁ
ルイスにやっと出来た大切な恋人なら、アタシ頑張っちゃうわぁ!」
「あ、ありがとうございます」
「も~!ソフィアさん見てると凄い創作意欲が湧くわぁ!
なんて綺麗な子なの!ルイスには勿体無いわぁ!うちの専属モデルになって欲しいくらい。
ねぇ…ソフィアちゃんて呼んでも良いかしら?仲良くなりたいわぁ~
ソフィアちゃんの為なら、いくつでもドレス作れそうよぉ。
ねぇねぇ、ソフィアちゃんはどんなドレスが好きかしらぁ?
も~!ルイスがもっと早く言ってくれたら1から作れてのにぃ!今度作る時は是非!デザインからアタシにさせて欲しいわぁ~」
あまりのマシンガントークにソフィアは驚き固まっている。
「おい、ゴンサロ落ち着け。ソフィアが固まっている」
ルイスはゴンサロのいつもの悪い癖だなと呆れているが、ソフィアには初めての経験だったのでフリーズしたままだ。
「あらやだぁ…ごめんなさい」
ルイスの声で我に返ったゴンサロ…もといルナ・ルースはソフィアへ謝った。
「い、いえ」
「ソフィア、こちらが俺の友人のゴンサロ………じゃないな、今はマダム、ルナ・ルースと名乗っている。
騎士の学校の同級生だったんだ」
ゴンサロと言った途端ルナ・ルースの鋭い眼光がルイスを貫き、慌てて言い直す。
「うふふっ…よろしくね、ソフィアちゃん!さてとルイス、ちょっとソフィアちゃん借りてくわねぇ~」
そう言ってソフィアの手を握りルナ・ルースは部屋から出て行こうとする。
「ちょっ!俺も着いていく」
「いやぁね~!採寸する所をアンタに見せるわけないじゃないのぉ。おとなしく待ってなさい!」
「い、いや…お前も男だろ」
「大丈夫よぉ!女性の店員が採寸するに決まってるじゃないのぉ~」
(あ、やっぱり男性だったんだ。綺麗過ぎて女性かと思ったわ)
ソフィアはルナ・ルースの性別を知り、こんなにも美しい男性がいるんだなと驚いた。
そしてソフィアは女性の店員に事細かに採寸され、次にドレスが沢山かかっている部屋へと連れて行かれた。
衣装部屋にはルナ・ルースが既に待ち構えていた。
「ソフィアちゃんはどんなドレスが好みかしらぁ?ルイスの色で攻めちゃう?」
「え、いえ、その…まだ恥ずかしいので、ワンポイントくらいで赤い物があったら嬉しいです…」
恥ずかしくて真っ赤な顔をしたソフィアの余りの可愛さにルナ・ルースは悶えた。
「いや~ん、なんて可愛いのぉ!ソフィアちゃんてば、ルイスが聞いたら喜んじゃうわねぇ(教えてあげないけど)
じゃあ、先ずはこのドレスから試着していきましょ!」
そう言ってルナ・ルースは色々なドレスを次から次へとソフィアに試着させ始めた。
何十着と試着し、ドレスが決まる頃にはソフィアはぐったりとした状態になり、ルイスの元へと戻った。
「後は出来てからのお楽しみよぉ~!ソフィアちゃんは建国祭当日の昼にここに来てねぇ!髪の毛のセットもメイクもぜぇ~んぶやってあげるからぁ。
ルイスも3時過ぎにくらいにいらっしゃいねぇ、髪くらいはセットしてあげるわぁ!」
「ありがとうございます」
「あぁ、ありがとう」
お店を出る頃には日が落ちかけ、店から漏れる明かりや街灯が街を照らし、少し幻想的に見える。
次に向かうのは、ルイスが予約してくれたレストラン。
ルナ・ルースの店から歩ける距離にあるので、二人は手を繋いで道を歩く。
「こうして歩きながら店へ行くのも久しぶりだな」
「そうですね、あの時はお付き合いする前でしたので、今日はお付き合いして初めてのデートですね」
「あぁ、こうしてソフィアの恋人として出かけられるなんて夢のようだ」
「私もです、ルイスさんと一緒にいれて幸せです。今日はドレスを贈ってくださりありがとうございます」
「良いんだ。当日にソフィアのドレス姿を見れる事を楽しみにしている」
「はい」
ソフィアはコテンとルイスの肩に頭を乗せ、幸せとルイスの逞しい筋肉にうっとりとした。
そうして、二人はレストランで楽しいひと時を過ごした。
帰りにレストランで出されたケーキがとても美味しかったのでソフィアはレティシアと4体の妖精達とキューちゃんにお土産を買って帰路についたのであった。
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