二人姉妹の恋愛事情〜騎士とおくる恋の物語〜

みぃ

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第29話

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暖かな春の日差しが気持ち良い日

休日にロベルトは気分転換しに一人森へ行こうと街の中を歩いていると冒険者ギルドの建物からレティシアが出てきたのが見えた。

オークから助けてもらった時と同じ格好をしているレティシアにロベルトは話しかけた。





「レティシアさん、こんにちは」



話しかけられ、ロベルトに気がついたレティシアもにこやかに挨拶を返した。



「あ、ロベルトさんお久しぶりです!今回の私服も似合いますね!」



普段の騎士の制服もとても良く着こなしているが、今日来ている服も動きやすそうだがお洒落で、素敵だなと思ったレティシアだった。



「ありがとうございますレティシアさん。これからお出かけですか?」





「はい、そうなんです!これから、ちょっと森に狩りに行こうかと」





「そうなんですね、良かったら私も同行させて頂けないでしょうか?私も丁度森へ行きたいと思っていたんです」





先日、歌劇を見に行く際に会った時には帯剣していなかったロベルトだが、今日は森に行く予定だったので、腰に剣を下げていたのだ。

そんなロベルトの姿を見たレティシアは、一人で行くよりも楽しいかと思い了承する。



「別に構いませんよ、ロベルトさんも良く森へ行くんですか?」





「そうですね、騎士団の訓練所で鍛錬するより森の方が気持も落ち着くので気分転換に行きますね」





「そうなんですね!今日は北の森まで行く予定だったんですけど良いですか?お姉ちゃんからブラッディビーフ、ブラックジャイアントビーフを取って来て欲しいって頼まれているんです」



ブラッディビーフは真っ赤な見た目をし、大きな角を持つ魔物で、ブラックジャイアントビーフは馬車ほどの巨体を持つ黒い魔物である。



「それはまた…どちらもBランクの魔物をまるでお使いの様に頼まれましたね。もしかしなくても今まで【まんぷく亭】で出されていた食材はレティシアさんが狩って来られたものですよね」



どちらの魔物も凶暴で強いのだが、とても味の良いお肉で高値で取り引きされている食材である。

特にブラックジャイアントビーフは煮込みにしたらとても美味で、ブラッディビーフは焼くだけでも美味しい。



「そうですよ!」



「私もレティシアさんの足を引っ張らないよう頑張ります」





そうして、二人は共に西の森の奥の更に奥にある、北の森まで行く事になった。

西の森を超えると、出てくる魔物は更に凶暴化するので、並な冒険者は立ち入る事すら危険な場所である。

その為北の森に入るには、ギルドランクがA以上か、国の許可を得た者しか入る事が出来ない様に結界が張られている。

この結界は北の森の魔物が、西の森に来ない様にする為に存在している。



因みに、ロベルトはギルドに入っていないので、北の森に入る資格を持ち合わせていないのだが、レティシアがAランクの為、同行者として共に入る事が出来る。



そんな危険な北の森の中をサクサクとレティシアは進んで行き、その後ろにロベルトが着いていく。

勿論、四体の妖精達も一緒に行動する。 

結構好戦的な妖精達は、レティシアが魔物を見つけては倒そうとする前に先に攻撃を繰り出して倒してしまうので、何もする事なく森の中をただ歩いていく。





「ロベルトさんは確か…水魔法を使ってましたよね?」



レティシアは、この前のオークとの戦闘で見た事を思い出してロベルトに問う。



「えぇ、そうですね…後は闇魔法も適正があるのですが、中々上手く扱えず」



「んー、そうですね…闇魔法は使える人が少ないですから、誰かに教えてもらうのも難しいですよね」



「そうなのです、なのでいつも水魔法ばかり使ってますね。本当は闇魔法も扱えれたら戦闘の幅も広がると思うんですけどね」



「では、今日は魔物を狩るついでに闇魔法の特訓をしませんか?私も闇魔法が使えるのでコツを教えますよ、お父さんに特訓してもらったので一通り扱えます」



レティシアの急な提案にロベルトは面を食らった。



「魔物を狩るついでに……

宜しいのですか?お父さんとは英雄様の事ですよね、それを私に教えてしまって大丈夫なのですか?」



「全然問題ないですよ!」



「そうなのですね…………では、宜しくお願いします」



レティシアの提案により、ロベルトは闇魔法の使い方を学ぶ事になった。

ロベルトもずっと闇魔法を扱える様になりたいと思っていたので、レティシアの提案はとても有り難い事だった。



闇魔法は使える人が少ないのと、尚且つ余り良いイメージが持たれていないので、使えると公言する人が殆どいない為、誰かに教えを請うのが難しかったのだ。



レティシアも闇魔法を扱えるし、特に闇魔法の事を悪く思っていないのだが、世の中にはそうじゃない人間も多くいる。





闇魔法が良いイメージを持たれていない理由は、本当にくだらない事が発端なのだ。



光魔法の逆の闇魔法は陰湿で使える人間は暗い人間が多いと数百年前何処かの国の王が言い、闇魔法を使える人間を国から追放したのだ。

それを聞いた周りの人間達も、闇魔法が使える人間を迫害した為、使える人間が減り、悪いイメージがついたと言われている。



闇魔法は陰湿でもなければ、使える人間が暗い事実など全くなく、ただ普通の魔法なだけである。

使い方によってはとても便利な魔法なので、是非レティシアはロベルトに使える様になって欲しいと思っている。

魔法は本を読み独学するか、誰かに教えを請いて学ぶかのどちらかなのだが、本で独学するのは理解するのが難しいので誰かに教えて貰う方が良いのだ。

だが、そんな事があって闇魔法は教えてくれる人を探すのが難しいので、中々学ぶ事が出来ないでいる人も多い。







森の中でレティシアは、ロベルトに闇魔法を教えながら魔物を狩っていく。

ロベルトも、レティシアにコツを教えて貰ったおかげか、初めの頃よりスムーズに魔法を展開出来るようになった。

闇魔法は、影を自由に操り攻撃したり物体を拘束する事が出来る《シャドーマニピュレイト》や、自分の姿を影に隠す《ゴーストダイブ》などがある。

両方共、魔物を狩るのに便利な為、良くレティシアも使用している魔法である。





「おかげで闇魔法を扱える様になりました、レティシアさんは魔法も剣もお上手ですね」



「ありがとうございます、私は教えてくれる人に恵まれましたからね」



小さい頃から特訓してくれた人達の顔を思い出し、スパルタだったなと、レティシアは遠い顔をした。



「剣もお父上に教えて頂いたのですか?」



「いえ、剣は違う人ですよ」



「そうなのですか?」



「はい!剣はリカ兄様に教えて貰ったんです」



「お兄様ですか?レティシアさんにはお兄様もいらっしゃったのですね」



「あ!兄と言っても、血が繋がっている訳ではなくて、兄の様に慕っているから、そう呼ばせて貰っているだけです」



「そうなんですね、レティシアさんがそこまで慕っている方はとてもお強いのでしょうね」 



「はい!だって私もまだ一度も勝てた事がないんです。でも、いつか勝ってみせます!」



ロベルトがレティシアの言うリカ兄様を、第一騎士団長のリカルド・アルバ公爵だと知るのは大分先の事であった。



雑談しながらも特訓し、二人は深い森の中を歩き、目当ての魔物を探す。



すると、自由に飛び回っていた妖精達がレティシアの所まで帰ってきて、一斉に森の奥を指で指す。



「あっちにいるの?」



「「「「キュー!!」」」」



「ありがとう!

ロベルトさん!あっちに居るそうなので向かいましょう」



「はい」





✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽









二人は無事にお目当ての魔物を狩ることが出来た。

殆ど妖精達が倒した様なものだったが、ロベルトも新たに覚えた闇魔法を実戦で使える事が出来た為、良い経験になった。



「少し休憩しましょう」



「はい」



近くの切り株にレティシアは腰を下ろし、マジックバックの中から取り出した様に見せかけインベントリからお菓子を出した。



「ほら、ルビー、サフィ、エメ、リン!おやつの時間だよ」



「「「「キューイ♡」」」」



レティシアから渡されたお菓子は、妖精達が大好きなチョコレートのケーキだった。

ナッツが混ざっていて食べごたえのあるケーキは妖精達が食べやすい様に一口サイズに切り分けられている。

妖精達は嬉しそうにケーキをレティシアから受け取り小さな口いっぱいにケーキを頬張っていく。



「ロベルトさんも良かったらどうぞ!」



「ありがとうございます……っん!美味しいです」



「えへへっ…それは良かったです!」



そうして、レティシアはインベントリからお茶も取り出してロベルトに振る舞った。

危ない森の中とは思えない程に、のんびりとした空気がレティシアとロベルトの間に流れる。



そんな場の空気に気の緩んだロベルトがポツリと言葉を溢した。



「あの…少しお話を聞いて頂いても宜しいでしょうか?」



「?……良いですよ」



ずっと誰かに聞いて貰いたかったかのようにポツリとロベルトは話始めた。



「…私はこの前、新人達をまともに守る事も出来ませんでした。

副団長を任されているというのに私は全くと言っていい程、力不足でした。

…森の浅瀬だから大したランクの魔物は出ない、例え出たとしても自分なら対処出来ると慢心していたのでしょうね…

それがあの結果でした。

大勢の魔物に自分の身は守れるが新人達が倒れていくのをただ戦いながら守ってあげる事が出来なかったのです」





この前の演習中に起きた出来事にロベルトは思う事があったのだ、だが話す相手も居らず心の奥底で思っていた事をつい気の緩みでレティシアに溢してしまった。



まるで懺悔するかの様に話すロベルトにレティシアは自分の思った事を返した。



「…そんなに自分を追い詰める事なんてないですよ」





「え…」





レティシアの言葉にロベルトは下を向いていた視線をレティシアの方へ向けた。



「森の浅瀬であれ程の魔物が群れで出る事自体が今までありえなかった事で、森の浅瀬は安全だ、それが当たり前だと皆考えていた事です。

だからロベルトさんは責任を感じるよりも、何故浅瀬に魔物の群れが出てきたのか調査する事が大事だと思います。ロベルトさんの事ですからそれはもうしているかと思いますが。

……それに人を守りながら戦うのは一人で魔物の群れに立ち向かうより何倍も難しいんです。

昔ギルドで聞きました、どんな高ランクの冒険者だって怪我を負った仲間を庇いながら戦うのは至難の業だと、だって魔物は弱い者、手負いの者を襲おうとするんですから。



だから、大勢の魔物が強い団長さんやロベルトさんを避けて怪我をした新人さん達を襲っていくのは当たり前なんです。」



私だって敵だったらロベルトさんの事は避けますよと笑い飛ばす様に言った。



「それに、今回私も反省する点が沢山ありました。ついつい新しい双剣が嬉しくて戦闘にのめり込み過ぎてオークキングに気がつくのが遅くなってしまったんです。

お姉ちゃんから離れすぎたのも悪いし、調子に乗りすぎたのもの反省する点でした。

もしあれが私とお姉ちゃんだけだった時に起きていたら、取り返しがつかない事になってました。

お姉ちゃんと森に入る時は絶対に近くから離れないと決めていたのに。

だけど、今回のおかげで自分の悪い所にも気がつく事が出来ました、それに今回は誰も亡くなっていないのでまだまだやり直しが効きますよ。2度同じ事を繰り返さなければ良いんですから」



そう言ったレティシアの言葉がロベルトの心にストンと落ちた。



「2度繰り返さなければ…ですか」



「はい!次はオークキングでも何でも、出てきた魔物を一瞬で倒せるように、特訓しましょう!」



やや脳筋のレティシアの言葉にロベルトは笑った。



「ははっ!そうですね、この場で落ち込んでいても過去は変わりません、ならば私の成す事は未来の為に自分を鍛える事ですね。

レティシアさん、ありがとうございました。貴女のおかげで大切な事に気づけました」



「いえ、良いんです!困った時はお互い様です、良かったらこれからも時間が合えば一緒に狩りに行きませんか?」



「宜しいのですか?私が一緒ではレティシアさんのお荷物になるだけでしょう 」





「大丈夫です!私も誰かと一緒に狩りに行く方が楽しいので、また一緒にロベルトさんと行きたいです」 





「ありがとうございます、レティシアさんに追い付けるように私も頑張ります」







それからよく休みの合う日は二人で狩りに行くようになった。

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