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第27話
しおりを挟む連休最終の日、今日は明日からまた【まんぷく亭】の営業が始まるのでソフィアとレティシアは朝食後に、開店に向けて準備を行なう事にした。
二人は店内の掃除をし終えた後、明日出すメニューの下拵えをし始めた。
「お姉ちゃん、明日は何作る?騎士の人達にオークを使った料理を作るって言ったけど」
「明日はね、野菜たっぷりのオーク肉の
味噌汁とオークのバラ肉の角煮にしようと思っているの」
「うん!良いと思う」
「でも角煮って作るのに時間がかかるから、明日のメニューは角煮だけにしようと思っているのだけど、どうかしら?」
「そうだよね、角煮って美味しいんだけど時間がかかるもんね。選べなくなるけど、角煮1種類だけでも大丈夫だと思うよ!だってお姉ちゃんの角煮はほっぺたが落ちる程美味しいもん!私も頑張って手伝うから角煮沢山作ろう」
「ありがとうレティ、じゃあ明日は角煮1種類だけの定食と……後、オーク肉の味噌汁は騎士の方にサービスで1杯おかわり無料にしようと思うの」
「うん!オーク沢山貰った時にサービスするねって言ったもんね、皆喜ぶと思うよ」
そして、明日のメニューが決まった二人は家にない食材を求めマルシェまで行き、沢山の野菜を買ってきた。
町中でインベントリを使う訳にはいかないので、軽くて手で持って帰れる物だけ持って帰る。
根菜類は量が多すぎた為、八百屋の店主の好意で後で配達してくれる事になった。
「レティはとりあえず、オークのバラ肉を薄くスライスしたものと、10cm角の固まりを沢山作ってくれる?」
「はーい!」
レティシアはインベントリの中から解体済みの大きなオーク肉の固まりを取り出し、手際よく切り出した。
バラ肉の薄切りは、オーク肉の味噌汁用で
10cm角の固まりは角煮用である。
「さてと、レティにお肉を切ってもらっている間に私はお野菜を切ってしまいましょう」
先程買ってきた白ネギの上の青い部分と、セロリの葉の部分を細紐で縛って、生姜をたっぷりスライスしていく。
残ったセロリの茎は浅漬けを作る為、小さなボウルにセロリの筋を取り、乱切りに切ったものと少量の塩を入れて揉みこんだ。
後はその上に落し蓋をし重石を乗せて冷蔵ボックスの中に閉まった。
レティが切ってくれた10cm角のバラ肉の表面を焼いてくが、余りにも沢山のお肉がある為大変である。
大きなフライパンでお肉を次々に焼き、大きな鍋の中に隙間なく並べていく。
お肉がギュッと入った鍋の中に水と清酒、みりんと砂糖、切った生姜とネギ、セロリの束も入れて2時間程煮込んでいく。
魔法のエイジングを使えば早く出来るのだが、ソフィアは母が教えてくれた通りの作り方のほうが美味しく出来る気がするので、時間をかけてじっくりと火を通していく。
そして、トロトロにお肉が柔らかくなったのを確認したら、分量の半分の醤油を入れて更に1時間煮込む。
お肉に薄く味がついたら残りの醤油を入れ30分程煮込んだら完成だが、一晩寝かせると更に味が染みて美味しくなる。
昔、このレシピを教えて貰った際に母に何故、醤油を一度に入れてしまってはいけないのか尋ねた事があった。
その時の母の答えは
「一度に醤油を入れてしまうと柔らかくなったお肉が固くなってしまうからだよ……知らんけど」
と言われた。
知らんけど、とはいったい何なのだと思ったソフィアだが
まぁ、美味しいから良いかと思い、母から教わった作り方通りにしている。
そんな昔の事を思い出していると、たまには母の手料理が食べたいなと思ったソフィアであった。
ソフィアが母から教わった料理はこの国で見た事も聞いたこともない。
その理由は料理を作る際に先程使った、みりんや醤油、清酒や味噌などが、とある人物しか作る事が出来ず、そして世の中に出回っていない為、実質この料理を作れるのはソフィアと母ヴァレンティナだけでなのである。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん!ゆで卵も入れて煮卵作ろうよ」
「あら、良いわね。では明日のお昼ご飯は角煮のタレで作った油そばを作りましょう、トッピングは角煮と煮卵と青ネギが良いかしら」
「やったー!油そば大好きなんだよね」
角煮が完成する頃、八百屋の店主が根菜を届けてくれたので、今度はオーク味噌汁作りに取りかかる。
「レティ、さっき薄くスライスしてくれたバラ肉を4cmくらいの長さに切ってからお鍋に入れて炒めてちょうだい」
「はーい」
レティシアはサクサクっとお肉を切り大きな鍋に入れて炒め始める、すると厨房の中にお肉の焼ける美味しそうな匂いが充満する。
先程完成した角煮の香りと、炒めたお肉の匂いが合さって、レティシアのお腹が鳴りそうになる。
「もう少しでお昼ご飯の時間~お腹空いてきた!」
「ふふ、お昼ご飯は何にしましょうか?」
「んー………ホットケーキ食べたいな!」
「あら、お肉ではないのね」
「うん!お肉は沢山見すぎて今は良いや」
「分かったわ、オーク肉の味噌汁が出来あがったら作りましょうね。蜂蜜たっぷりかけてあげるから、もう少し頑張ってね」
「頑張るー」
フワフワのホットケーキに思いを馳せて、レティシアは頑張ってお肉を炒める。
レティシアにお肉を炒めて貰っている間にソフィアは、オーク味噌汁に入れる野菜の準備をする。
じゃがいもは一口サイズに、人参、大根をいちょう切りに、玉ねぎはくし切りに切っていく。
お肉に少し火が通ったら、野菜を入れて一緒に軽く炒める。
そしてそこに水を入れて沸騰したら、小魚を乾燥させた物を粉末にした調味料を入れた。
後は野菜とお肉に火が通るのを待ち、最後に味噌を入れて味をととのえたら完成だ。
コトコトと煮える鍋から香る味噌汁の香りに、ソフィアはまた母の事を思い出した。
何故、味噌汁を作る時に小魚を乾燥させ粉末にした物を入れるのか母に聞いたのだが、その時に返ってきた返事が。
「美味しくなるからだよ………知らんけど」
と、適当な返事が返ってきたのだ。
母の料理は美味しいのだが、作る際に適当な部分が多すぎる。
毎回料理を教えて貰う度に、目分量だから覚えるのが大変だった事をソフィアは思い出して苦笑いをした。
角煮と、オーク肉の味噌汁が完成し、明日の開店の準備は整った。
ソフィアはお腹を空かせたレティシアの為にホットケーキを作り始めた。
「ふんふふん~♪小麦粉に~卵黄と砂糖と牛乳入れて~まぜまぜ~」
1つのボウルに小麦粉と砂糖と牛乳と卵黄を入れてダマにならない様に丁寧に混ぜ合わせる。
そしてもう1つのボウルに、卵白を入れて卵白が泡の塊になるまで泡立てる。
「これが結構時間かかるのよね!早く帝国の魔導泡立て器が欲しいわ」
最近帝国で発売された魔導泡立て器と言う、泡立て器が自動で回ってくれる魔導具が手に入ればもっと早く作れるのだが、まだ王国には入って来ていないので手動でソフィアは卵白を泡立てる。
「ルイスさんと食べに行った、パンケーキも一度作ってみたけど…あれ程フワフワにならないのよね。きっと小麦粉と卵の配分が絶妙なのでしょうね…焼き方もホットケーキとは違うのかしら?」
一生懸命泡立てた卵白を、小麦粉達を混ぜ合わせたボウルに少しづつ入れて、卵白の泡が消えない様に優しく混ぜ合わせると、ホットケーキの元が完成だ。
後はフライパンに丸くなる様にお玉で流し込んで弱火でゆっくり加熱すれば、ホットケーキの完成。
「うん!美味しそうだけど、やっぱりパンケーキには程遠いわね」
「あっ!ホットケーキ出来てるー!」
ホットケーキの焼けた匂いにつられてレティシアがソフィアの元にやってくる。
「さぁ、レティ。お昼にしましょうね」
「はーい!」
もうレティシアの手には蜂蜜とバターが握られていた。
レティシアは目の前に置かれたホットケーキにバターを一欠片と、たっぷりの蜂蜜をかける。
「いっただきまーす!」
「ふふっ、召し上がれ」
大きな口を開けて、一口サイズにしては大きく切られたホットケーキを頬張って美味しそうに食べるレティシアの姿にソフィアはニコニコと笑った。
「ん~!おいひ~」
「それは良かったわ」
「お姉ちゃんのホットケーキって何か優しい味がするんだよね」
パクパクとホットケーキを一口、また一口と口の中に入れてモグモグと食べるレティシアの頭の上には幸せなお花が咲いているように見えた。
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