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第18話
しおりを挟むオークキングは再度斧を振り上げ、倒れたルイスに駆け寄ったソフィアに攻撃を繰り出そうとした。
「お姉ちゃん!!!」
「団長!!」
ロベルトは慌ててオークキングと戦おうと魔法を展開しようとするが、それよりも先にレティシアがオークキングの斧を持った腕を《ウィンドカッター》で切り落とした。
「グオオォォォ!!!」
「お姉ちゃんを襲うなんて許さない!」
姉を襲おうとしたオークキングの動きを止めようと無数の風魔法で残りの手足を切り落とす。
そしてトドメに、レティシアはオークキングの頭を双剣で胴体からスパッと切り離した。
「出る幕、ありませんでしたね」
普通、騎士が数人掛かりで倒す筈のオークキングが一瞬にして倒される姿にロベルトは驚いた。
ロベルトは他に生き残りがいないか周りを確認した後、団長へと駆け寄った。
一方その頃ソフィアは、肩から胸を斬られたルイス対して懸命に治癒魔法をかけているが、余りにも大きな傷の為ソフィアの力では治し切ることが出来ないでいた。
そうしている間にもルイスの身体からは大量の血が流れ落ちていく、このままでは出血多量で死んでしまう。
今にも死んでしまいそうなルイスの呼吸は徐々に弱くなっていく。
「いやっ!!死なないで!」
ソフィアは必死に治癒魔法をかけるが、自分の中では分かっているのだ。自分の力ではルイスを助ける事が出来無いと。
泣きながらルイスの名前を呼ぶソフィアに、意識朦朧としながらもルイスは薄っすらと目を開け
「ソ、フィア…あ、なたが…無事で、良かった……」
そう言ったかと思うと、ルイスは目を閉じ何の反応もしなくなった。
「どうしよう…このままでは、ルイスさんがっ!………っあ!そうだ、キューちゃん!」
「お姉ちゃん!?キューちゃんは」
オークキングを倒し、ソフィアの元へ駆け寄ってきたレティシアは今から姉がキューちゃんを召喚しようとしているのが分かり静止しようとするが
「良いの、キューちゃんの事が周りにバレたとしても私は絶対に後悔しない!それよりもルイスさんが死んてしまう方が絶対に嫌なの!」
そう言ってソフィアは影の中からキューちゃんを召喚する。
「お願い、キューちゃん!私の力だけではルイスさんを助ける事が出来ないの…お願い!私に力を貸して」
影の中から飛び出してきたキューちゃんはソフィアの肩の上に乗る。
「コーーーン!!」
ソフィアの声に応える様に九尾の尻尾を振り出す、するとキューちゃんの治癒魔法増幅とMP回復がソフィアへかけられ、身体がパーッと光った。
キューちゃんから貰った力を使い、ソフィアはありったけの力を振り絞りルイスへ治癒魔法をかけた。
《パーフェクトヒール》
「お願い!ルイスさん…助かって、お願い死なないで!」
ソフィアを纏っていた光はルイスまでも包み込む
その姿を見ていたロベルトも新人騎士達も、余りの神々しい情景に目を奪われる。
そしてパッと弾け飛ぶ様に光が消えたかと思うと、ルイスの傷跡は跡形もなく消え去っていたのだ。
ソフィアの願いが通じたのだろう、ルイスの顔色は徐々に色づき始め息が安定していく。
ソフィアはルイスの胸に耳を当てると、心臓の音がトクトクと正常に動いているのが分かった。
「良かったっ……本当に」
ルイスが助かった事を実感出来たソフィアは嬉し涙を零した。
「ありがとう、キューちゃん。貴方のおかげでルイスさんが助かったわ」
「コーン!」
ソフィアが喜んでくれて自分も嬉しいのか、キューちゃんは尻尾を振ってソフィアに擦り寄った。
そんなキューちゃんを優しく撫でるソフィアにレティシアは近づいて頭を下げた。
「ごめんなさい…お姉ちゃん、団長さんの命がかかってるのにキューちゃんの事、止めようとして」
「ううん、良いのよ。私の事を心配してくれたのでしょ?」
「うん…」
この国では真っ白な狐は神聖で神の使いと言われ祀られる対象、契約を結べた相手は神に気に入られていると言われている為ソフィアがキューちゃんと従魔契約していると教会にバレれば無理やりにでも聖職者にされてしまうかもしれない。
だからキューちゃんの事は親しい者にしか知られない様にしていたのだが、今回で周りの人にも知られてしまうであろう。
そうしたら、今の様な生活は送れなくなる。
だけど、ソフィアは今後の生活よりもルイスの命を取ったのだ。
「大丈夫よ…私は後悔しないわ」
「お姉ちゃん…」
レティシアは俯向いてしまった。
自分があの時もっと速くオークキングに気づけて動けていたら、オークを狩るのに夢中になっていなかったら、姉が危険な目にあって団長も大怪我を負う必要なんて無かったのだと自分を責めた。
そんな二人にロベルトが声をかけた。
「ソフィアさん、レティシアさん。この度は危ない所を助けて頂き誠にありがとうございます!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
ロベルトが頭を下げると共に新人騎士達も一斉に頭を下げた。
まだソフィアが治癒魔法をかけていない筈の新人騎士達の怪我が完璧に治っており立ち上がる事が出来た、それは先程のソフィアのパーフェクトヒールの力が周りにも影響した為だった。
「いえ、そんな。私なんてルイスさんに余計な怪我を負わせてしまっただけなのに」
そう言って俯向いてしまうソフィアに新人騎士達は次々に否定していく。
「そんな事はありません!貴女様方が来てくださらなければ私達は当の昔に死んでいました」
「そうです!それに人を守るのは騎士の勤め!団長はそれを全うしただけであります」
初めの頃に教わる騎士の心得を完璧に覚えている新人騎士達はソフィアのせいで団長が死にかけたとは1ミリ足りとも思ってはいなかった。
それよりも、自分達の怪我を治しオークから助けてくれた二人に感謝しかしていないのだ。
「ソフィアさん、レティシアさん。私共はそちらのお狐様の事は一切口を噤む事を誓います」
「「「「誓います!」」」」
ロベルトと新人騎士達はその場に片膝を付き騎士の誓いの礼をした。
「「え…」」
「当たり前の事です、命の恩人である貴女様の気持ちに背く事は絶対に致しませんのでご安心下さいね
ですが…その、王にはお狐様以外の事は説明しなくてはいけないのでご了承頂けますか?」
少し申し訳無さそうにロベルトがソフィアとレティシアに伺いを立てる。
「はい、王様になら言って頂いても大丈夫です。ありがとうございます」
「良かったね、お姉ちゃん」
「えぇ」
話を終え、まだ目の覚まさないルイスをテントまで運び目を覚ますまで待つ事にした。
ソフィアはルイスに付き添い、レティシアはロベルト達と共にオークの死骸の処理と森の警戒を引き続き行う事になった。
簡易ベッドに横渡るルイスの隣に座りソフィアはそっと彼の手を握った。
「ルイスさん…温かい」
ギュッと手を握りしめるとピクリとルイスの瞼が動き、ゆっくりと瞼が開いたと思うとルイスとソフィアの目線があった。
「ソ、フィア?」
「ルイスさん…良かった、本当にっ」
ソフィアはルイスが無事に目を覚ましたのを見てホッとし、またポロポロと涙を零す。
「ソフィア、ありがとう…貴女のおかげで助かった」
「本当に、助かって良かったです。でも!どうして私を庇ったりしたんですか!?死ぬところだったんですよ」
少し怒り気味にソフィアがそう言うとルイスはポツリと話しだした。
「貴女がオークに殺されてしまうと思ったら、咄嗟に身体が動いていたんだ……俺は、貴女に死んで欲しく無かったんだ」
ポロポロとソフィアの頬を伝う涙を指で拭いながらルイスは自身の言葉で自分の気持ちに気が付いた。
(そうか…俺はソフィアの事が好きなのか)
心の中で納得した自分がいた。
そうして再び瞼を閉じるとまた眠りについた。
「ルイスさん?……あら、寝てしまったのね。そうよね、あれだけ血を流したのですもの」
ソフィアはそっとルイスの瞼にキスを落とした。
「ゆっくりと休んで下さいね」
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