恋するピアノ

紗智

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59.テディベア

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※※※双子視点です。



安直な気もするけど、ユニット名が『ラファエル』に決まった。
可瀬美姫かせみきです。どうぞよろしくね」
原田伶歌はらだれいかです。よろしく」
スケジュールの都合で曲を作った後にメンバーにやっと会った。
「若桜覚です。よろしくお願いします」
可瀬美姫は俺たちより背が少し低いけど、原田伶歌は少し高い。
「可瀬さんがメインヴォーカルですよね?」
「美姫でいいわよ。敬語もいらないわ」
「私も伶歌でいいわ」
「あ、助かった。可瀬も原田も発音しにくいんだ。僕が作った曲はどう? 歌いにくいとか演奏しづらいとかない?」
「大丈夫よ。いつでもやれるわ」
「面白い曲よね」
「面白い?」
「コードが流行の逆を行ってる感じ」
「今はわかりやすい曲が流行ってるけど、歌唱力高いんだからあれくらいやらないともったいない気がして」
美姫が笑った。
伶歌は少し考えて、ボソッと言った。
「歌唱力って、あなたも歌うんじゃないの?」
「えっ、俺歌下手かなあ? たしかにピアノほど得意じゃないけど」
美姫が爆笑した。
あ、俺って言っちゃったな。
「もちろん下手ではないわよ。自信があるのねって思っただけ」 
「ところで、そちらは……?」
美姫が後ろの方に座っていた片割れの方を向いた。
「覚の兄の諒です」
「まあ、見ればわかるけど」
「えっと、お邪魔かも知れないけどお構いなく」
「まあ、保護者がわりかな」
そういえばまだ中学生だもんね、と美姫たちはそれで納得してくれた。


明日生の誕生日に何を贈るかすごく悩んだ。
良実ちゃんの誕生日には何もプレゼントを用意しなかったから、派手なものをあげるわけにもいかない。
俺たちがどんなに好きでも明日生は友達だ。
選びに行く時間もあまりなかった。
「こんにちは……うわ」
自由ヶ丘駅に迎えに来た明日生に二人でハグする。
「「明日生、誕生日おめでとう!」」
俺たちに抱きしめられて、明日生は照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。13歳になりました」
一緒にいた甲斐がからかうように言う。
「やっと13歳ですか。ひとつ歳をとっても相変わらず相応に見えませんねえ」
明日生の味方をすることにする。
「「甲斐は人のこと言えないだろ」」
「二人一度に言わないでくださいよ。余計に悲しいじゃないですか」
ロングレッグスハウスに着いて談話室の椅子にみんなで座る。
「「明日生、誕生日プレゼントだよ」」
ミント色の包装を施されたそれを明日生に差し出した。
「「えっ、ありがとうございます……! 開けますね」
明日生は受け取ってすごく丁寧に包みを開けた。
けっこう細かい性格なんだなあ。
「くまだ!」
明日生にあげたのは明るい茶色のくまのぬいぐるみに目覚まし時計が埋め込まれているものだ。
「こんな可愛らしいものもらったの初めてだなあ……」
明日生がくまをしげしげと見つめながら言った。
「そうなの? ぬいぐるみとかなかった?」
「子どもの頃に持ってなかったんだ?」
「僕男の子ですし」
「テディベアは子どものお守りなんだ」
「ドイツでは男女関係ないんだよ」
「へえ……?」
良実ちゃんがくまのおなかの時計部分を横から覗きこんだ。
「目覚まし時計?」
「うん。そうなんだ」
「明日生朝が苦手みたいだからね」
「ははは……ありがとうございます。でも僕電子音が苦手なんですよね……時計として活用させてもらおうかな」
「ああ、ちょっと貸して」
相棒がそう言って、俺がくまを受け取る。
「これ、ここにマイクが入ってるんだよ」
そこにあるスイッチ類をいじって、相棒にマイクを向けた。
「明日生、Good morning!」
甲斐が手を打ち合わせた。
「ああ! 録音したものがアラーム音に設定できるんですね!」
「「そう」」
俺が時刻を合わせると、くまから相棒の声がする。
『明日生、Good morning!』
「えっ……!!!」
明日生がすごく驚いた顔をしている。
「三種類まで録音できるらしいよ」
またスイッチを操作して、俺はくまに向かって『Happy birthday to you』と歌った。
いろいろいじって、くまは『Good morning』を言った後『Happy birthday』を歌いだした。
「好きな音を入れてね」
「ちゃんと消しとくから」
くまの底をいじろうとしたら、明日生が急にくまを取り上げてしまった。
「消さなくていいです!」
「? まあ、好きにして」
「あの……ありがとうございます……嬉しいです」
「「喜んでもらえたならこっちも嬉しいよ」」
明日生はくまに触れて、もう一度『明日生、Good morning!』を再生した。
なんかすごく嬉しそうな顔をしている。
あわてて決めたプレゼントで、明日生には子供っぽいかなと不安だった。
でもこれがちょうどよかったのかもしれない。
そうだ。明日生ってまだ13歳なんだしね。
俺たちは初恋は13歳だった。
恋人とかできる歳でもないのかもしれないし、今は友人関係を楽しむのもいいかな。
今日、5月11日は明日生の誕生日。
俺たちはたいしたことは返せないけど、明日生に出会えたことにはほんとに感謝している。
居てくれてありがとう。
生まれてきてくれてありがとう。
あらためてそう感じられる日だ。
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