恋するピアノ

紗智

文字の大きさ
上 下
47 / 93

47.アイドル・ピアニスト

しおりを挟む
 襲撃が落ち着いてひと段落つきーー
戻ってきたアンナと3人で、長老様の家でお茶をご馳走になっていた。
ワイバーンは私の収納魔法と、アンナさんの収納袋を使って回収をしておいた。
もちろん、長老様からのお願いである。

 街が何事もなかった様に、生活を始めた頃。
お茶を頂いていた長老様の家に慌てて入ってくる足音がした。

「長老!ワイバーンは!どうなりまし‥‥た?」

 焦って走ってきたのだろう。肩で息をし、目を赤くしながら叫んでいる。
金色の長い髪がフワッと揺れる。まだ若そうに見える男性だ。
だが、私たちの朗らかな様子に疑問を持ったのだろう。その勢いも長くは続かない


「おお、副ギルド長。もしかして送った者と入れ違いになったかのう?ワイバーンは倒されたよ」

 はっはっは、と笑う長老様とポカン、と口を開けた副ギルド長が対照的だ。
だが、この村のために副ギルド長自らが駆けつけるなんて、なんとも勇ましい。

「どういう事か説明してもらえますか?」
「だから言った通りじゃ。このお2人がワイバーンを殲滅してくれた」
「‥‥2人で?」

 私たちは副ギルド長に背を向けて座っていたので、今ここにいたことに気が付いたらしい。
ロランの顔を見た後、私の顔を見て驚いている。

「ああ、お前さんたちが来る前にと思ってギルドには他の者を報告に行かせたんじゃ。お2人さんは怪我はなかったとはいえ、疲れていると思ってな」
「‥‥で、ここでお茶していたと」
「そうだ。助けてもらったのにお礼の一つも出来ないなんて、嫌だからのう」

 副ギルド長は呑気な長老様の様子に頭を抱えている。

「状況は分かりました‥‥では、長老。この2人に詳しい話を聞きますので、街に向かいたいと思いますが‥‥」
「しょうがないのう。また皆さんこの村に来て下さいな、その時は歓迎しますぞ!」

 その言葉で私たちは次の街に向かうことになったのだった。


 ロランがアンナさんの事情を話してくれたので、アンナさんも着いていくことになった。
急いで来て欲しい、ということで村の馬を借りて行くことになる。
アンナさんもロランも私も、乗馬は問題ないようだ。

 私たちが街に行くことを嫌がる村人を副ギルド長は宥め、また来ると約束して村を出る。
村人総出で見送ってくれたことは忘れないだろう。

 今は先頭に副ギルド長、私、アンナさん、ロランの順で馬を走らせていた。
女性は危ないから、と気を使ってくれた様だ。
副ギルド長は気さくな方の様で、私に色々と声をかけてくれる。
今も質問されたので、答えている最中だ。

「ああ、シャルモンの街ご出身なのですね?」
「はい」
「シャルモンの街のギルド長には私もお世話になりました。すごく優しい方でしたね」
「そうですね」

 先程から、「はい」「いいえ」「そうですね」しか言っていない気がする。
でも副ギルド長はペラペラと話しかけてくる。よく話が持つな、と1人で感心していただけだったが。

ーー実は副ギルド長が私に好意を寄せているから話しかけていることに、私は気づくことはなかった。



 私が、変なところで感心している時。

 後ろで馬を走らせていたロランは、眉間にシワを寄せて前を伺っていた。
私と副ギルド長が楽しげに(?)話している(様に見える)ので、余計にシワが寄っている。
アンナさんはそのことに気づいたらしく、危なくない程度に後ろを振り向いた。

「ロラン、シワが寄っているわよ?」

 アンナさんは眉間を人差し指でトントン、と叩く。
それでロランは顔のことに気づいたらしい。眉間のシワはなくなった。

「何、嫉妬してるのよ」
「嫉妬って‥‥」
「あら?してないとでも?」

 その言葉に黙るしか無いロラン。どこからどう見ても嫉妬してる様にしか見えないだろう。
そこで色々とロランから話を聞いていたアンナさんは思い至った様だ。

「そっか、セリーちゃんが男性と2人で話すところを見たことがなかった?だから嫉妬しちゃったのか」

 図星である。下を向いてはいるが、耳まで赤くなっていることは確かだ。

「セリーちゃんは可愛いから、射止めておかないと攫われちゃうよ?」
「‥‥分かってる」
「ロランは本当にセリーちゃんのことが好きよね~羨ましい!」
「そりゃ、一目‥‥あ」
 
 思わず突いて出てきた言葉に気づき、途中で止めるも、アンナさんには分かってしまったようだ。

「あらまぁ、ロランも隅に置けないね」
「‥‥ちっ」
「まあ、今嫉妬しているからって、セリーちゃんに当たるのだけはやめてよね?」
「‥‥分かってる」

 アンナさんはロランを弄って楽しかったようだ。顔を前に戻している。
そこにはまだ話し続ける副ギルド長と、話だけ聞いている私の姿が。

「‥‥ちゃんと攫われない様に守ってよね?」

 とアンナさんが呟いた声は誰の耳にも届くことは無かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...