亡国の系譜と神の婚約者

仁藤欣太郎

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第二章 ギルドの依頼

第百二十話 先の計画

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 第一区に到着した三人は、まず報酬を受け取りに停留所付近にあるギルドへ向かった。

 ネヴィール第一区はフェーブル王国で最も栄えた町だけあって、ギルドの建物も大きかった。三階建ての見るからに堅牢けんろうな石造りの建物に入ると、中には屈強な警備員が数名待機しており、奥にはミーヌのギルドより幅広のカウンターがあった。事務員の数も多く、待合も多くの依頼者と受注者で賑わっていた。

 時刻は午前十一時四十五分。表の看板によると午前の受付時間は十二時までで、そこから二時間の昼休憩が入る。

「さっさと手続きしないと締められちまうぞ。いったいどこに持って行けばいいんだ?」
「ジャン、あそこだ。換金って書いてあるだろ?」
「あー、あれな。オッケー、それじゃあ並ぶか」

 ジャンたちは換金のカウンターに並んだ。たまたま前に並んでいるのは男一人だけで、待たされることはなさそうだった。

 ほどなくして前の男の手続きが終わり、ジャンたちの番が回ってきた。三人は報酬の申請用書類を受付嬢に渡すと、指示に従って近くの椅子に座って待つことにした。サインの照合などの作業に十分ほどかかると受付嬢に言われたので、三人は待っている間にこのあとの計画を立てることにした。そこでニコラはフィロス学術研究所の公開セミナーの件をジャンとシェリーに伝えた。

「実は依頼主の方からこれをいただいたんだ」

 ニコラはチケットをテーブルに置いた。ジャンとシェリーはそれを手に取って見た。

「なにこのチケット。……『第十五回 フィロス学術研究所 公開セミナー』って、これ、あのフィロス学術研究所のこと?」
「前におまえが言ってたナントカって偉い先生がいるところか? セミナーなんか聞いてもたぶん俺、理解できねーと思うけど。まあ、おまえが行きたいって言うなら付き合ってもいいぜ」
「あたしも理解できるかわかんないけど、ニコラが行きたいならいいわよ」

 二人はそこまで関心があるわけでもなかったが、ニコラの意を酌んで同意した。

「二人とも、ありがとう。一応パンフレットも三人分あるから渡しとくよ」

 ニコラはセミナーのパンフレットをジャンとシェリーにそれぞれ手渡した。二人はしばらくそれをパラパラとめくってみた。

「これ、いいじゃない。『美容と健康のための最新の食事法』ですって」
「このセミナーは一般公開されるものだから、半分以上は専門知識がなくても理解できる内容なんだ。もちろん最新の研究報告もあるんだけど、一般人が生活に役立てられるような講座が中心らしい」
「へぇ、それならあたしでも楽しめるかも」

 シェリーはパンフレットを見て少し乗り気になった。ジャンはというと、特にこれといって興味を惹くものがないのか、いまいち反応が薄かった。

「俺はまぁ、どっちかの付き添いでいいわ。剣術のセミナーでもあったら見てみたいんだけどな」
「残念だけど、そういうのはないんだ。剣術や武術ならオリンピア王国へ行けばなにかしらあるんだろうけど」
「あ、そうだ! オリンピア王国に寄らなきゃ、この旅終れねぇよ!」

 ジャンはオリンピア王国という言葉に反応した。

「どうしたのよ急に。オリンピア王国がどうかしたの?」
「このあいだ剣聖サンドウの話をしただろ? あの人が剣術指南をしてんだよ、オリンピア王国で」

 オリンピア王国は強力な軍隊を保有する軍事国家だった。しかし、先の大戦でほとんどの局地戦に勝利したにもかかわらず、旧アナヴァン帝国と同盟関係を結んでいたために敗戦国となってしまった。戦後、クーラン帝国と結んだ講和で軍縮と引き換えに領土と独立を維持することを了承し、わずかに弱体化したものの、軍事費の削減で浮いた予算を経済発展と国民の修練に回したおかげで、その後十年足らずで再び強国のひとつとして名を轟かせることとなった。

 さらに軍部が弱体化したといっても兵隊や軍人の数を減らされただけで、軍人の練度の高さはフェーブルなどとは比べものにならない。オリンピア王国は現在でも国家の安全保障としては申し分ないレベルの軍隊を保持している。

「でもオリンピア王国って言ったら東の大陸からさらに海を渡らなきゃ行けないじゃない」
「そりゃあれだ、まず東の大陸にわたって、それからいろいろやって、とにかくもう一回海を渡ればいいだろ?」
「相変わらず漠然とした計画ね。そんな簡単にいったら苦労しないわよ」
「う……」

 シェリーに軽くあしらわれたジャンは一気にトーンダウンしてしまった。そこでニコラがフォローを入れる。

「とりあえず東の大陸に行くかどうかも決まってないし、まだ先の話だと思うけど、一応プランのひとつとしてとっておけばいいんじゃないかな?」
「そ、そうだよな! さすがニコラ、いいこと言うぜ!」
「ったくもう、調子いいんだから」

 とりあえずオリンピア王国に立ち寄る計画は保留という形で残すことに決まった。
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