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第二章 ギルドの依頼

第百十四話 二つの決着

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 シルヴァン師範はのびているベルナールに近付くと、彼の足首を掴んで足裏のツボか何かを押さえた。

「……いっっった! 痛いっ! 痛いっって!」

 ベルナールがもがきだしたので、師範は彼の足を解放した。

「どうです? 目は覚めましたか?」
「いたた。……あれ? 師範。どうしたんスか? ……てゆーか鼻痛っ! ……鼻血出てるし」

 ベルナールは鼻の激痛に思わず手を振れ、手に付いた血を見て状況を把握した。

「これは完全に折れてますねぇ。いやはや、大した腕力です」
「師範、もしかして俺、あいつに負けたんスか?」
「そうですよ。いい負けっぷりでした」

 師範はにっこりと笑い、ベルナールはすっかり肩を落とした。

「おーい、目が覚めたんならとりあえず礼しようぜ。待ちくたびれたぜ」

 マットの中央に立つジャンがベルナールに向かって言った。打ち負かしてスッキリしたのか、もうジャンの表情に苛立ちの色は見えなかった。そしてベルナールも、鼻に残る痛みからジャンのことを認めざるを得なかった。

「行ってきなさい」

 師範はベルナールを立たせ、ジャンの方へ歩かせた。

「では互いに向き合って……礼!」
「「ありがとうございました!」」

 顔を上げたジャンはすっかりいつもの邪念のない顔に戻っていた。ベルナールもジャンの腕力と度量を前にして、これは完敗だと照れ笑いをした。

 二人が戻ると、シェリーはジャンに、ブリジットはベルナールに駆け寄った。

「ほんっっと、心配したんだからね!」

 シェリーはいつものように苦言を呈した。

「わりぃわりぃ。なんか引き下がれなくなっちまってよ」
「もう、しょうがないんだから!」

 その脇では、ブリジットがベルナールの顔に付いた血の跡をティシューで丁寧に拭き取っていた。

「大丈夫?」
「痛っ! 大丈夫じゃねーよ。たぶん骨折れてる」
「だめだよ、いきなり人に喧嘩売ったりしちゃ」
「わかってんよ。……いや、ちょっと調子に乗ってたのは認める」

 ベルナールはがらにもなくちょっと弱気になっていた。

「昔っからそうだったもんね。もの覚えがよくって、それですぐ調子に乗って、先輩たちに目をつけられて」
「よせよ、みんながいる前で」

 周囲の者はみな、二人の様子を見ていろいろと察した。

「それじゃあエリック、帰る準備するわよ」
「そうだな」

 カティアとエリックは更衣室の方へ向かった。

「ジャンさん、今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。試合で疲れたでしょうから、奥で小菓子でも振る舞いましょう」

 シルヴァン師範はジャンを道場裏に案内しようとした。

「あ、どうも。おい、おまえも……」

 ジャンはそう言ってベルナールに声をかけようとした。するとシェリーが彼の背中を強かに叩いた。

「なんだよ、いきなり」
「ほんと、あんたってバカね」
「はぁ? 意味わかんねぇよ」
「いいからいいから。師範がおもてなししてくれるんだから、ご厚意に甘えなさい」
「ちょ、押すなって」

 こうしてベルナールとブリジットを残し、他の者はいったんその場を離れた。

 ベルナールの顔をまっすぐ見つめるブリジット。目をそらすベルナール。本当は彼もブリジットの気持ちに薄々気付いていたし、自分自身もやぶさかではなかった。しかし幼馴染ということもあって、ずっと素直になれなかった。

「こっち見て!」
「あ……うん」

 ベルナールは観念してブリジットの方を見た。

「わたし、シェリーちゃんほどかわいくないけど、ベルナールのことを好きな気持ちなら誰にも負けないんだから」
「……うん」
「わたしの、彼氏になってよ」
「……わかったよ」

 照れくさそうに了承するベルナール。言質げんちをとったブリジットは彼の首に手をかけ、少し背伸びをして唇を重ねた。棒立ちしていたベルナールも優しく彼女を抱き返した。
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