114 / 283
第二章 ギルドの依頼
第百十四話 二つの決着
しおりを挟む
シルヴァン師範はのびているベルナールに近付くと、彼の足首を掴んで足裏のツボか何かを押さえた。
「……いっっった! 痛いっ! 痛いっって!」
ベルナールがもがきだしたので、師範は彼の足を解放した。
「どうです? 目は覚めましたか?」
「いたた。……あれ? 師範。どうしたんスか? ……てゆーか鼻痛っ! ……鼻血出てるし」
ベルナールは鼻の激痛に思わず手を振れ、手に付いた血を見て状況を把握した。
「これは完全に折れてますねぇ。いやはや、大した腕力です」
「師範、もしかして俺、あいつに負けたんスか?」
「そうですよ。いい負けっぷりでした」
師範はにっこりと笑い、ベルナールはすっかり肩を落とした。
「おーい、目が覚めたんならとりあえず礼しようぜ。待ちくたびれたぜ」
マットの中央に立つジャンがベルナールに向かって言った。打ち負かしてスッキリしたのか、もうジャンの表情に苛立ちの色は見えなかった。そしてベルナールも、鼻に残る痛みからジャンのことを認めざるを得なかった。
「行ってきなさい」
師範はベルナールを立たせ、ジャンの方へ歩かせた。
「では互いに向き合って……礼!」
「「ありがとうございました!」」
顔を上げたジャンはすっかりいつもの邪念のない顔に戻っていた。ベルナールもジャンの腕力と度量を前にして、これは完敗だと照れ笑いをした。
二人が戻ると、シェリーはジャンに、ブリジットはベルナールに駆け寄った。
「ほんっっと、心配したんだからね!」
シェリーはいつものように苦言を呈した。
「わりぃわりぃ。なんか引き下がれなくなっちまってよ」
「もう、しょうがないんだから!」
その脇では、ブリジットがベルナールの顔に付いた血の跡をティシューで丁寧に拭き取っていた。
「大丈夫?」
「痛っ! 大丈夫じゃねーよ。たぶん骨折れてる」
「だめだよ、いきなり人に喧嘩売ったりしちゃ」
「わかってんよ。……いや、ちょっと調子に乗ってたのは認める」
ベルナールはがらにもなくちょっと弱気になっていた。
「昔っからそうだったもんね。もの覚えがよくって、それですぐ調子に乗って、先輩たちに目をつけられて」
「よせよ、みんながいる前で」
周囲の者はみな、二人の様子を見ていろいろと察した。
「それじゃあエリック、帰る準備するわよ」
「そうだな」
カティアとエリックは更衣室の方へ向かった。
「ジャンさん、今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。試合で疲れたでしょうから、奥で小菓子でも振る舞いましょう」
シルヴァン師範はジャンを道場裏に案内しようとした。
「あ、どうも。おい、おまえも……」
ジャンはそう言ってベルナールに声をかけようとした。するとシェリーが彼の背中を強かに叩いた。
「なんだよ、いきなり」
「ほんと、あんたってバカね」
「はぁ? 意味わかんねぇよ」
「いいからいいから。師範がおもてなししてくれるんだから、ご厚意に甘えなさい」
「ちょ、押すなって」
こうしてベルナールとブリジットを残し、他の者はいったんその場を離れた。
ベルナールの顔をまっすぐ見つめるブリジット。目をそらすベルナール。本当は彼もブリジットの気持ちに薄々気付いていたし、自分自身もやぶさかではなかった。しかし幼馴染ということもあって、ずっと素直になれなかった。
「こっち見て!」
「あ……うん」
ベルナールは観念してブリジットの方を見た。
「わたし、シェリーちゃんほどかわいくないけど、ベルナールのことを好きな気持ちなら誰にも負けないんだから」
「……うん」
「わたしの、彼氏になってよ」
「……わかったよ」
照れくさそうに了承するベルナール。言質をとったブリジットは彼の首に手をかけ、少し背伸びをして唇を重ねた。棒立ちしていたベルナールも優しく彼女を抱き返した。
「……いっっった! 痛いっ! 痛いっって!」
ベルナールがもがきだしたので、師範は彼の足を解放した。
「どうです? 目は覚めましたか?」
「いたた。……あれ? 師範。どうしたんスか? ……てゆーか鼻痛っ! ……鼻血出てるし」
ベルナールは鼻の激痛に思わず手を振れ、手に付いた血を見て状況を把握した。
「これは完全に折れてますねぇ。いやはや、大した腕力です」
「師範、もしかして俺、あいつに負けたんスか?」
「そうですよ。いい負けっぷりでした」
師範はにっこりと笑い、ベルナールはすっかり肩を落とした。
「おーい、目が覚めたんならとりあえず礼しようぜ。待ちくたびれたぜ」
マットの中央に立つジャンがベルナールに向かって言った。打ち負かしてスッキリしたのか、もうジャンの表情に苛立ちの色は見えなかった。そしてベルナールも、鼻に残る痛みからジャンのことを認めざるを得なかった。
「行ってきなさい」
師範はベルナールを立たせ、ジャンの方へ歩かせた。
「では互いに向き合って……礼!」
「「ありがとうございました!」」
顔を上げたジャンはすっかりいつもの邪念のない顔に戻っていた。ベルナールもジャンの腕力と度量を前にして、これは完敗だと照れ笑いをした。
二人が戻ると、シェリーはジャンに、ブリジットはベルナールに駆け寄った。
「ほんっっと、心配したんだからね!」
シェリーはいつものように苦言を呈した。
「わりぃわりぃ。なんか引き下がれなくなっちまってよ」
「もう、しょうがないんだから!」
その脇では、ブリジットがベルナールの顔に付いた血の跡をティシューで丁寧に拭き取っていた。
「大丈夫?」
「痛っ! 大丈夫じゃねーよ。たぶん骨折れてる」
「だめだよ、いきなり人に喧嘩売ったりしちゃ」
「わかってんよ。……いや、ちょっと調子に乗ってたのは認める」
ベルナールはがらにもなくちょっと弱気になっていた。
「昔っからそうだったもんね。もの覚えがよくって、それですぐ調子に乗って、先輩たちに目をつけられて」
「よせよ、みんながいる前で」
周囲の者はみな、二人の様子を見ていろいろと察した。
「それじゃあエリック、帰る準備するわよ」
「そうだな」
カティアとエリックは更衣室の方へ向かった。
「ジャンさん、今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。試合で疲れたでしょうから、奥で小菓子でも振る舞いましょう」
シルヴァン師範はジャンを道場裏に案内しようとした。
「あ、どうも。おい、おまえも……」
ジャンはそう言ってベルナールに声をかけようとした。するとシェリーが彼の背中を強かに叩いた。
「なんだよ、いきなり」
「ほんと、あんたってバカね」
「はぁ? 意味わかんねぇよ」
「いいからいいから。師範がおもてなししてくれるんだから、ご厚意に甘えなさい」
「ちょ、押すなって」
こうしてベルナールとブリジットを残し、他の者はいったんその場を離れた。
ベルナールの顔をまっすぐ見つめるブリジット。目をそらすベルナール。本当は彼もブリジットの気持ちに薄々気付いていたし、自分自身もやぶさかではなかった。しかし幼馴染ということもあって、ずっと素直になれなかった。
「こっち見て!」
「あ……うん」
ベルナールは観念してブリジットの方を見た。
「わたし、シェリーちゃんほどかわいくないけど、ベルナールのことを好きな気持ちなら誰にも負けないんだから」
「……うん」
「わたしの、彼氏になってよ」
「……わかったよ」
照れくさそうに了承するベルナール。言質をとったブリジットは彼の首に手をかけ、少し背伸びをして唇を重ねた。棒立ちしていたベルナールも優しく彼女を抱き返した。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
孤高のぼっち王女に見いだされた平民のオレだが……クーデレで理不尽すぎ!?
佐々木直也
ファンタジー
【素直になれないクール系美少女はいかが?】
主人公を意識しているくせにクールを決め込むも、照れすぎて赤面したり、嫉妬でツンツンしたり……そんなクーデレ美少女な王女様を愛でながら、ボケとツッコミを楽しむ軽快ラブコメです!
しかも彼女は、最強で天才で、だからこそ、王女様だというのに貴族からも疎まれている孤高のぼっち。
なので国王(父親)も彼女の扱いに困り果て、「ちょっと外の世界を見てきなさい」と言い出す始末。
すると王女様は「もはや王族追放ですね。お世話になりました」という感じでクール全開です。
そうして……
そんな王女様と、単なる平民に過ぎない主人公は出会ってしまい……
知り合ってすぐ酒場に繰り出したかと思えば、ジョッキ半分で王女様は酔い潰れ、宿屋で主人公が彼女を介抱していたら「見ず知らずの男に手籠めにされた!」と勝手に勘違い。
なんとかその誤解を正してみれば、王女様の巧みな話術で、どういうわけか主人公が謝罪するハメに。親切心で介抱していたはずなのに。
それでも王女様は、なぜか主人公と行動を共にし続けた結果……高級旅館で一晩明かすことに!?
などなど、ぼっち王女のクーデレに主人公は翻弄されまくり。
果たして主人公は、クーデレぼっち王女をデレデレにすることが出来るのか!?
ぜひご一読くださいませ。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る
一ノ瀬一
ファンタジー
幼馴染とパーティを組んでいた魔法剣士コルネは領主の息子が入ってきたいざこざでパーティを抜ける。たまたま目に入ったチラシは憧れの冒険者ロンドが開く道場のもので、道場へ向かったコルネはそこで才能を開花させていく。
※毎日更新
小説家になろう、カクヨムでも同時連載中!
https://ncode.syosetu.com/n6654gw/
https://kakuyomu.jp/works/16816452219601856526
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる