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第二章 ギルドの依頼

第八十話 慈善事業

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「依頼というのはその申請書類にある通り、娘に関する有効な手がかりを見つけていただいて、その物的証拠を私に提供していただくというものです。もちろん娘を連れ戻すことができるのでしたらそれに越したことはありません。その場合はギルドに内緒でゴールドランクと同等の報酬をお支払いいたします」

 男の言葉からは、娘を取り戻すためならなりふり構ってはいられないという覚悟がうかがえた。とはいえジャンはこのような真面目な話が苦手で、ニコラの方をちらちら見て助け舟を求めるばかりだった。ニコラはそれを察し、彼の代わりに話を進めた。

「では、なにか手がかりが見つかり次第こちらへ伺います。ただ、ご期待に沿えられるかどうかは明言できませんが……」
「いえいえ、無理難題を言っていることは百も承知ですから、なければないでかまいません。実際二年ほど募集をかけ続けて、成果はひとつもありませんでしたから……」

 男は内心諦めかけているようにも見えた。それでもこうして依頼を出し続けているのは、どこかでまだ希望があると信じたいからだろう。三人はそれを感じ取っていた。

「あの……」

 そこで、それまで黙っていたシェリーが口を開いた。

「どうかしましたか?」
「ヒルダさん、きっと生きてると思います。だから……その……そんな気持ちにはなれないと思いますけど、元気出してください! あたしたち、がんばってヒルダさんのこと探し出しますから!」
「「……」」

 シェリーの唐突な訴えに一同は思わず目を丸くした。シェリーは自分が行方不明になったら母がどれだけ辛い思いをするかを想像して、つい気持ちが高ぶってしまったのだ。

「あ! ごめんなさい……。急に変なこと言って」
「いえ、いいんですよ。ありがとう。あなたの気持ちは伝わりました。では、よろしくお願いします」

 男の表情がほんの少しだけ和らいだ。シェリーの想いが伝わったのだろう。

 と、そこへ二階から誰かが降りてくる音がした。上から現れたのは写真にも写っていた彼の息子だった。息子はジャンたちを見るなりすぐに表情を険しくした。

「父さん、まだ姉さんのこと……。もういいだろ、済んだことなんだから。僕も母さんもあいつが戻ってくることなんか望んじゃいないんだ。なのになんで、いつまでもいつまでも……」

 その言動から、彼がヒルダを嫌っているのは明らかだった。

「ブライアン、おまえは下がっていなさい。おまえがどれだけヒルダのことを嫌っていようとも、私にとっては大切な娘なんだ」

 男はそれまでの優しげな表情から一転、はっきり眉間に皺を寄せ、息子ブライアンを退けようとした。しかしブライアンは引き下がらない。

「僕や母さんがあいつにどれだけ迷惑をかけられたと思ってるんだよ! 父さんだって、ずっと酷いことを言われ続けてきたじゃないか!」
「ブライアン! 客人の前だぞ! 口を慎め! ……すみません、お見苦しいところをお見せして」

 男はブライアンを静止しつつ、ジャンたちに向かって頭を垂れた。そして階段の半ばに立ち尽くすブライアンを無視するかのように話を続ける。

「依頼内容は先ほどお話しした通りです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「はい……。それでは、僕たちはこれで……」

 三人は手早く荷物をまとめ、空気を読んでそそくさとその場を離れた。家を出ると、中から激しい口論が聞こえてきた。二人とも興奮気味で、ところどころなにを言っているのか聞き取れなかった。

「複雑な家庭っつーのか? こういうの」

 ジャンは困った顔をしながらそう言った。

「そんなところだろうな。どうする?」
「どうするもこうするも、探すしかねぇだろ。依頼を受けちまった以上はよー」

 ジャンとニコラは面倒な依頼を受けたなと、ほんの少し後悔していた。もっとも、期限内に依頼を完了できなければ自動的に終了となるのだから、そこは気楽なものだった。しかしシェリーは違った。

「やっぱりあたし、ヒルダさんのこと探し出してあげたい。お父さんのためにも。それにヒルダさんだって、お父さんが必死になって探してくれてるって知ったらきっと変わると思う。だから、ね、がんばろうよ」

 ジャンもなんだかんだでシェリーが心根の優しい女の子だと理解していたので、頭をかきながらもその言葉を受け入れた。

「おまえがそう言うんなら、まあ、しゃーねーな。じぜんじぎょーっつーの? そういうのも悪くねぇかもな」
「そうだな。シェリーの言う通り、ヒルダさんが家族に酷いことをしてきたとしても、お父さんの気持ちが伝われば変わるかもしれない」
「ジャン、ニコラ……。ありがとう」

 二人はシェリーの気持ちを酌み、まじめにヒルダを探すことに決めた。とは言うものの手がかりはまったくない。三人はまず、他の依頼をこなしながら根気よく聞き込みをすることにした。
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