80 / 283
第二章 ギルドの依頼
第八十話 慈善事業
しおりを挟む
「依頼というのはその申請書類にある通り、娘に関する有効な手がかりを見つけていただいて、その物的証拠を私に提供していただくというものです。もちろん娘を連れ戻すことができるのでしたらそれに越したことはありません。その場合はギルドに内緒でゴールドランクと同等の報酬をお支払いいたします」
男の言葉からは、娘を取り戻すためならなりふり構ってはいられないという覚悟がうかがえた。とはいえジャンはこのような真面目な話が苦手で、ニコラの方をちらちら見て助け舟を求めるばかりだった。ニコラはそれを察し、彼の代わりに話を進めた。
「では、なにか手がかりが見つかり次第こちらへ伺います。ただ、ご期待に沿えられるかどうかは明言できませんが……」
「いえいえ、無理難題を言っていることは百も承知ですから、なければないでかまいません。実際二年ほど募集をかけ続けて、成果はひとつもありませんでしたから……」
男は内心諦めかけているようにも見えた。それでもこうして依頼を出し続けているのは、どこかでまだ希望があると信じたいからだろう。三人はそれを感じ取っていた。
「あの……」
そこで、それまで黙っていたシェリーが口を開いた。
「どうかしましたか?」
「ヒルダさん、きっと生きてると思います。だから……その……そんな気持ちにはなれないと思いますけど、元気出してください! あたしたち、がんばってヒルダさんのこと探し出しますから!」
「「……」」
シェリーの唐突な訴えに一同は思わず目を丸くした。シェリーは自分が行方不明になったら母がどれだけ辛い思いをするかを想像して、つい気持ちが高ぶってしまったのだ。
「あ! ごめんなさい……。急に変なこと言って」
「いえ、いいんですよ。ありがとう。あなたの気持ちは伝わりました。では、よろしくお願いします」
男の表情がほんの少しだけ和らいだ。シェリーの想いが伝わったのだろう。
と、そこへ二階から誰かが降りてくる音がした。上から現れたのは写真にも写っていた彼の息子だった。息子はジャンたちを見るなりすぐに表情を険しくした。
「父さん、まだ姉さんのこと……。もういいだろ、済んだことなんだから。僕も母さんもあいつが戻ってくることなんか望んじゃいないんだ。なのになんで、いつまでもいつまでも……」
その言動から、彼がヒルダを嫌っているのは明らかだった。
「ブライアン、おまえは下がっていなさい。おまえがどれだけヒルダのことを嫌っていようとも、私にとっては大切な娘なんだ」
男はそれまでの優しげな表情から一転、はっきり眉間に皺を寄せ、息子ブライアンを退けようとした。しかしブライアンは引き下がらない。
「僕や母さんがあいつにどれだけ迷惑をかけられたと思ってるんだよ! 父さんだって、ずっと酷いことを言われ続けてきたじゃないか!」
「ブライアン! 客人の前だぞ! 口を慎め! ……すみません、お見苦しいところをお見せして」
男はブライアンを静止しつつ、ジャンたちに向かって頭を垂れた。そして階段の半ばに立ち尽くすブライアンを無視するかのように話を続ける。
「依頼内容は先ほどお話しした通りです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「はい……。それでは、僕たちはこれで……」
三人は手早く荷物をまとめ、空気を読んでそそくさとその場を離れた。家を出ると、中から激しい口論が聞こえてきた。二人とも興奮気味で、ところどころなにを言っているのか聞き取れなかった。
「複雑な家庭っつーのか? こういうの」
ジャンは困った顔をしながらそう言った。
「そんなところだろうな。どうする?」
「どうするもこうするも、探すしかねぇだろ。依頼を受けちまった以上はよー」
ジャンとニコラは面倒な依頼を受けたなと、ほんの少し後悔していた。もっとも、期限内に依頼を完了できなければ自動的に終了となるのだから、そこは気楽なものだった。しかしシェリーは違った。
「やっぱりあたし、ヒルダさんのこと探し出してあげたい。お父さんのためにも。それにヒルダさんだって、お父さんが必死になって探してくれてるって知ったらきっと変わると思う。だから、ね、がんばろうよ」
ジャンもなんだかんだでシェリーが心根の優しい女の子だと理解していたので、頭をかきながらもその言葉を受け入れた。
「おまえがそう言うんなら、まあ、しゃーねーな。じぜんじぎょーっつーの? そういうのも悪くねぇかもな」
「そうだな。シェリーの言う通り、ヒルダさんが家族に酷いことをしてきたとしても、お父さんの気持ちが伝われば変わるかもしれない」
「ジャン、ニコラ……。ありがとう」
二人はシェリーの気持ちを酌み、まじめにヒルダを探すことに決めた。とは言うものの手がかりはまったくない。三人はまず、他の依頼をこなしながら根気よく聞き込みをすることにした。
男の言葉からは、娘を取り戻すためならなりふり構ってはいられないという覚悟がうかがえた。とはいえジャンはこのような真面目な話が苦手で、ニコラの方をちらちら見て助け舟を求めるばかりだった。ニコラはそれを察し、彼の代わりに話を進めた。
「では、なにか手がかりが見つかり次第こちらへ伺います。ただ、ご期待に沿えられるかどうかは明言できませんが……」
「いえいえ、無理難題を言っていることは百も承知ですから、なければないでかまいません。実際二年ほど募集をかけ続けて、成果はひとつもありませんでしたから……」
男は内心諦めかけているようにも見えた。それでもこうして依頼を出し続けているのは、どこかでまだ希望があると信じたいからだろう。三人はそれを感じ取っていた。
「あの……」
そこで、それまで黙っていたシェリーが口を開いた。
「どうかしましたか?」
「ヒルダさん、きっと生きてると思います。だから……その……そんな気持ちにはなれないと思いますけど、元気出してください! あたしたち、がんばってヒルダさんのこと探し出しますから!」
「「……」」
シェリーの唐突な訴えに一同は思わず目を丸くした。シェリーは自分が行方不明になったら母がどれだけ辛い思いをするかを想像して、つい気持ちが高ぶってしまったのだ。
「あ! ごめんなさい……。急に変なこと言って」
「いえ、いいんですよ。ありがとう。あなたの気持ちは伝わりました。では、よろしくお願いします」
男の表情がほんの少しだけ和らいだ。シェリーの想いが伝わったのだろう。
と、そこへ二階から誰かが降りてくる音がした。上から現れたのは写真にも写っていた彼の息子だった。息子はジャンたちを見るなりすぐに表情を険しくした。
「父さん、まだ姉さんのこと……。もういいだろ、済んだことなんだから。僕も母さんもあいつが戻ってくることなんか望んじゃいないんだ。なのになんで、いつまでもいつまでも……」
その言動から、彼がヒルダを嫌っているのは明らかだった。
「ブライアン、おまえは下がっていなさい。おまえがどれだけヒルダのことを嫌っていようとも、私にとっては大切な娘なんだ」
男はそれまでの優しげな表情から一転、はっきり眉間に皺を寄せ、息子ブライアンを退けようとした。しかしブライアンは引き下がらない。
「僕や母さんがあいつにどれだけ迷惑をかけられたと思ってるんだよ! 父さんだって、ずっと酷いことを言われ続けてきたじゃないか!」
「ブライアン! 客人の前だぞ! 口を慎め! ……すみません、お見苦しいところをお見せして」
男はブライアンを静止しつつ、ジャンたちに向かって頭を垂れた。そして階段の半ばに立ち尽くすブライアンを無視するかのように話を続ける。
「依頼内容は先ほどお話しした通りです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「はい……。それでは、僕たちはこれで……」
三人は手早く荷物をまとめ、空気を読んでそそくさとその場を離れた。家を出ると、中から激しい口論が聞こえてきた。二人とも興奮気味で、ところどころなにを言っているのか聞き取れなかった。
「複雑な家庭っつーのか? こういうの」
ジャンは困った顔をしながらそう言った。
「そんなところだろうな。どうする?」
「どうするもこうするも、探すしかねぇだろ。依頼を受けちまった以上はよー」
ジャンとニコラは面倒な依頼を受けたなと、ほんの少し後悔していた。もっとも、期限内に依頼を完了できなければ自動的に終了となるのだから、そこは気楽なものだった。しかしシェリーは違った。
「やっぱりあたし、ヒルダさんのこと探し出してあげたい。お父さんのためにも。それにヒルダさんだって、お父さんが必死になって探してくれてるって知ったらきっと変わると思う。だから、ね、がんばろうよ」
ジャンもなんだかんだでシェリーが心根の優しい女の子だと理解していたので、頭をかきながらもその言葉を受け入れた。
「おまえがそう言うんなら、まあ、しゃーねーな。じぜんじぎょーっつーの? そういうのも悪くねぇかもな」
「そうだな。シェリーの言う通り、ヒルダさんが家族に酷いことをしてきたとしても、お父さんの気持ちが伝われば変わるかもしれない」
「ジャン、ニコラ……。ありがとう」
二人はシェリーの気持ちを酌み、まじめにヒルダを探すことに決めた。とは言うものの手がかりはまったくない。三人はまず、他の依頼をこなしながら根気よく聞き込みをすることにした。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る
一ノ瀬一
ファンタジー
幼馴染とパーティを組んでいた魔法剣士コルネは領主の息子が入ってきたいざこざでパーティを抜ける。たまたま目に入ったチラシは憧れの冒険者ロンドが開く道場のもので、道場へ向かったコルネはそこで才能を開花させていく。
※毎日更新
小説家になろう、カクヨムでも同時連載中!
https://ncode.syosetu.com/n6654gw/
https://kakuyomu.jp/works/16816452219601856526
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる