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第一章 盗賊団「鋼鉄のならず者」
第六十四話 仲間と信頼
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シェリーとクロードがそれぞれロナルドとセオドアを撃退したころ、ジャンたち三人は公園で見張りを続けていた。仮眠をとるジャンとニコラを脇に、ラザールは煙草をふかしながら時間を潰していた。
「ん……んん……」
「お目覚めかい?」
気絶していた方の男がちょうど目覚めたようだ。
「……え? え? う、動けない……」
「捕まったんだよ! こいつらに!」
状況が飲み込めていない彼に、意識のある方の男が言った。
「捕まった? ……あ……」
男はラザールの顔を見上げて初めて、自分があっという間に気絶させられたことを悟った。
「俺の顔、覚えてる?」
「あ……あ……」
男はまだ困惑しているのか、あしか言葉が出てこなかった。
「そういうわけだから、君たちの身柄は明日フェーブルの役人に引き渡させてもらうよ」
「ああー……」
男は酷く落胆した様子で首を垂れた。ラザールはそれを特に気にすることもなく、煙草の煙をくゆらせた。
「寝ないのかい? 気持ちはわかるけど、寝ないと身体に悪いよ」
「余計なお世話だ! だいいち、おまえに俺たちのなにがわかるっつーんだよ!」
威勢のいいほうの男はやや大きな声で食って掛かった。
「そんな大声上げたら俺の仲間が起きるだろ。静かにしろよ」
ラザールは少し語気を強めて男の声を制した。そしてもう一口煙草を吸うと、静かに語り始めた。
「この二人はともかく、俺はわかるよ」
「あん?」
「俺も昔、盗みを働いて日銭を稼いでいた。金属強盗……君たちと同じさ。最後に標的にしたのがこのミーヌだった」
男は黙ってラザールの話に耳を傾けた。
「ケチなシノギでも一人で全部やってたおかげでそれなりにいい金にはなったよ。ただ、それで気分が満たされたことは一度もなかった。金で買えるのは金で買えるものだけだ。信頼は買えない」
「信頼……信頼なら俺たちにだってある!」
男は真剣なまなざしでそう訴えかけた。
「だろうな。だからやめられない」
ラザールはまた煙草をくわえ、大きなため息とともに煙を吐き出した。
「俺は独りだったから堅気に戻れた。チンピラやってたときは信頼できる仲間なんて一人もいなかったからな。未練なんて欠片もなかった。そういう意味じゃ、確かに君たちのことはわからない。チンピラ同士でも、信頼できる仲間がいるってのはいいものなんだろうな」
「……」
男は黙り、ラザールはタバコの先を近くの石段にこすりつけて火を消した。辺りに沈黙が流れ、微かに聴こえる虫の声以外なにも聴こえない。
「……君の言う通り、信頼関係は十分みたいだな」
「え?」
ラザールは火を消したばかりの煙草を左手の方向、少し遠くへ投げ捨てた。すると煙草は空中で破裂音とともに粉々に砕け散ってしまった。
「あんた、こいつらの兄貴分かい?」
「ああ、そうだ」
ガス灯の薄明りの中から現れたのは、ラザールと同世代と見られる男だった。手には使い込まれた鞭が握られている。そしてその後ろから、ぞろぞろと部下と思しき男たちが現れた。
「お、お頭……」
縛り付けられた男はひと言、そう呟いた。
「なに!? じゃあこいつが……」
「そうだ。俺がこの鋼鉄のならず者の頭を張ってるアレックス・タイラーだ」
「へぇ、海老で鯛が釣れた……ってやつかな」
思わぬ大物の登場に、ラザールの頬は薄っすらと汗ばんだ。
「ん……んん……」
「お目覚めかい?」
気絶していた方の男がちょうど目覚めたようだ。
「……え? え? う、動けない……」
「捕まったんだよ! こいつらに!」
状況が飲み込めていない彼に、意識のある方の男が言った。
「捕まった? ……あ……」
男はラザールの顔を見上げて初めて、自分があっという間に気絶させられたことを悟った。
「俺の顔、覚えてる?」
「あ……あ……」
男はまだ困惑しているのか、あしか言葉が出てこなかった。
「そういうわけだから、君たちの身柄は明日フェーブルの役人に引き渡させてもらうよ」
「ああー……」
男は酷く落胆した様子で首を垂れた。ラザールはそれを特に気にすることもなく、煙草の煙をくゆらせた。
「寝ないのかい? 気持ちはわかるけど、寝ないと身体に悪いよ」
「余計なお世話だ! だいいち、おまえに俺たちのなにがわかるっつーんだよ!」
威勢のいいほうの男はやや大きな声で食って掛かった。
「そんな大声上げたら俺の仲間が起きるだろ。静かにしろよ」
ラザールは少し語気を強めて男の声を制した。そしてもう一口煙草を吸うと、静かに語り始めた。
「この二人はともかく、俺はわかるよ」
「あん?」
「俺も昔、盗みを働いて日銭を稼いでいた。金属強盗……君たちと同じさ。最後に標的にしたのがこのミーヌだった」
男は黙ってラザールの話に耳を傾けた。
「ケチなシノギでも一人で全部やってたおかげでそれなりにいい金にはなったよ。ただ、それで気分が満たされたことは一度もなかった。金で買えるのは金で買えるものだけだ。信頼は買えない」
「信頼……信頼なら俺たちにだってある!」
男は真剣なまなざしでそう訴えかけた。
「だろうな。だからやめられない」
ラザールはまた煙草をくわえ、大きなため息とともに煙を吐き出した。
「俺は独りだったから堅気に戻れた。チンピラやってたときは信頼できる仲間なんて一人もいなかったからな。未練なんて欠片もなかった。そういう意味じゃ、確かに君たちのことはわからない。チンピラ同士でも、信頼できる仲間がいるってのはいいものなんだろうな」
「……」
男は黙り、ラザールはタバコの先を近くの石段にこすりつけて火を消した。辺りに沈黙が流れ、微かに聴こえる虫の声以外なにも聴こえない。
「……君の言う通り、信頼関係は十分みたいだな」
「え?」
ラザールは火を消したばかりの煙草を左手の方向、少し遠くへ投げ捨てた。すると煙草は空中で破裂音とともに粉々に砕け散ってしまった。
「あんた、こいつらの兄貴分かい?」
「ああ、そうだ」
ガス灯の薄明りの中から現れたのは、ラザールと同世代と見られる男だった。手には使い込まれた鞭が握られている。そしてその後ろから、ぞろぞろと部下と思しき男たちが現れた。
「お、お頭……」
縛り付けられた男はひと言、そう呟いた。
「なに!? じゃあこいつが……」
「そうだ。俺がこの鋼鉄のならず者の頭を張ってるアレックス・タイラーだ」
「へぇ、海老で鯛が釣れた……ってやつかな」
思わぬ大物の登場に、ラザールの頬は薄っすらと汗ばんだ。
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