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第一章 盗賊団「鋼鉄のならず者」

第四十四話 窃盗被害

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 その夜ジャンたちは休憩室で寝泊まりすることになった。

「粗末な布団しかなくてすまないな。これで我慢してくれ」
「うん、ありがとう、おっちゃん」

 クロードは従業員が泊りがけで仕事をする際に使っている布団を三人に貸した。その布団は見てくれこそ使い込まれた感があるものの寝心地は悪くなく、特に匂いや汚れがあるわけでもなかった。安宿の寝心地の悪いベッドよりはずっとよく、三人は違和感なく寝付くことができた。

 そして夜も更けてきたころ、尿意を催したニコラが目を覚ました。

(うーん。さっき寝る前に喉が渇いて水を飲んだせいかな)

 かわやは事務所の外にある。ニコラはジャンとシェリーを起こさないよう注意しながら外へ出た。ミーヌは労働者の町だが、ところどころに遅くまで営業しているバーもある。ちょうど通りを挟んで向かい側にあるバーも、まだ灯りが灯っていた。ニコラはバーから漏れ出す灯りを頼りに、厠の方まで歩いて行った。

 滞りなく用をたして厠から出ると、彼の耳になにやら不穏な声が聞こえた。

「……手はず通り……をかっぱらったら……するぞ。いいな?」
「了解」

 ニコラは昼間の窃盗団の話を思い出し警戒した。魔術師は詠唱の時間稼ぎをしてくれる仲間がいなければまともに戦えない。彼はそれを重々承知していたため、声の主に気付かれずにジャンたちを呼びに行こうと考えていた。そして辺りを慎重に見まわし、物音をたてないよう注意を払いながら休憩室に戻ろうとした、そのときだった。

「周りを見回して、どこへ行くつもりだ?」
「え!?」

 彼の背後にひとりの男が立っていた。バーの明かりが逆光になって顔はよく見えないが、雰囲気からして二十代半ばから後半ぐらいといった雰囲気だ。ニコラは瞬時に身構えた。

「その表情。俺たちが誰だか知っているな?」
「くっ……」
「悪いがちょっとお寝んねしててもらうぞ」

 そう言うと男は一瞬で姿を消した。次の瞬間、ニコラは頸部けいぶに重い打撃を受け、その場で気絶してしまった。

 そして夜が明けた。

「……大丈夫か!? おい! ニコラ!」
「ん……んー。……あ、ジャン。それにみんなも」

 ニコラはジャンの声で目を覚ました。周りにはシェリーとクロードもいた。

「よかった、目を覚まして。ほんと、心配したんだからね」
「兄ちゃん大丈夫か? まったく酷い目にあったな」

 彼は一瞬頭がぼうっとして状況が把握できなかったが、すぐに昨晩のことを思い出した。

「あ! そうだ! クロードさん! 窃盗団がここの資源を……」

 彼が言い切るまでもなく、みんな状況を把握しているという顔をした。

「さっき見て来たよ。まったく容赦ねぇな。あいつらうちの大切な売り物、すべてかっぱらって行きやがった。白昼堂々が奴らのやり方だと油断したのがバカだった」

 クロードはやるせない表情で言った。

「ま、済んじまったことはどうしようもない。とりあえず従業員が出社して来たら俺から状況を説明する。君らは俺の家でゆっくりしていてくれ」

 彼はこの件はあくまで自分たちの問題ととらえているようだった。しかしジャンはそうは考えなかった。

「なあ、おっちゃん。俺たちもその場にいちゃだめかな?」
「だめってこたねぇが……これはうちの問題だぜ?」
「おっちゃんたちだけの問題じゃないよ。ニコラがやられてんだから」

 目立った外傷もなく気絶させられただけとはいえ、竹馬ちくばの友を襲撃されて黙っていられるほど、ジャンはお人よしではなかった。クロードも彼の眼を見てその気持ちを汲んだ。

「しょうがねぇな。だがよ、これはこの国の行政に任せる問題だぜ? 勝手に下手な行動はするなよ」
「わかったぜ」

 ジャンは口では合意したが、昨日の話でフェーブル王国の警備隊が役に立たないだろうことも予想していた。クロードも本心ではそうだ。フェーブルの警備隊に任せるより、町の力自慢を集めて対処した方が確実だと思っていた。しかし所帯を持つとどうしても守りに入らざるを得ない。クロードもジャンと同様にもどかしさを押し殺していた。
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