亡国の系譜と神の婚約者

仁藤欣太郎

文字の大きさ
上 下
24 / 283
第一章 盗賊団「鋼鉄のならず者」

第二十四話 効果的な尋問

しおりを挟む
 男が店を出たとき、その手にはなにやらものが詰まった麻袋があった。男はそれを持って北の門に括りつけておいた馬の方へ歩いて行った。

「ニコラ、まずいぜ。馬に乗られたら追い付けなくなる。ここは尾行なんてしてられねぇ」
「あ! ジャン! ちょっと!」

 男の様子を見てすぐにジャンは駆けだした。ニコラもその後ろに従った。

「ったく、しょうがないわね……」

 シェリーもその後を追いかけた。そのまま三人は男に向かって走って行ったが、ある程度近付いたところで男はジャンたちの存在に気付いた。男は近付いてくる三人の足音を聞きつけて振り返ると、状況を察してすぐさま馬の方へ全力疾走しだした。

「くそ、これじゃあ追い付けねぇ!」

 軽装防具とはいえ鎖帷子と鎧を着たジャンの足では、短距離で男に追い付くのは難しい。無論、魔術師であるニコラにとってもそれは困難だった。

「情けないわね」

 と、その後ろから追いかけてきたシェリーはあっさり二人を抜き去り、数秒後には男を射程内に捉えた。

「待ちなさいよっ!」

 彼女は走る男の腕をしっかりと捕まえ、その場に引き留めることに成功した。

「おお! さっすがシェリー!」
「あったりまえよ! あたしにかかればこれぐらい朝飯前よ!」

 得意満面のシェリー。彼女のおかげで三人はなんとか男を捕らえることに成功した。

「くっ! なんなんだおまえらは!? 俺になんの用があるってんだ!?」
「大した用じゃねぇよ。ちょっとその中身を確認したいだけだ」

 ジャンがそう言うと、男はすぐさま目を逸らした。

「そんなのおまえらに関係ないだろ!」
「そうでもないんだよな。てゆーかよ、中身は北の森で採れるキノコだろ?」
「う……」

 男の顔は袋の中身がなにかを雄弁に物語っていた。もう聞くまでもない。ジャンたちは袋の中身が例のキノコだと確信した。

「聞かせてくれませんか? なんのために価格の高騰したキノコを大量に買い込んだのか? できれば、この件に関してあなたが知っているほかのことについても」

 ニコラは尋問を始めた。

「俺はただの行商だ! 俺は中抜きしてるだけなんだ!」
「本当かよ? なんか隠してるんじゃねぇのか?」
「いや、ジャン。この人に嘘をついている様子はない。ただ……あなた、やっぱりただ中抜きしているだけじゃないですよね? キノコを買い入れる以前に、この件に関与したことはないですか?」
「そ、それは……」

 男が隠しごとをしているのはほとんど明らかだった。だが人目がないわけではないこの場所で手荒なまねはまずい。さすがのジャンもそれぐらいは理解していた。二人が対応に困っていると、痺れを切らしたシェリーが口を挟んだ。

「じれったいわね。あたしが聞き出してやるわよ」
「え?」

 彼女は左手で男の左手首をしっかりと握り、男の手のひらを右手でつまむようにして持った。

「うん、あったあった。ちょっと痛いわよ」
「え? あっ! ちょっ!! 痛い痛い痛い!!」
「大丈夫よ、ツボを押してるだけだから。終わったらむしろ気分よくなるわよ。終わったらだけど」
「痛い! 悪かった! 言うよ! 言うからやめてくれ!」
「うん、素直でよろしい」

 男はシェリーの指圧に悶え、ついに折れてしまった。

「かーっ、北の森の魔獣なんかよりシェリーのほうがよっぽど怖いぜ」
「空耳かしら? なにかいますっごく不愉快な発言が聞こえた気がしたんだけど」
「すみません、ごめんなさい」

 ジャンはまた迂闊なことを口走り、そしていつものようにすぐさま謝った。

「まあいいわ。それじゃあおじさま、あなたの知ってること、全部教えてちょうだい」
「しかたねぇ、話すよ」

 男は渋々ながら事の顛末について話しだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...