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第一章 盗賊団「鋼鉄のならず者」
第十七話 母はお見通し
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「シェリー、おまえなにしてんの?」
ジャンは状況がまったく飲み込めていなかった。ニコラも同じだ。ただ突っ立っているしかない。
「だーかーら、あんたたちを待ってたって言ってるでしょ? あんたたち二人じゃいろいろと不安だから、強くてカッコかわいいこのシェリーさんが付いてってあげるって言ってんのよ」
「はぁ? 言ってる意味がわかんねぇよ。だいいちおまえ、王様の許可を得てないだろ?」
ジャンは上から目線のシェリーに当然のごとく反論した。しかしシェリーは得意げに笑みを浮かべる。
「許可ならとったわよ。昨日あんたたちが王様に会ったあとにね」
シェリーは事実、ある方法で王様から旅の許可を得ていたのだ。
それは昨日、ジャンとニコラがシェリーの家を出た後に遡る。ジャンに図星を突かれ悶々とした気分でベッドにうつ伏せになるシェリーに、彼女の母があるものを持ってきた。
「シェリー、ちょっといいかい?」
「なにー? いまひとりでいたい気分なんだけど……」
「あんたの気分を良くするものさ。ちょっとでいいから、こっち向いて」
母が食い下がるのでシェリーはしぶしぶ振り返った。母が手に持っていたのは特別なものでもなんでもない、彼女がリセの格闘術の授業で使っていた道着だった。その道着は母が作ったもので、シェリーはそれを気に入ってずっと使っていた。
「あたしの道着がどうかしたの?」
「行ってきな、ジャンくんたちと一緒に」
「はぁ!? なんであたしがあいつと一緒に行かなくちゃいけないのよ!?」
シェリーは母の意外な言葉を聞いて思わず跳び起きた。
「あんたリセに通ってるとき言ってただろ? せっかく強くなったんだから、どこかで腕試しがしてみたいって」
「それはなんとなく言っただけで、別に……」
「それにあんた小さいころ、イール島の外へ行ってみたいってよくごねてただろ?」
「そ、そんなの、子どものころの話じゃん……。母さん、急にどうしたの?」
しどろもどろになりながら否定するシェリーだったが、母はすべてお見通しだった。
「あたしはね、ずっとあんたのこと、女手ひとつで育てて来たんだよ? あんたの考えることなんかお見通しさね」
「母さん……」
「あたしのことなら心配いらないよ。あんたが子供のころはひとりでこの店を回してたんだから。それにうちはジェラールさんとことも付き合いが長いし、昔から助け合ってやってきたんだから大丈夫さ」
母はそう言って、道着をシェリーに手渡した。
「行ってきな、シェリー。これからはあたしに気を遣わないで、あんたのやりたいようにやんな」
「母さん……ありがとう」
それからすぐにシェリーは道着に着替え、ジャンたちの後を追った。
彼女はジャンに気付かれないようにこっそりイール城まで来た。そしてジャンとニコラが城門を出たのを確認すると、門番のところへ駆け寄った。
「すみませーん。ちょっと本殿に用があって来たんですけど」
「おお、シェリーちゃんじゃないか。元気してたか?」
シェリーは容姿端麗でジャン以外の人に対しては人当たりも良く、またイール城の格闘大会では大人に混じって出場し、優勝をかっさらうほどの腕前も備えていた。そのためイール城の衛兵とも仲が良く、城下町の少女たちからは憧れの的として尊敬されていた。
「はい、おかげさまで」
「どうしたんだ、今日は? 道着なんか着て」
「今日は親衛隊のみなさんに稽古をつけてもらう約束があって来ました」
もちろんこれは嘘だった。しかしシェリーの人望は厚い。
「うーん、上からは特になにも言われてないけど……ま、シェリーちゃんならいいか。通んな。顔パスだ」
「ありがとうございます!」(門番さん、嘘ついてごめんなさい!)
こうしてシェリーは城内に入り、同様の方法で本殿の中にも入れてもらった。
ジャンは状況がまったく飲み込めていなかった。ニコラも同じだ。ただ突っ立っているしかない。
「だーかーら、あんたたちを待ってたって言ってるでしょ? あんたたち二人じゃいろいろと不安だから、強くてカッコかわいいこのシェリーさんが付いてってあげるって言ってんのよ」
「はぁ? 言ってる意味がわかんねぇよ。だいいちおまえ、王様の許可を得てないだろ?」
ジャンは上から目線のシェリーに当然のごとく反論した。しかしシェリーは得意げに笑みを浮かべる。
「許可ならとったわよ。昨日あんたたちが王様に会ったあとにね」
シェリーは事実、ある方法で王様から旅の許可を得ていたのだ。
それは昨日、ジャンとニコラがシェリーの家を出た後に遡る。ジャンに図星を突かれ悶々とした気分でベッドにうつ伏せになるシェリーに、彼女の母があるものを持ってきた。
「シェリー、ちょっといいかい?」
「なにー? いまひとりでいたい気分なんだけど……」
「あんたの気分を良くするものさ。ちょっとでいいから、こっち向いて」
母が食い下がるのでシェリーはしぶしぶ振り返った。母が手に持っていたのは特別なものでもなんでもない、彼女がリセの格闘術の授業で使っていた道着だった。その道着は母が作ったもので、シェリーはそれを気に入ってずっと使っていた。
「あたしの道着がどうかしたの?」
「行ってきな、ジャンくんたちと一緒に」
「はぁ!? なんであたしがあいつと一緒に行かなくちゃいけないのよ!?」
シェリーは母の意外な言葉を聞いて思わず跳び起きた。
「あんたリセに通ってるとき言ってただろ? せっかく強くなったんだから、どこかで腕試しがしてみたいって」
「それはなんとなく言っただけで、別に……」
「それにあんた小さいころ、イール島の外へ行ってみたいってよくごねてただろ?」
「そ、そんなの、子どものころの話じゃん……。母さん、急にどうしたの?」
しどろもどろになりながら否定するシェリーだったが、母はすべてお見通しだった。
「あたしはね、ずっとあんたのこと、女手ひとつで育てて来たんだよ? あんたの考えることなんかお見通しさね」
「母さん……」
「あたしのことなら心配いらないよ。あんたが子供のころはひとりでこの店を回してたんだから。それにうちはジェラールさんとことも付き合いが長いし、昔から助け合ってやってきたんだから大丈夫さ」
母はそう言って、道着をシェリーに手渡した。
「行ってきな、シェリー。これからはあたしに気を遣わないで、あんたのやりたいようにやんな」
「母さん……ありがとう」
それからすぐにシェリーは道着に着替え、ジャンたちの後を追った。
彼女はジャンに気付かれないようにこっそりイール城まで来た。そしてジャンとニコラが城門を出たのを確認すると、門番のところへ駆け寄った。
「すみませーん。ちょっと本殿に用があって来たんですけど」
「おお、シェリーちゃんじゃないか。元気してたか?」
シェリーは容姿端麗でジャン以外の人に対しては人当たりも良く、またイール城の格闘大会では大人に混じって出場し、優勝をかっさらうほどの腕前も備えていた。そのためイール城の衛兵とも仲が良く、城下町の少女たちからは憧れの的として尊敬されていた。
「はい、おかげさまで」
「どうしたんだ、今日は? 道着なんか着て」
「今日は親衛隊のみなさんに稽古をつけてもらう約束があって来ました」
もちろんこれは嘘だった。しかしシェリーの人望は厚い。
「うーん、上からは特になにも言われてないけど……ま、シェリーちゃんならいいか。通んな。顔パスだ」
「ありがとうございます!」(門番さん、嘘ついてごめんなさい!)
こうしてシェリーは城内に入り、同様の方法で本殿の中にも入れてもらった。
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