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第六章 父祖の土地へ

第二百五十四話 シェリーの複雑な気持ち

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 夕食が終わり、ジャンたち三人は国王の寝室の前で解散することになった。

「国王陛下、王妃陛下、本日はお招きいただきありがとうございました」

 ニコラは真っ先に簡潔かつ丁寧な礼を述べ、深々と頭を下げた。それに続いてジャンとシェリーも、不慣れながらも見様見真似で礼式に沿った深さのお辞儀をした。

「「あ、ありがとうございました」」
「うむ。私も今日は楽しかった。礼を言うぞ。……さて。では彼らを寝室へ」

 国王は衛兵の一人に指示した。

「はっ! かしこまりました! ではご案内いたします」

 衛兵はジャンたちを寝室まで案内しようとした。

「あれ? ゲディさんはこのあとどうすんの?」

 そこでジャンがゲディに尋ねた。

「私は離れの公務員宿舎に戻ります。家族には遅くなると伝えてありますが、子どもたちが寝る前に帰らないと家内の機嫌が悪くなりますし。明日の十時にまた伺いますから、それまでしばしお別れです」
「ふーん。じゃ、また明日、よろしく頼むぜ」
「はい。では、おやすみなさい」
「「おやすみなさい」」

 三人はそこで国王たちと別れ、用意された寝室に向かった。

 国王はジャンたちが奥の廊下を曲がったところで、ぽつりと呟いた。

「ウジェーヌは素直な良い孫を持ったものだな」

 それを聞き、ゲディも笑みを浮かべた。

「私もそう思います」
「ゲディよ。私はおまえの魂胆がなんとなくわかった。彼を私に会わせたいというのも本心であろうが、一番の目的はあれだろう」
「陛下のご想像にお任せいたします」

 その言葉を聞いて国王はにやりと笑った。

「まあ、余計なお節介だと突っぱねられるかもしれぬがな。……さあ、今日はここらでお開きとしよう。ゲディよ、ご苦労であったな」
「ありがたきお言葉にございます。それでは、失礼いたします」
「うむ」

 話を終え、国王と王妃は目の前の寝室に、ゲディは公務員宿舎に戻った。

 それから少しして、ジャンたちは国王の用意した部屋に到着した。

「こちらになります」

 衛兵が扉を開けると、昼間訪れた高級感を演出したホテル……とは違い、本当に高級なものが並ぶ部屋がそこにあった。

 セミダブルのベッドが三台に、ウォルナット材と思われる派手さはないが丁寧に組み上げられた椅子とテーブル。すでに灯がともっていたランプはさりげなくも凝った細工が施され、その他の調度品も質が良く、落ち着いた雰囲気のもので統一されていた。

「はぁー。やっぱ国で一番偉い人が住んでる場所だけあんなー」

 ジャンは部屋を見渡しながら感心したように言った。

「シェリー。昼間のホテルみたいにキラキラしてねぇけど、ここのほうがずっと良さそうだぜ」
「うん……」
「シェリー?」

 シェリーは少しよそよそしかった。ジャンは一瞬なぜだかわからなかったが、もう何度も繰返しているのですぐに察しがついた。彼女はアレックスの話をされるのをあまり快く思っていない。

 ジャンは、はしゃがず騒がず、彼女の肩をぽんぽんと軽く叩いた。

「ごめんな。いつもいつも」

 みなまで言わなかった。それ以上は無粋だとわかっていたから、彼はそれだけに止めた。

「……別に。あんたがどうしようと、あたしには関係ないし……」

 怒っているわけでも、突き放したいわけでもない。シェリーはジャンの優しさが痛いほどわかるからこそ、素っ気ない態度で誤魔化すしかなかった。

 彼女はすたすたと歩いて奥のベッドで向こうを向いて横になった。ジャンもニコラも彼女の意を察し、それ以上は立ち入らなかった。

「あー、おじさん。案内ありがとう。あとは俺たちで勝手にやるよ」

 ジャンは振り返り、とりあえず衛兵にそう伝えた

「かしこまりました。私はこの部屋の警備も任されておりますので、次の者が来るまで廊下で待機しております。なにかお困りのことがございましたらなんなりとお申し付けください」
「ありがとう。俺たちみたいな田舎者相手に、なんか悪ぃな」
「とんでもございません。大切なご客人に対し当然の勤めです」
「そうなんだ。ま、俺たちも鍛えられてっから、強盗にでも入られたら言ってくれよ」
「お気遣い、痛み入ります。それではごゆっくり」

 衛兵はそう言って部屋を出た。

「……王宮に入る強盗なんていないんじゃないか?」
「あ、そっか。まあいざというときの話ってことで」

 ニコラがいつものように軽い突っ込みを入れると、ジャンもいつも通りの反応をした。

 そしてしばしの沈黙のあと、二人はむこうを向いて横になるシェリーを見て、顔を合わせた。

「腹もこなれてきたしよー、今日は早めに寝るか」
「そうだな。明日は七時半に朝食だから、早めに寝ておいたほうがよさそうだな」

 このまま起きていても間が持たず気まずいだけ。二人の考えは一致していた。

「シェリー、そういうことだから、よろしく頼むぜ」
「……うん。わかった」

 シェリーは振り返らずに答えた。

 そうして三人は静かに翌朝を待つことにした。
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