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第六章 父祖の土地へ
第二百四十八話 会ってもらいたい人
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しばらくして昼食が運ばれてきた。
カートに載せられた料理は、これといって食欲をそそる香がするわけでもなく、目を引くような華やかな見た目をしているわけでもなかった。
「失礼いたします。昼食をお持ちいたしました」
乗務員は一礼すると、料理の皿を順番に配膳しだした。
「「……」」
ジャンたちはその料理を見て、どう反応したらいいのか迷った。というのもその料理は、焼いて塩胡椒をかけた肉。温野菜。パン。何の変哲もないオニオンスープ。その他もろもろ。よく言えばシンプルだが、単なる手抜きととれなくもない代物だった。
「失礼いたしました」
乗務員はまた一礼して先頭車両に戻って行った。それを見計らってゲディは一言説明を加えた。
「この国の料理はこのようなものが多いのです。恥ずかしながら」
「「はあ」」
三人はなんと答えればいいのかわからなかった。
「土地柄手に入る食材が限られていたため、料理に関して誇れるような文化が育たなかったもので。まあ、毎日食べていれば慣れますが……。大したものではありませんが、冷めないうちにどうぞ」
「「い、いただきます」」
微妙な空気が流れる中、ともあれ空腹を満たすため、三人は料理に手をつけた。
「「……」」
口に含んでみて、ジャンたちはさらに途方に暮れた。それもそのはず。その料理は見た目通り味気ないものだったのだから。
「……な、なんて言うか、素材の味が活きてますよね」
シェリーは空気を読んで当たり障りのない感想を口にした。
「うん、このオニオンスープも玉ねぎのダシが効いてるというか……」
重ねてニコラもなんとか褒め言葉を絞り出した。
「……まあなんつーか、栄養だけはありそうだよな!」
最後にジャンが、精一杯のフォローのつもりで余計な事を言った。シェリーはすぐさま彼の足を踏んづけた。
「んぐっ!」
ジャンは横目でシェリーを見たが彼女は目を合わさず、空気を読めという雰囲気を醸し出すだけだった。
「無理に誉める必要はありませんよ。私もまったく美味しいとは思っていませんから」
ゲディは少し苦笑いしながらそう言った。ジャンたちの口元からは引きつった笑いがこぼれた。
料理があまりに味気ないせいか、話のタネが見つからず、四人はたまに外の景色を眺めつつ淡々と食事を口に運んだ。
ある程度片が付くと、ジャンは場の雰囲気を変えるついでに気がかりだったことをゲディに尋ねた。
「ゲディさん。俺たちがこれから会うっていう、この国の王様だけどさ……。俺のご先祖様のことどう思ってんのかな?」
「どう、と言いますと?」
ゲディは手を止め、ジャンのほうを見た。
「そのー、なんていうか、嫌ってたりしないかなーって」
「……それなら心配いりませんよ。陛下はそういった因縁にあまり興味がなさそうですので。むしろ追放された旧アナヴァン帝国の皇族のことは常々気にかけていらっしゃいます」
「そうなんだ」
ジャンは少し安心した。
「そうそう、国王陛下の他にもう一人、会っていただきたい方がいました」
「会っていただきたい方?」
どうやらゲディは個人的な興味と国王への手土産のためだけにジャンを連れ出したわけではなさそうだった。
「この国にも追放された旧アナヴァン帝国の重鎮がいるのです。その方と私は少々縁がありまして……。彼が私のことをどう思っているのかはわかりませんが、私としては彼のことが気がかりでしてね。高齢の上、私がフェーブルの領事館に勤めている間に奥方を癌で亡くされたようで、なんとか元気づけられないかと思いまして」
彼の言葉と表情には建前がないように見えた。むしろそれが本当の目的であるかのようにすら見えた。それを見てジャンは、なんとなく、ゲディの要望に応えなければならないような気がしてきた。
「わかったよ。俺、自分がそういう血筋だって未だに実感湧かねぇけどさ、その人が俺と会って元気になるっつーなら、会うよ」
「ありがとうございます。……やはりあなたは私の見込んだ通りの人のようです」
「え?」
「いえいえ、なんでもありませんよ」
「ふーん」
それから四人は食事を終え、乗務員が食器を下げ終えると座席にもたれて一腹した。
「私はしばらく本を読んで時間を潰します。お二人はニコラさんから存分に鉄道についてレクチャーしてもらってはいかがでしょう?」
「ええ、僕もそうしようと思っていました。さあジャン、シェリー。腹ごなしの運動がてら見学に行くぞ」
「「は、はは」」
ジャンとシェリーは揃って苦笑いをした。その後二人は、がらにもなくはしゃぐニコラに付き合い、蒸気機関車に関するうんちくをさんざ聞かされることとなった。
カートに載せられた料理は、これといって食欲をそそる香がするわけでもなく、目を引くような華やかな見た目をしているわけでもなかった。
「失礼いたします。昼食をお持ちいたしました」
乗務員は一礼すると、料理の皿を順番に配膳しだした。
「「……」」
ジャンたちはその料理を見て、どう反応したらいいのか迷った。というのもその料理は、焼いて塩胡椒をかけた肉。温野菜。パン。何の変哲もないオニオンスープ。その他もろもろ。よく言えばシンプルだが、単なる手抜きととれなくもない代物だった。
「失礼いたしました」
乗務員はまた一礼して先頭車両に戻って行った。それを見計らってゲディは一言説明を加えた。
「この国の料理はこのようなものが多いのです。恥ずかしながら」
「「はあ」」
三人はなんと答えればいいのかわからなかった。
「土地柄手に入る食材が限られていたため、料理に関して誇れるような文化が育たなかったもので。まあ、毎日食べていれば慣れますが……。大したものではありませんが、冷めないうちにどうぞ」
「「い、いただきます」」
微妙な空気が流れる中、ともあれ空腹を満たすため、三人は料理に手をつけた。
「「……」」
口に含んでみて、ジャンたちはさらに途方に暮れた。それもそのはず。その料理は見た目通り味気ないものだったのだから。
「……な、なんて言うか、素材の味が活きてますよね」
シェリーは空気を読んで当たり障りのない感想を口にした。
「うん、このオニオンスープも玉ねぎのダシが効いてるというか……」
重ねてニコラもなんとか褒め言葉を絞り出した。
「……まあなんつーか、栄養だけはありそうだよな!」
最後にジャンが、精一杯のフォローのつもりで余計な事を言った。シェリーはすぐさま彼の足を踏んづけた。
「んぐっ!」
ジャンは横目でシェリーを見たが彼女は目を合わさず、空気を読めという雰囲気を醸し出すだけだった。
「無理に誉める必要はありませんよ。私もまったく美味しいとは思っていませんから」
ゲディは少し苦笑いしながらそう言った。ジャンたちの口元からは引きつった笑いがこぼれた。
料理があまりに味気ないせいか、話のタネが見つからず、四人はたまに外の景色を眺めつつ淡々と食事を口に運んだ。
ある程度片が付くと、ジャンは場の雰囲気を変えるついでに気がかりだったことをゲディに尋ねた。
「ゲディさん。俺たちがこれから会うっていう、この国の王様だけどさ……。俺のご先祖様のことどう思ってんのかな?」
「どう、と言いますと?」
ゲディは手を止め、ジャンのほうを見た。
「そのー、なんていうか、嫌ってたりしないかなーって」
「……それなら心配いりませんよ。陛下はそういった因縁にあまり興味がなさそうですので。むしろ追放された旧アナヴァン帝国の皇族のことは常々気にかけていらっしゃいます」
「そうなんだ」
ジャンは少し安心した。
「そうそう、国王陛下の他にもう一人、会っていただきたい方がいました」
「会っていただきたい方?」
どうやらゲディは個人的な興味と国王への手土産のためだけにジャンを連れ出したわけではなさそうだった。
「この国にも追放された旧アナヴァン帝国の重鎮がいるのです。その方と私は少々縁がありまして……。彼が私のことをどう思っているのかはわかりませんが、私としては彼のことが気がかりでしてね。高齢の上、私がフェーブルの領事館に勤めている間に奥方を癌で亡くされたようで、なんとか元気づけられないかと思いまして」
彼の言葉と表情には建前がないように見えた。むしろそれが本当の目的であるかのようにすら見えた。それを見てジャンは、なんとなく、ゲディの要望に応えなければならないような気がしてきた。
「わかったよ。俺、自分がそういう血筋だって未だに実感湧かねぇけどさ、その人が俺と会って元気になるっつーなら、会うよ」
「ありがとうございます。……やはりあなたは私の見込んだ通りの人のようです」
「え?」
「いえいえ、なんでもありませんよ」
「ふーん」
それから四人は食事を終え、乗務員が食器を下げ終えると座席にもたれて一腹した。
「私はしばらく本を読んで時間を潰します。お二人はニコラさんから存分に鉄道についてレクチャーしてもらってはいかがでしょう?」
「ええ、僕もそうしようと思っていました。さあジャン、シェリー。腹ごなしの運動がてら見学に行くぞ」
「「は、はは」」
ジャンとシェリーは揃って苦笑いをした。その後二人は、がらにもなくはしゃぐニコラに付き合い、蒸気機関車に関するうんちくをさんざ聞かされることとなった。
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